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第5章 第十五次帝国戦役編
第387話 フィエルボアの剣(レイクタウン攻囲戦12)
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「モルトク、敵の新手みたいだ」
「だな」
名前を呼ばれた偉丈夫は、細め短めに見える剣で袈裟に斬り捨てた後、短く応えた。
剣にはウル帝国の高名な鍛冶職人の銘が彫られており、装飾も実用性を損ねないレベルの中では非常に美しい。
寸法としては普通か少し大きいくらい、92cmのロングソード。
ただ、モルトクの身体が大きすぎて小さく見えてしまうものだから公国兵は目測を見誤って死体の山を築いていた。
「ベネットいる?」
「なにー?」
少し遠くから反応があった。
大勢が入り乱れるこの戦場でよくもまあ聞こえるものだ。
ベネット・オ・ヒューズはモルトク・フォン・マクシミリアンと幼馴染で、その付き合いは実にモルトクが1歳、ベネットが0歳の頃から始まっている。
ベネットが声が届く位置にいることを知ったモルトクは、さらに1人の腕を斬り飛ばしながら叫んだ。
「新手だ! 評価しろ!」
「いいんじゃない? A級はいなそうだよ」
「よし。というわけでマルコム、残念ながら戦闘は継続される」
「べ、別に休みたいわけじゃないし」
「だといいな」
この会話が終わるまでに、すでに3人、モルトクの手に掛かって公国兵が命を落としていた。
負傷者は2人いて、他の帝国兵に殺される人数を合わせると既に撤退を判断するラインにまで来ていた。
この場所を受け持っていた指揮官は己の不運を呪うしかない。
今日たまたま、モルトク率いる騎士団がこの場に来たから彼の部下は死んだのだ。
だが、部分的にいいようにされても全体では対処しなければ、戦争自体に負けてしまう。
そんな司令部の無茶ぶりに応えるべく、彼らは派遣された。
「乱戦だと味方に当たる。魔術も弓ももう少し味方が整理できてからだ」
そう言いつつ、アラタは屋根から飛び降りた。
ふわりと着地したこともあるだろうが、誰もアラタ、キィ、リャンに気づいていない。
そのままアラタは戦場を駆け抜けて、公国兵の死体が山ほど転がっている広場のど真ん中に斬り込んだ。
「今日1日保たせるぞ」
「ダメダメ、殺す気でやらなきゃ」
「……確かに。じゃあ死ね」
モルトクやベネット、マルコムと同じ装備に身を包んだ兵士と組み合ったアラタは、早々に鍔迫り合いを解除しつつ距離を取る。
乱戦で背後から迫りくる帝国兵の足を横薙ぎにして、倒れたところを首元にとどめの一撃。
一合斬り合っただけで分かる、強敵だった。
「フェンリル騎士団所属、オズウェル・カウニッジ上級騎士」
「へー」
「お前も名乗れよ」
「……ディラン・ウォーカー」
「………………!」
「バカ発見~」
「くっそ、嵌められた!」
「キィ、アーキムの方に回れ。リャンは俺に付け」
「「了解」」
キィは乱戦の中に消え、2対1、アラタが有利な状況だけが残る。
「お前らを殺してミスを取り返す」
「あっそ。リャン、タイミングは任せる」
「分かりました」
迅速に処理して他のカバーに回らなければ。
そう考えるアラタとリャンの前に立ちはだかるのは、こちらも早く2人を抹殺してミスを帳消しにしたいオズウェル上級騎士。
恐らく短時間で決着が着くであろう好カードが、開始された。
※※※※※※※※※※※※※※※
取り巻き連中が少なかったのが幸いだったな。
第152中隊長のベロンは周囲に転がっている帝国兵の死体を見てそう考えていた。
乱戦に割って入り、スペースを確保した時点で、周囲の敵の掃討はほとんど完了していた。
こちらの増援が500からなるのに対して、敵軍はせいぜい200やそこら。
さらに元々この場で戦う公国軍がいることを考えれば、まあ当然の結末である。
人の波でごった返している内部にいた帝国兵士たちは騎士団を除いて捕縛もしくは殺害され、周囲にいた兵士は完全にシャットアウトされた。
時間経過で帝国兵が追加される可能性を考慮すれば楽観視は出来ないにしても、まずまずの滑り出しである。
さて、とベロンが内部の戦いに注視したその時だった。
「避けてェ!」
「カッハ…………」
「中隊長殿!」
あとでベロンの身体を確認した兵士によると、正中線に従って首元に真ん丸な穴が空いていた上に、首の骨が消し飛んでいたという。
赤ん坊の首より不安定になった頭部を揺らしながら、ベロンは馬から落ちた。
今日の戦いで、中隊長の中では一番初めの戦死者だった。
「……まず1人」
近づき過ぎた301の隊員から奪い取った槍で、ベロン中隊長の首を貫いたマルコム・ルードウィングは小さく気を吐いた。
ほんの少しの隙も、この敵には与えてはいけない。
取り返しのつかない結果を以て学習したアーキムは、至急陣形を変更させようとした。
「1192小隊以外は下がれ! 不用意に距離を詰めるな!」
大音響で叫ぶ彼の喉は、きっと今日1日持たない。
「弱みを晒しちゃぁ、終いでしょう」
仄かに笑ったマルコムは、意図的に301の平隊員の方へと斬り込んでいく。
非常に悪質かつ、効果的な判断だった。
早急に間に割って入らなければ、そう判断を急ぎ過ぎた1192小隊の人間たちはマルコム以外の騎士団のメンバーに対する注意力が散漫になってしまったからだ。
「デリンジャー!」
横っ腹にデカいのを貰ってしまい、うずくまる彼のカバーにウォーレンが入る。
さらにそのカバーとしてテッド、カイが介入した。
「これ、1日保つわけねえだろ」
カイがネガティブなことを口走った。
だいたいこういう時は、テッドが何とかするものと相場が決まっている。
「出来るようになるんだよ」
「あーもう、この職場辞めたい」
「生き残れたら隊長が辞表受け取ってくれるかもな」
「あの人絶対破くだろ」
「確かに」
マルコムや他の敵を前にしてもこんなやり取りが出来るほど、彼らには余裕が生まれてきた。
何より、ハルツ率いる小隊も戦闘に参加しているのが非常に大きい。
クラーク家とは浅からぬ関係の者もいるのだが、彼らは全てを飲み込んでくれている。
それは他ならぬ、アラタの頼みだったから。
最低でも戦争が終わるまでは、過去のことは一度忘れていてほしいと、そう頭を下げられたから。
しょうがないなぁ、そう言いながら、アーキム達は承諾している。
そんなこともあって、不思議なことに戦場で肩を並べて戦っていた。
「まあ、アラタさんが到着するまで保たせないと、居残り練習は嫌だ」
「だな」
50人近くで6人を取り囲んでようやく均衡を保っているこの状態。
非常に危うい綱渡りのような状況は、なおも継続されるようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
「だーくそ、こいつ……Bランク以上あるだろ」
「ですね。これは中々……」
乱戦がほぼ終了し、騎士団対公国軍の精鋭という構図が固まってから数分間、アラタはリャンの援護を受けていながらオズウェルを仕留めきれずにいた。
押しているのは2人の方だが、どうにも攻めきれない。
魔術の効きが悪く、そのうえ魔術抜きの戦闘では相手を崩しきれない。
「お前さ、騎士団の中で何番目に強い?」
先ほどの墓穴を反省しているのか、口を開きそうにない。
「黙秘ね。まあいいや」
アラタが大上段に構えたのを、オズウェルは見逃した。
動かなかったのでなく、動けなかった。
リャンがそのカバーに入っているせいで、隙に打ち込むことが中々できそうにない。
魔術の大家フェンリル家に代々仕えているフェンリル騎士団。
騎士団の全容は非常に巨大な構図を取っているため、たった8名しかいない彼らが騎士団の全てというのは誤りである。
しかし、1千に届きそうなほどの構成員を持つ騎士団内部において、モルトクやオズウェルたち8人が占める立場が大きいのもまた事実だった。
フィエルボアの剣と呼ばれる精鋭のことである。
アリソン・フェンリル直属の従者として戦う騎士たちは、多くの階級に分かれている騎士の中でも最上位の1つ下、上級騎士のみで構成されている。
それはまるで大企業の特定の部門のように、直接命令権がある部下が存在せず、評価責任も管理責任も発生しない、ほぼ完全な独立部門。
近隣諸国に非常に大きな影響力を持つ大国家ウル帝国。
その中でもより一層の上澄みと考えれば、アラタたちと互角かそれ以上にやり合えるのも頷ける話だ。
「リャン、俺のフォローを頼む」
「了解です」
一方アラタ、本当の名を千葉新。
彼はかつて、日本で最も有名且つ稼げるスポーツ、野球で世代No1ピッチャーと呼ばれた男。
当時15万人以上いた高校球児の中で、最もピッチャーとして優れていたと誰もが評している。
そして、最高の原石は世界を渡り、フィールドを変え、握るものをボールから刀に変えた。
手は再びマメだらけになり、血に汚れ、負けが続き、大切な人の命さえも掌から零れ落ちていった。
それでも、彼は未だに戦場に立っている。
一体何が彼をそこまで駆り立てるのか。
どんなモチベーションで生きているのか。
そんなものを推測したり、聞いたりする意味はない。
事実として、たった1つだけ担保されていればいいものを、彼は既に持っている。
——運命を斬り拓く強さ。
大上段に構え、ジリジリと距離を詰めるアラタ。
それを真正面から受けようと、剣を正面に構えるオズウェル。
アラタをフォローするために僅かに後ろに控えているリャン。
それ以外は、この場には介入してこない。
オズウェルが先に動いた。
「…………お前が……グフッ、食材か」
「意味が分かりません」
大上段から流麗な太刀筋で胴打ちを決めたアラタは、リーチの差もあってノーダメージ。
倒れ込むオズウェルに対して間髪入れずにリャンが剣を突き立てた頃には、彼は既に息絶えていた。
「逃げられてたら面倒だったな」
「まったくです。こんなのがウヨウヨいるなんて、全然知りませんでしたよ」
「お前もキィも、元工作員なのに全然知らないのな」
「本当に、笑っちゃいますよね」
「笑い事じゃないが」
「……ですよね~」
上級騎士がどれほど凄いのかよく分かっていないアラタは、オズウェルを仕留めた達成感よりもその前に交わした会話の内容が気になっていた。
ディラン・ウォーカーがこの戦場に来ている。
そう断言できるだけの反応を、確かに見た。
彼は正直、今年に入ってから帝国で会った時の感想として、まだ勝てないと感じていた。
見えている部分だけでも勝てないし、相手は全てを見せていない。
かなり厳しい戦いになりそうだと、アラタは覚悟する。
公国軍の主な被害、第152中隊長ベロンの戦死。
帝国軍の主な被害、フィエルボアの剣、上級騎士オズウェル・カウニッジの戦死。
戦いは始まったばかりだ。
「だな」
名前を呼ばれた偉丈夫は、細め短めに見える剣で袈裟に斬り捨てた後、短く応えた。
剣にはウル帝国の高名な鍛冶職人の銘が彫られており、装飾も実用性を損ねないレベルの中では非常に美しい。
寸法としては普通か少し大きいくらい、92cmのロングソード。
ただ、モルトクの身体が大きすぎて小さく見えてしまうものだから公国兵は目測を見誤って死体の山を築いていた。
「ベネットいる?」
「なにー?」
少し遠くから反応があった。
大勢が入り乱れるこの戦場でよくもまあ聞こえるものだ。
ベネット・オ・ヒューズはモルトク・フォン・マクシミリアンと幼馴染で、その付き合いは実にモルトクが1歳、ベネットが0歳の頃から始まっている。
ベネットが声が届く位置にいることを知ったモルトクは、さらに1人の腕を斬り飛ばしながら叫んだ。
「新手だ! 評価しろ!」
「いいんじゃない? A級はいなそうだよ」
「よし。というわけでマルコム、残念ながら戦闘は継続される」
「べ、別に休みたいわけじゃないし」
「だといいな」
この会話が終わるまでに、すでに3人、モルトクの手に掛かって公国兵が命を落としていた。
負傷者は2人いて、他の帝国兵に殺される人数を合わせると既に撤退を判断するラインにまで来ていた。
この場所を受け持っていた指揮官は己の不運を呪うしかない。
今日たまたま、モルトク率いる騎士団がこの場に来たから彼の部下は死んだのだ。
だが、部分的にいいようにされても全体では対処しなければ、戦争自体に負けてしまう。
そんな司令部の無茶ぶりに応えるべく、彼らは派遣された。
「乱戦だと味方に当たる。魔術も弓ももう少し味方が整理できてからだ」
そう言いつつ、アラタは屋根から飛び降りた。
ふわりと着地したこともあるだろうが、誰もアラタ、キィ、リャンに気づいていない。
そのままアラタは戦場を駆け抜けて、公国兵の死体が山ほど転がっている広場のど真ん中に斬り込んだ。
「今日1日保たせるぞ」
「ダメダメ、殺す気でやらなきゃ」
「……確かに。じゃあ死ね」
モルトクやベネット、マルコムと同じ装備に身を包んだ兵士と組み合ったアラタは、早々に鍔迫り合いを解除しつつ距離を取る。
乱戦で背後から迫りくる帝国兵の足を横薙ぎにして、倒れたところを首元にとどめの一撃。
一合斬り合っただけで分かる、強敵だった。
「フェンリル騎士団所属、オズウェル・カウニッジ上級騎士」
「へー」
「お前も名乗れよ」
「……ディラン・ウォーカー」
「………………!」
「バカ発見~」
「くっそ、嵌められた!」
「キィ、アーキムの方に回れ。リャンは俺に付け」
「「了解」」
キィは乱戦の中に消え、2対1、アラタが有利な状況だけが残る。
「お前らを殺してミスを取り返す」
「あっそ。リャン、タイミングは任せる」
「分かりました」
迅速に処理して他のカバーに回らなければ。
そう考えるアラタとリャンの前に立ちはだかるのは、こちらも早く2人を抹殺してミスを帳消しにしたいオズウェル上級騎士。
恐らく短時間で決着が着くであろう好カードが、開始された。
※※※※※※※※※※※※※※※
取り巻き連中が少なかったのが幸いだったな。
第152中隊長のベロンは周囲に転がっている帝国兵の死体を見てそう考えていた。
乱戦に割って入り、スペースを確保した時点で、周囲の敵の掃討はほとんど完了していた。
こちらの増援が500からなるのに対して、敵軍はせいぜい200やそこら。
さらに元々この場で戦う公国軍がいることを考えれば、まあ当然の結末である。
人の波でごった返している内部にいた帝国兵士たちは騎士団を除いて捕縛もしくは殺害され、周囲にいた兵士は完全にシャットアウトされた。
時間経過で帝国兵が追加される可能性を考慮すれば楽観視は出来ないにしても、まずまずの滑り出しである。
さて、とベロンが内部の戦いに注視したその時だった。
「避けてェ!」
「カッハ…………」
「中隊長殿!」
あとでベロンの身体を確認した兵士によると、正中線に従って首元に真ん丸な穴が空いていた上に、首の骨が消し飛んでいたという。
赤ん坊の首より不安定になった頭部を揺らしながら、ベロンは馬から落ちた。
今日の戦いで、中隊長の中では一番初めの戦死者だった。
「……まず1人」
近づき過ぎた301の隊員から奪い取った槍で、ベロン中隊長の首を貫いたマルコム・ルードウィングは小さく気を吐いた。
ほんの少しの隙も、この敵には与えてはいけない。
取り返しのつかない結果を以て学習したアーキムは、至急陣形を変更させようとした。
「1192小隊以外は下がれ! 不用意に距離を詰めるな!」
大音響で叫ぶ彼の喉は、きっと今日1日持たない。
「弱みを晒しちゃぁ、終いでしょう」
仄かに笑ったマルコムは、意図的に301の平隊員の方へと斬り込んでいく。
非常に悪質かつ、効果的な判断だった。
早急に間に割って入らなければ、そう判断を急ぎ過ぎた1192小隊の人間たちはマルコム以外の騎士団のメンバーに対する注意力が散漫になってしまったからだ。
「デリンジャー!」
横っ腹にデカいのを貰ってしまい、うずくまる彼のカバーにウォーレンが入る。
さらにそのカバーとしてテッド、カイが介入した。
「これ、1日保つわけねえだろ」
カイがネガティブなことを口走った。
だいたいこういう時は、テッドが何とかするものと相場が決まっている。
「出来るようになるんだよ」
「あーもう、この職場辞めたい」
「生き残れたら隊長が辞表受け取ってくれるかもな」
「あの人絶対破くだろ」
「確かに」
マルコムや他の敵を前にしてもこんなやり取りが出来るほど、彼らには余裕が生まれてきた。
何より、ハルツ率いる小隊も戦闘に参加しているのが非常に大きい。
クラーク家とは浅からぬ関係の者もいるのだが、彼らは全てを飲み込んでくれている。
それは他ならぬ、アラタの頼みだったから。
最低でも戦争が終わるまでは、過去のことは一度忘れていてほしいと、そう頭を下げられたから。
しょうがないなぁ、そう言いながら、アーキム達は承諾している。
そんなこともあって、不思議なことに戦場で肩を並べて戦っていた。
「まあ、アラタさんが到着するまで保たせないと、居残り練習は嫌だ」
「だな」
50人近くで6人を取り囲んでようやく均衡を保っているこの状態。
非常に危うい綱渡りのような状況は、なおも継続されるようだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
「だーくそ、こいつ……Bランク以上あるだろ」
「ですね。これは中々……」
乱戦がほぼ終了し、騎士団対公国軍の精鋭という構図が固まってから数分間、アラタはリャンの援護を受けていながらオズウェルを仕留めきれずにいた。
押しているのは2人の方だが、どうにも攻めきれない。
魔術の効きが悪く、そのうえ魔術抜きの戦闘では相手を崩しきれない。
「お前さ、騎士団の中で何番目に強い?」
先ほどの墓穴を反省しているのか、口を開きそうにない。
「黙秘ね。まあいいや」
アラタが大上段に構えたのを、オズウェルは見逃した。
動かなかったのでなく、動けなかった。
リャンがそのカバーに入っているせいで、隙に打ち込むことが中々できそうにない。
魔術の大家フェンリル家に代々仕えているフェンリル騎士団。
騎士団の全容は非常に巨大な構図を取っているため、たった8名しかいない彼らが騎士団の全てというのは誤りである。
しかし、1千に届きそうなほどの構成員を持つ騎士団内部において、モルトクやオズウェルたち8人が占める立場が大きいのもまた事実だった。
フィエルボアの剣と呼ばれる精鋭のことである。
アリソン・フェンリル直属の従者として戦う騎士たちは、多くの階級に分かれている騎士の中でも最上位の1つ下、上級騎士のみで構成されている。
それはまるで大企業の特定の部門のように、直接命令権がある部下が存在せず、評価責任も管理責任も発生しない、ほぼ完全な独立部門。
近隣諸国に非常に大きな影響力を持つ大国家ウル帝国。
その中でもより一層の上澄みと考えれば、アラタたちと互角かそれ以上にやり合えるのも頷ける話だ。
「リャン、俺のフォローを頼む」
「了解です」
一方アラタ、本当の名を千葉新。
彼はかつて、日本で最も有名且つ稼げるスポーツ、野球で世代No1ピッチャーと呼ばれた男。
当時15万人以上いた高校球児の中で、最もピッチャーとして優れていたと誰もが評している。
そして、最高の原石は世界を渡り、フィールドを変え、握るものをボールから刀に変えた。
手は再びマメだらけになり、血に汚れ、負けが続き、大切な人の命さえも掌から零れ落ちていった。
それでも、彼は未だに戦場に立っている。
一体何が彼をそこまで駆り立てるのか。
どんなモチベーションで生きているのか。
そんなものを推測したり、聞いたりする意味はない。
事実として、たった1つだけ担保されていればいいものを、彼は既に持っている。
——運命を斬り拓く強さ。
大上段に構え、ジリジリと距離を詰めるアラタ。
それを真正面から受けようと、剣を正面に構えるオズウェル。
アラタをフォローするために僅かに後ろに控えているリャン。
それ以外は、この場には介入してこない。
オズウェルが先に動いた。
「…………お前が……グフッ、食材か」
「意味が分かりません」
大上段から流麗な太刀筋で胴打ちを決めたアラタは、リーチの差もあってノーダメージ。
倒れ込むオズウェルに対して間髪入れずにリャンが剣を突き立てた頃には、彼は既に息絶えていた。
「逃げられてたら面倒だったな」
「まったくです。こんなのがウヨウヨいるなんて、全然知りませんでしたよ」
「お前もキィも、元工作員なのに全然知らないのな」
「本当に、笑っちゃいますよね」
「笑い事じゃないが」
「……ですよね~」
上級騎士がどれほど凄いのかよく分かっていないアラタは、オズウェルを仕留めた達成感よりもその前に交わした会話の内容が気になっていた。
ディラン・ウォーカーがこの戦場に来ている。
そう断言できるだけの反応を、確かに見た。
彼は正直、今年に入ってから帝国で会った時の感想として、まだ勝てないと感じていた。
見えている部分だけでも勝てないし、相手は全てを見せていない。
かなり厳しい戦いになりそうだと、アラタは覚悟する。
公国軍の主な被害、第152中隊長ベロンの戦死。
帝国軍の主な被害、フィエルボアの剣、上級騎士オズウェル・カウニッジの戦死。
戦いは始まったばかりだ。
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