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第4章 灼眼虎狼編
第264話 悪友たち
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「ノエル、金くれ」
「えぇ…………ギルド行ってみようよ」
ノエルの謹慎も解け、ギルドの体質も一部改善し、大公経由でアラタへの理不尽な対応に厳重注意が入るとともに、誤解の無いように彼とクリスの前職についても少し開示があった。
これでめでたしめでたし、4人で冒険者を頑張ろうと言われても、本人が納得しない。
当たり前のことだが、アラタはギルドの職員が嫌いだ。
自分を陥れた人間が消えたのは及第点だが、それに同調して自分のことを叩いてきた人間に好意的に接することが出来ないのは実に人間らしい。
そしてクエストを受けに行くことを適当な理由を付けて断り続けているアラタは、ノエルに金を無心し始めた。
初めは銀貨2枚。
徐々に要求はエスカレートしていたが、言葉巧みにノエルから便宜を引き出す。
他には頼めない、頼りにしてる、今度はクエスト受けるから、今度返すから。
そう言って彼は金をたかり続けた。
「ねえアラタ、明日は……」
「体調悪いからパス。病院行くから金貸して」
「それはいいけど…………」
アラタもアラタだが、ノエルも大概である。
アラタを置いて3人がクエストに行っている間、初めの2日間は家でゴロゴロしていたアラタだが、シルの目が冷たい。
「アラタ、嘘ばっかり」
「頭痛いから」
「ウソつき」
シルキーとのリンクは健在で、アラタは基本的にシルに隠し事は出来ない構造になっている。
だから彼は家を出た。
なけなしの金を握り締めて、昼間からふらふらと遊び歩いた。
ギャンブル、酒、煙草。
とりあえず考えられる遊びは大体やってみて、それでも彼の心は満たされない。
昼間から飲んでいると、それに釣られて似たような人種も近づいてくる。
「おうアラタ、今日の調子は?」
「ボチボチ。お前は?」
「勝ったぜ。きっかり2倍だ」
「おごれよ。前に金貸しただろ」
アラタの言っているのは今から半年以上前になるカジノでの貸し借りのことだ。
あの時カイルはアラタが全財産を失う手助けをしている。
しかし、そんな前のことをこのカイルが覚えているはずがない。
もし仮に覚えていたとしても、知っていると答えるはずがない。
「忘れた。それより今日は大人の店行ってみねえか?」
淫靡な表現にアラタの期待は高まる。
異世界に来てからというもの、彼も寂しい日々を過ごしてきただけにこの手の誘いは悪くない。
「俺たち2人?」
「いや、あと2,3人は確定で来る」
「分かってんじゃねえか」
それから2人はもう少し酒を飲み、川で釣りをしながら酒を浴び、30分おきにタバコを吸いに席を立ち、それからぶらぶらと街を歩いていた。
そんな適当な時間の過ごし方をしていると時はあっという間に流れていき、陽が沈む。
そうなるとアトラの街の一部は営業を開始する。
いわゆる歓楽街というやつだ。
首都、それも大公選前に比べて治安が改善されたと言ってもこの辺りはそこまで変わらない。
暴力組織の排除が徹底されたとしても、隠れ蓑に利用されていた店そのものは基本的に残り続ける。
そうなればアラタたちが夜遊びをするには十分な区画が今も金を運ぶカモを待ち構えているのだ。
「んだよ、キャバクラかよ」
もう少し上というか下の期待をしていたアラタは露骨にがっかりする。
わざわざ服まで着替えてきたというのに、と愚痴を溢す。
「そう言うなって。これはこれで楽しいぞ。何せ全員俺たちのこと褒めてくれるからな」
「そーいうもんなのか」
「大人の階段上ろうぜ、アラタ!」
アラタ、カイル、そしてその友達の3人を加えて、一行は店の中に入っていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
………………悪くない。
それがアラタの第一印象だった。
「Bランクって凄いですね~。カナンでも1桁に入る使い手ってことですよね」
「まぁ、そんな感じです」
「凄ぉい。そんな人がどうしてカイルさんと一緒に?」
「ちょっと酷いよレナちゃん。俺のことも持ち上げてよ」
「え~、じゃぁ……」
レナという源氏名の女性は空いた高級酒の瓶をちらりと見る。
追加で頼め、そういうことらしい。
「よっしゃ、ベルエポック5本!」
カイル曰く、ここではこうして頼むということで、先ほどからアラタも結構な金額の注文を繰り返している。
年頃の女性が綺麗に着飾って隣に座り、酒を注ぎながら自分の話を聞いて、自分のことをほめちぎってくれる。
厳密には違うが、キャバクラとはそういう物だ。
もっと他に高度な楽しみ方をすることも出来るが、初心者やカイルたちのような小者の遊び方と言えばせいぜいそんなところ。
アラタも例に洩れず、かなり楽しんでいる。
酔いも回ってきて、口も軽くなっている。
「俺ぁ、もうヤなんだよ。冒険者なんてキツいし臭いし危険だし。3Kだよ3K。3三振だよ」
「三振?」
「あー、なんでもない」
野球、つまり異世界の事を話すのはタブーだと彼の残り僅かな理性がブレーキを掛けた。
しかしだいぶ酔いが回っていることも事実、さっきから彼の視界は朧げになりつつある。
「アラタさん?」
「先に払っとく。いくら?」
「えぇーっと」
どんぶり勘定で構わないからという彼の言葉に、レナはチャージ料とボトル代金を暗算する。
「金貨2枚になります」
「おっけ。これでよろしく」
「おいおいもう帰るのかよ」
「ちょっと独りで飲んでくる。気が向いたら戻ってくる」
「んだよそれ」
「じゃーな」
フロントで刀を受け取り、肩からかける。
店から出た彼を出迎えたのは、季節が逆戻りした冷たい夜の風だった。
手に持っていたケープを羽織ると、アラタは最近入り浸っている居酒屋に入店した。
カウンター席で、適当な酒を頼む。
それと同時に灰皿を受け取って、さっそく火を点けた。
不健康な煙が口に入ってきて、それを肺に入れる。
それと酒を飲んでいる時だけは、他のことを忘れることが出来ると、彼は薬物に依存していた。
もともと副作用の大きなポーションなどを日常的に常用していた彼は、こういったものにハマりやすい。
戦闘中に正常な判断能力を失うようでは本末転倒でも、今は戦いから距離を置いている。
酒も煙草も、ポーションの延長線上にあった。
酒が来て、つまみが来て、煙草と合わせた魔の三角食べが開始される。
吸って、飲んで、食べて、また吸って。
それの繰り返し。
頑強な肉体には、頑強な内臓がついてくる。
浴びるようにアルコールを摂取して、ニコチンを体に取り込んでも、アラタは倒れそうにない。
時刻は夜1時半。
そろそろ店の終わりの時間が近づいてきた。
「銀貨一枚だ」
「はい、ごちそうさまでした」
今から戻っても、もういないだろうな。
カイルのアホ面が頭に浮かんだアラタは、彼を無視してそのまま帰ることにした。
向こうもアラタが戻ってくるとは思っていまい。
朧げな視界に、おぼつかない足取りで屋敷への道を歩いていく。
異世界にまでやって来て、いったい自分は何をしているのだろうと、そう彼も思っている。
しかし、彼には他に何もないのだ。
最愛の人を失って、それでもギリギリ生きて行こうと思えて、そしてまた絶望した。
人並み以上に才能に恵まれた自覚はあっても、その才能は人並み以上の壁の前にアラタを立たせた。
常人の域を外れれば外れるほど、高く分厚い壁の前に、彼は絶望する。
それが己の努力や才覚で越えられるものならばまだしも、全ての障害がそう言ったものばかりとは限らない。
隣を走っていたはずの同業者に足を引っ張られることもあれば、壁の上から石を投げてくる連中もいる。
挙句走りもしない連中から馬鹿にされる。
人間社会では弱者がイジメられるのか。
そうではない。
人の世では、普通の範疇から出た人間が排斥されるのだ。
通常よりも長い時間をかけて、アラタは屋敷に到着した。
門をこじ開けて、玄関のカギを探した。
一瞬失くしたのかと思ってヒヤッとして、ポケットの奥底に金属の感触を得る。
それを差し込んで回して扉を開くと、玄関に立っていたのはクリスだった。
「遅かったな」
「あぁ」
「今何時だと思っている」
「知らねーよ。夜」
「2時過ぎだ。いい加減にしろ」
「お前は俺の親なのかよ」
「特殊配達課からの仲間だ」
「うっぜー」
そう言いながらアラタは靴を脱ぎ、玄関を上がろうとする。
「おい、話はまだ——」
「触んな」
クリスの手を跳ねのけて、アラタは階段を上がっていく。
酒と煙草の匂いが鼻につく。
「飲み過ぎだ。それに煙草も少し控えろ」
「うっせえ」
階段を上がり、部屋に戻った。
刀を無造作に投げ捨てて、上着を脱ぐ。
遊びに出る前にシャワーは浴びたが、それでも少し汚い。
服も着替えずにベッドの中に入ると、自分の息が臭いことに気が付く。
まるきり喫煙所のような臭いに、アラタは顔をしかめたが起き上がることもせずにそのまま目を閉じた。
彼は最近夢を見る。
レム睡眠、ノンレム睡眠とあるが、夢を見るのはレム睡眠中、つまり眠りが浅い時。
元の世界の夢、エリザベスが出てくる夢、様々な種類はあれど、結末はいつもバッドエンド。
肩を壊し、恋人と離れ離れになり、彼女を斬り、敗北する。
そしていつも気が付いた時には汗をびっしょりとかいていて、決まってシャワーを浴びる。
それが大体朝の、というか昼の11時。
ノエルたちはとっくに出かけていて、シルもどこかに行ったのか姿が見えない。
台所にあるもので適当に朝食を取り、庭に出て一服する。
出かける用事も無ければ、仕事もない。
そして今日はノエルからの金も無かった。
いつもならアラタが寝ていても分かるところに金貨なり銀貨なり置いているはずだが、今日はそれが無い。
もう見限られたのだと彼が考えるには十分な理由だった。
——結局迷惑かけただけだったな。
ほんの少しの罪悪感と、果てしない無力感に満ちている。
出て行こうかとも考えた彼だったが、準備をすることすら面倒くさい。
夕方になってふらふらしていれば、また誰か見つけることが出来るだろう。
そう考えてアラタは2度寝することにした。
「えぇ…………ギルド行ってみようよ」
ノエルの謹慎も解け、ギルドの体質も一部改善し、大公経由でアラタへの理不尽な対応に厳重注意が入るとともに、誤解の無いように彼とクリスの前職についても少し開示があった。
これでめでたしめでたし、4人で冒険者を頑張ろうと言われても、本人が納得しない。
当たり前のことだが、アラタはギルドの職員が嫌いだ。
自分を陥れた人間が消えたのは及第点だが、それに同調して自分のことを叩いてきた人間に好意的に接することが出来ないのは実に人間らしい。
そしてクエストを受けに行くことを適当な理由を付けて断り続けているアラタは、ノエルに金を無心し始めた。
初めは銀貨2枚。
徐々に要求はエスカレートしていたが、言葉巧みにノエルから便宜を引き出す。
他には頼めない、頼りにしてる、今度はクエスト受けるから、今度返すから。
そう言って彼は金をたかり続けた。
「ねえアラタ、明日は……」
「体調悪いからパス。病院行くから金貸して」
「それはいいけど…………」
アラタもアラタだが、ノエルも大概である。
アラタを置いて3人がクエストに行っている間、初めの2日間は家でゴロゴロしていたアラタだが、シルの目が冷たい。
「アラタ、嘘ばっかり」
「頭痛いから」
「ウソつき」
シルキーとのリンクは健在で、アラタは基本的にシルに隠し事は出来ない構造になっている。
だから彼は家を出た。
なけなしの金を握り締めて、昼間からふらふらと遊び歩いた。
ギャンブル、酒、煙草。
とりあえず考えられる遊びは大体やってみて、それでも彼の心は満たされない。
昼間から飲んでいると、それに釣られて似たような人種も近づいてくる。
「おうアラタ、今日の調子は?」
「ボチボチ。お前は?」
「勝ったぜ。きっかり2倍だ」
「おごれよ。前に金貸しただろ」
アラタの言っているのは今から半年以上前になるカジノでの貸し借りのことだ。
あの時カイルはアラタが全財産を失う手助けをしている。
しかし、そんな前のことをこのカイルが覚えているはずがない。
もし仮に覚えていたとしても、知っていると答えるはずがない。
「忘れた。それより今日は大人の店行ってみねえか?」
淫靡な表現にアラタの期待は高まる。
異世界に来てからというもの、彼も寂しい日々を過ごしてきただけにこの手の誘いは悪くない。
「俺たち2人?」
「いや、あと2,3人は確定で来る」
「分かってんじゃねえか」
それから2人はもう少し酒を飲み、川で釣りをしながら酒を浴び、30分おきにタバコを吸いに席を立ち、それからぶらぶらと街を歩いていた。
そんな適当な時間の過ごし方をしていると時はあっという間に流れていき、陽が沈む。
そうなるとアトラの街の一部は営業を開始する。
いわゆる歓楽街というやつだ。
首都、それも大公選前に比べて治安が改善されたと言ってもこの辺りはそこまで変わらない。
暴力組織の排除が徹底されたとしても、隠れ蓑に利用されていた店そのものは基本的に残り続ける。
そうなればアラタたちが夜遊びをするには十分な区画が今も金を運ぶカモを待ち構えているのだ。
「んだよ、キャバクラかよ」
もう少し上というか下の期待をしていたアラタは露骨にがっかりする。
わざわざ服まで着替えてきたというのに、と愚痴を溢す。
「そう言うなって。これはこれで楽しいぞ。何せ全員俺たちのこと褒めてくれるからな」
「そーいうもんなのか」
「大人の階段上ろうぜ、アラタ!」
アラタ、カイル、そしてその友達の3人を加えて、一行は店の中に入っていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
………………悪くない。
それがアラタの第一印象だった。
「Bランクって凄いですね~。カナンでも1桁に入る使い手ってことですよね」
「まぁ、そんな感じです」
「凄ぉい。そんな人がどうしてカイルさんと一緒に?」
「ちょっと酷いよレナちゃん。俺のことも持ち上げてよ」
「え~、じゃぁ……」
レナという源氏名の女性は空いた高級酒の瓶をちらりと見る。
追加で頼め、そういうことらしい。
「よっしゃ、ベルエポック5本!」
カイル曰く、ここではこうして頼むということで、先ほどからアラタも結構な金額の注文を繰り返している。
年頃の女性が綺麗に着飾って隣に座り、酒を注ぎながら自分の話を聞いて、自分のことをほめちぎってくれる。
厳密には違うが、キャバクラとはそういう物だ。
もっと他に高度な楽しみ方をすることも出来るが、初心者やカイルたちのような小者の遊び方と言えばせいぜいそんなところ。
アラタも例に洩れず、かなり楽しんでいる。
酔いも回ってきて、口も軽くなっている。
「俺ぁ、もうヤなんだよ。冒険者なんてキツいし臭いし危険だし。3Kだよ3K。3三振だよ」
「三振?」
「あー、なんでもない」
野球、つまり異世界の事を話すのはタブーだと彼の残り僅かな理性がブレーキを掛けた。
しかしだいぶ酔いが回っていることも事実、さっきから彼の視界は朧げになりつつある。
「アラタさん?」
「先に払っとく。いくら?」
「えぇーっと」
どんぶり勘定で構わないからという彼の言葉に、レナはチャージ料とボトル代金を暗算する。
「金貨2枚になります」
「おっけ。これでよろしく」
「おいおいもう帰るのかよ」
「ちょっと独りで飲んでくる。気が向いたら戻ってくる」
「んだよそれ」
「じゃーな」
フロントで刀を受け取り、肩からかける。
店から出た彼を出迎えたのは、季節が逆戻りした冷たい夜の風だった。
手に持っていたケープを羽織ると、アラタは最近入り浸っている居酒屋に入店した。
カウンター席で、適当な酒を頼む。
それと同時に灰皿を受け取って、さっそく火を点けた。
不健康な煙が口に入ってきて、それを肺に入れる。
それと酒を飲んでいる時だけは、他のことを忘れることが出来ると、彼は薬物に依存していた。
もともと副作用の大きなポーションなどを日常的に常用していた彼は、こういったものにハマりやすい。
戦闘中に正常な判断能力を失うようでは本末転倒でも、今は戦いから距離を置いている。
酒も煙草も、ポーションの延長線上にあった。
酒が来て、つまみが来て、煙草と合わせた魔の三角食べが開始される。
吸って、飲んで、食べて、また吸って。
それの繰り返し。
頑強な肉体には、頑強な内臓がついてくる。
浴びるようにアルコールを摂取して、ニコチンを体に取り込んでも、アラタは倒れそうにない。
時刻は夜1時半。
そろそろ店の終わりの時間が近づいてきた。
「銀貨一枚だ」
「はい、ごちそうさまでした」
今から戻っても、もういないだろうな。
カイルのアホ面が頭に浮かんだアラタは、彼を無視してそのまま帰ることにした。
向こうもアラタが戻ってくるとは思っていまい。
朧げな視界に、おぼつかない足取りで屋敷への道を歩いていく。
異世界にまでやって来て、いったい自分は何をしているのだろうと、そう彼も思っている。
しかし、彼には他に何もないのだ。
最愛の人を失って、それでもギリギリ生きて行こうと思えて、そしてまた絶望した。
人並み以上に才能に恵まれた自覚はあっても、その才能は人並み以上の壁の前にアラタを立たせた。
常人の域を外れれば外れるほど、高く分厚い壁の前に、彼は絶望する。
それが己の努力や才覚で越えられるものならばまだしも、全ての障害がそう言ったものばかりとは限らない。
隣を走っていたはずの同業者に足を引っ張られることもあれば、壁の上から石を投げてくる連中もいる。
挙句走りもしない連中から馬鹿にされる。
人間社会では弱者がイジメられるのか。
そうではない。
人の世では、普通の範疇から出た人間が排斥されるのだ。
通常よりも長い時間をかけて、アラタは屋敷に到着した。
門をこじ開けて、玄関のカギを探した。
一瞬失くしたのかと思ってヒヤッとして、ポケットの奥底に金属の感触を得る。
それを差し込んで回して扉を開くと、玄関に立っていたのはクリスだった。
「遅かったな」
「あぁ」
「今何時だと思っている」
「知らねーよ。夜」
「2時過ぎだ。いい加減にしろ」
「お前は俺の親なのかよ」
「特殊配達課からの仲間だ」
「うっぜー」
そう言いながらアラタは靴を脱ぎ、玄関を上がろうとする。
「おい、話はまだ——」
「触んな」
クリスの手を跳ねのけて、アラタは階段を上がっていく。
酒と煙草の匂いが鼻につく。
「飲み過ぎだ。それに煙草も少し控えろ」
「うっせえ」
階段を上がり、部屋に戻った。
刀を無造作に投げ捨てて、上着を脱ぐ。
遊びに出る前にシャワーは浴びたが、それでも少し汚い。
服も着替えずにベッドの中に入ると、自分の息が臭いことに気が付く。
まるきり喫煙所のような臭いに、アラタは顔をしかめたが起き上がることもせずにそのまま目を閉じた。
彼は最近夢を見る。
レム睡眠、ノンレム睡眠とあるが、夢を見るのはレム睡眠中、つまり眠りが浅い時。
元の世界の夢、エリザベスが出てくる夢、様々な種類はあれど、結末はいつもバッドエンド。
肩を壊し、恋人と離れ離れになり、彼女を斬り、敗北する。
そしていつも気が付いた時には汗をびっしょりとかいていて、決まってシャワーを浴びる。
それが大体朝の、というか昼の11時。
ノエルたちはとっくに出かけていて、シルもどこかに行ったのか姿が見えない。
台所にあるもので適当に朝食を取り、庭に出て一服する。
出かける用事も無ければ、仕事もない。
そして今日はノエルからの金も無かった。
いつもならアラタが寝ていても分かるところに金貨なり銀貨なり置いているはずだが、今日はそれが無い。
もう見限られたのだと彼が考えるには十分な理由だった。
——結局迷惑かけただけだったな。
ほんの少しの罪悪感と、果てしない無力感に満ちている。
出て行こうかとも考えた彼だったが、準備をすることすら面倒くさい。
夕方になってふらふらしていれば、また誰か見つけることが出来るだろう。
そう考えてアラタは2度寝することにした。
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