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第5章 第十五次帝国戦役編
第443話 異世界の個人差
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異世界という言葉は、多世界解釈の概念を必要とする言葉だ。
自分たちの住む地球が宇宙に浮かぶ天体である、そしてそれは太陽の周囲を周回しているということを人類、というか1つの宗教団体が認めるまでに数百年を要したように、人間はあまり賢く設計されていない。
その殻を破って異なる世界、異世界の存在を概念的に認めた時、世界の相対表現が可能になる。
この世界は~~な世界、剣と魔法の世界、惑星間を股に掛けるSF世界、人外だらけの混沌とした世界、世紀末なモヒカンだらけの世界。
それらは元の世界と比較して、という言葉が先頭に付き、あるいは省略されながら意味だけ内包している。
そういう意味では、アラタが千葉新だった世界と比べると、この世界は剣と魔術とスキルとクラスの世界だった。
それは同時に、人間という種の振れ幅を拡張した世界とも言えた。
11月23日、朝。
アラタ20歳の誕生日の翌日。
朝日に照らされるのは無数の金属。
そのほとんどの先端は鋭利に研ぎ澄まされていて、たまに鈍器のような形状の重量物が混じっていた。
「全員…………」
騎乗した槍使い、レイヒム・トロンボーンの手が上がった。
「突撃ィ!」
「「「おおおぉぉぉおおお!!!」」」
前日の移動から1時間の食事休憩ののち、また移動。
敵との接触を避ける様にミラ丘陵地帯を東へと進み、右方に敵の行軍を発見した時点で潜伏開始。
3時間の仮眠と4時間の夜間警備を順番に回して迎えた朝。
アラタは3時間警備、3時間仮眠、1時間警備と一番羨ましがられるローテーションの班に配属されていた。
寝起きのだるさもなく、長時間警備の疲れも少ない。
戦闘能力の高いメンバーを重点的にこの班に置いていたのは、きっとこれからの戦闘の為なのだろう。
「まず自分が一当てします。その後はルークさんとレインでどうぞ」
「おっけー」
「了解です」
先手を打った公国軍に対し、当然帝国軍も対応を余儀なくされる。
すぐに兵士を指揮して陣形を組み上げて、横陣を完成させた。
錐型に突撃するアラタたちに対して、帝国軍は受け止めてから両翼を押し上げて包囲する構え。
全ては初めの衝突にかかっている。
「思い切っていけよ」
「分かってます」
戦端を切るべく突撃する歩兵の中でも、アラタは先頭を走っている。
ルークたち後続との距離はおよそ10m。
アラタの技量であれば十分魔術が行使できる領域である。
「出し惜しみは無しだ」
バチバチ、ビリビリとけたたましい音を立てながらアラタの右手に魔力が集中していく。
少量では見ることすらできない魔力が可視化され、青白く明滅する。
それはやがて細く尖り、1本の槍となって具現化した。
そして2本、3本、4本と増えていく。
アラタの並列起動上限は15本。
出し惜しみはしないとはいえ、流石に全部出しきるわけにはいかない。
まずは6本。
「対魔術防御構えーっ!」
帝国士官が絶叫して前列に盾を持った兵士が集結する。
これでアラタの雷槍を防ごうというつもりらしい。
「外せアラタ! あれは抜けない!」
「了解!」
原理は知らずとも、忠告はしっかり聞き入れる。
アラタはルークに指示されるまま雷槍を左右に3本ずつ分けて射出した。
どちらもガードのいない狙い目の場所である。
雷槍をまともに食らえば、基本的に死ぬかそれに近い状態になる。
アラタが魔術の結果を確認しようとしたとき、それよりも早く【感知】にアラートが鳴った。
そしてそれと同タイミングか少し早いくらいでルークからも同様の警告が聞こえてきた。
「アラタ下がれ! 射撃来るぞ!」
「トマス隊、ルーク隊を守れ!」
まだ衝突までは距離がある状態、空を見上げれば晴れているというのに、雨あられと矢と石が降り注ぐ。
防ぐのは簡単で、大型の盾の影に隠れていれば良い。
もしくは魔術防御を展開するか、単純に避けるか。
アラタは付近の人間もまとめてこの攻撃から身を護る能力を有している。
しかし魔力消費を鑑みれば、指示されたように下がってトマスの部隊の影に隠れた方が得策だった。
「お邪魔しまーす」
「おうアラタ、調子良さそうだな」
「カイル! そうなんだよ、ってうわぁ」
知り合いの盾に隠れたアラタたちを待っていたのは、鉄や青銅の鏃が盾に突き刺さる恐怖の音と、火山噴火を思わせる投石の嵐だった。
「平気ってわかっててもこえーな」
「平気じゃねーよ。味方もかなり食らってる」
カーテンを使って掻き消すべきだったかと後悔しても遅い。
彼がアトラダンジョンで火竜の咆哮を防いでいたテクニック、特に魔術名も付けられていないので便宜上カーテンと呼んでいるのだが、魔力を節約するという判断を下したことが悔やまれた。
アラタの付近は盾でほとんど保護されているから問題ないにしても、少し隊列が細くなった気がした。
敵軍の遠距離攻撃が見事に刺さったということだ。
「あー、バカスカ撃ちやがって」
「同感だ。さあ、もうそろそろだぞ」
カイルは上に掲げていた盾を下ろすと、アラタの背中をトンと押した。
走っている最中にあぶねーだろと思った男は、圧倒的フィジカルの強さでバランスを崩すことなく走り続けている。
まず敵のフロントを崩してからルークとレインを送り届けると宣言した以上、仕事は完遂しなければならない。
雷槍は既に放ったあとで、敵は未だに大型の盾を横一列に並べてこちらを待ち構えていた。
それだけなら魔術と刀でこじ開けられるにしても、アラタの眼には太陽光に照らされて奥の方に煌めく無数の点が見えている。
あれは槍の先端、それもこちらに向けている状態だと分析する。
盾持ちを崩すだけでも面倒だと言うのに、ファランクスじみた陣形に突っ込んでいくのだから、アラタたちも苦労が絶えない。
普通なら勢いに任せて成す術もなく虐殺となるところ。
ただそうとは限らないのが異世界の難しいところだ。
「敵が何かを持ちました!」
「魔術妨害急げ!」
「関係ないんだなぁ」
アラタの手に握られたテニスボール大の球。
この世界では魔術や魔道工学が発達し、煙玉もそうやって製造される。
だから自然と魔力を使うし、魔道具に分類されるし、魔術阻害系スキルや技術の餌食になる。
そう、今までなら。
魔道具師メイソン・マリルボーンから魔力に対する執着を捨てさせるのは並大抵のことではなかった。
彼は優秀な魔道具師なわけで、そんな彼に開口一番魔力を捨てろなんて言えるのはアラタくらいだろう。
彼は代わりに、元の世界の話をした。
勿論それとなくぼかしてだが、詳細な動作原理も分からないわりにはよく説明した方だろう。
この世界では半ばSFじみた技術の数々、それが眉唾ではなく非常に高い解像度で語られたわけだから、メイソンの感動は計り知れないものがある。
とにかくこの話の続きが聞きたかったら魔力に頼らない道具を作れ。
そう丸め込んだ産物がこれである。
メイソン式スモークボール。
ノエルやリーゼにはダサいと一蹴されたこの道具、今日が初めての実戦である。
魔術回路を妨害しているはずなのに、ボールが爆ぜた。
「なにっ!?」
「やっぱ正解だわ。俺天才」
アラタは既に抜刀、白い仮面を取りだして付けていた。
「風陣で薙ぎ払え! 魔術阻害終了!」
魔術を恐れるあまり、他の技術に対する警戒が甘くなる。
発煙で混乱する中、帝国の士官は警戒心をMAXにまで引き上げて賭けに出る。
「槍を繰り出せ! 敵はそこまで来ている!」
よく訓練された部隊だ、恐らく実戦のキャリアもそれなりに積んできた優秀な部隊なのだろう。
しかし、初めて尽くしのこの戦いでは先手を打つアドバンテージはひたすらに大きい。
黒装束による隠密効果、【気配遮断】による追加効果、敵の魔術阻害による探知不可フィールド、煙玉による視界不良、【暗視】と【感知】による一方的な索敵。
帝国軍にも同様のスキルを使っている人間はいるだろうが、練度が違うし確率としては非常に低い。
「おっ、下、下だ!」
「バラすなや」
槍衾をスライディングで躱したアラタ、しかし低めに繰り出された槍を受け流さざるを得ず応戦、敵に悟られた。
だからどうということでもないのだが。
「下だ殺せ!」
砂埃と煙玉によって閉ざされた景色の中、アラタの眼は槍を繰り出すために開けられた隙間をしっかり見据えている。
「お゛っ。て、敵が…………!」
「雷撃」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
手応え不十分と判断したアラタによる追撃に、敵兵は昏倒した。
死んでいなければ幸運くらいの攻撃を受けて仰向けに倒れる。
自然と刀は抜けて、鋒に血が残った。
「隙間を埋めろ!」
ベリッと盾を剥がされて、肉壁が無防備になっている。
アラタはすでに立ち上がっていていまから反撃は当たりそうにない。
そして——
「スイッチング!」
「おっす」
バックステップで下がるアラタと入れ替わりに入ったのはBランク冒険者2名。
彼らも戦闘を得意とする冒険者で、その実力は戦争にやって来てから一段と磨きがかかっていた。
「殺せ!」
「てめーが死ね!」
怒号渦巻く最前線、彼らを筆頭に次々とカナン公国兵がなだれ込んでくる。
初動は公国軍の勝ち、中央突破される可能性が出てきた以上、そう簡単に包囲の輪を狭めることが出来なくなった。
横陣を縦に突破されれば、待っているのは無防備な背中を食い破られるという悪夢。
それは流石にまずいと帝国軍も踏ん張りを効かせる。
「アラタ来い!」
ルークの声に呼応するように、アラタは広がった入り口から堂々と入場した。
帝国の横陣ははさみを入れられた紙のようにビリビリと亀裂を深めていく。
その先端で陣形を破壊しているところにアラタが入ればどうなるか、答えは誰だってわかる。
「中佐! 増援はまだですか!」
下からの報告を受けて指揮官にあげる情報士官の悲鳴がこだまする。
しかし中佐も答えようがないのが現実だ。
なにせ全く戦うつもりがなく、先行する部隊を孤立させないためだけにここにいるのだから、増援の手配なんてまるで進んでいない。
「中佐!」
「隊を左右に分けて撤退だ。味方のいるところまで下がるぞ」
帝国指揮官の判断は正しかった。
これ以上公国軍の好き勝手にやらせていれば、数倍の兵力差があったにもかかわらず壊滅的な損害を被ることになっていただろう。
第32特別大隊の独立行動初戦、彼らは完全なまでの勝利を収めた。
兵士の数も状態も劣る公国軍が勝ったのだ。
奇襲ありき、そう言われればそれで話が終わってしまうのだが、そこに追加すべき事柄が1つ。
カナンのBランク冒険者でも屈指の戦闘力を持つアラタやその仲間たちによる密集陣形、これが中々に強い。
アラタが元居た世界では、どんなに強くても徒党を組んで挑めば人間1人どうとでもできた。
たまに現れる人外は例外なので除外するとして、戦闘行為とはそういうものだった。
しかしここは異世界、前提が大きく違う。
個々の身体能力、魔力、スキル、クラスが大きく異なるうえに、この世界に銃はまだない。
剣と魔術の異世界で、エクストラスキルを持つアラタの存在はひたすらに大きい。
属人性の権化のような青年は、その日帝国兵を18人斬り殺した。
自分たちの住む地球が宇宙に浮かぶ天体である、そしてそれは太陽の周囲を周回しているということを人類、というか1つの宗教団体が認めるまでに数百年を要したように、人間はあまり賢く設計されていない。
その殻を破って異なる世界、異世界の存在を概念的に認めた時、世界の相対表現が可能になる。
この世界は~~な世界、剣と魔法の世界、惑星間を股に掛けるSF世界、人外だらけの混沌とした世界、世紀末なモヒカンだらけの世界。
それらは元の世界と比較して、という言葉が先頭に付き、あるいは省略されながら意味だけ内包している。
そういう意味では、アラタが千葉新だった世界と比べると、この世界は剣と魔術とスキルとクラスの世界だった。
それは同時に、人間という種の振れ幅を拡張した世界とも言えた。
11月23日、朝。
アラタ20歳の誕生日の翌日。
朝日に照らされるのは無数の金属。
そのほとんどの先端は鋭利に研ぎ澄まされていて、たまに鈍器のような形状の重量物が混じっていた。
「全員…………」
騎乗した槍使い、レイヒム・トロンボーンの手が上がった。
「突撃ィ!」
「「「おおおぉぉぉおおお!!!」」」
前日の移動から1時間の食事休憩ののち、また移動。
敵との接触を避ける様にミラ丘陵地帯を東へと進み、右方に敵の行軍を発見した時点で潜伏開始。
3時間の仮眠と4時間の夜間警備を順番に回して迎えた朝。
アラタは3時間警備、3時間仮眠、1時間警備と一番羨ましがられるローテーションの班に配属されていた。
寝起きのだるさもなく、長時間警備の疲れも少ない。
戦闘能力の高いメンバーを重点的にこの班に置いていたのは、きっとこれからの戦闘の為なのだろう。
「まず自分が一当てします。その後はルークさんとレインでどうぞ」
「おっけー」
「了解です」
先手を打った公国軍に対し、当然帝国軍も対応を余儀なくされる。
すぐに兵士を指揮して陣形を組み上げて、横陣を完成させた。
錐型に突撃するアラタたちに対して、帝国軍は受け止めてから両翼を押し上げて包囲する構え。
全ては初めの衝突にかかっている。
「思い切っていけよ」
「分かってます」
戦端を切るべく突撃する歩兵の中でも、アラタは先頭を走っている。
ルークたち後続との距離はおよそ10m。
アラタの技量であれば十分魔術が行使できる領域である。
「出し惜しみは無しだ」
バチバチ、ビリビリとけたたましい音を立てながらアラタの右手に魔力が集中していく。
少量では見ることすらできない魔力が可視化され、青白く明滅する。
それはやがて細く尖り、1本の槍となって具現化した。
そして2本、3本、4本と増えていく。
アラタの並列起動上限は15本。
出し惜しみはしないとはいえ、流石に全部出しきるわけにはいかない。
まずは6本。
「対魔術防御構えーっ!」
帝国士官が絶叫して前列に盾を持った兵士が集結する。
これでアラタの雷槍を防ごうというつもりらしい。
「外せアラタ! あれは抜けない!」
「了解!」
原理は知らずとも、忠告はしっかり聞き入れる。
アラタはルークに指示されるまま雷槍を左右に3本ずつ分けて射出した。
どちらもガードのいない狙い目の場所である。
雷槍をまともに食らえば、基本的に死ぬかそれに近い状態になる。
アラタが魔術の結果を確認しようとしたとき、それよりも早く【感知】にアラートが鳴った。
そしてそれと同タイミングか少し早いくらいでルークからも同様の警告が聞こえてきた。
「アラタ下がれ! 射撃来るぞ!」
「トマス隊、ルーク隊を守れ!」
まだ衝突までは距離がある状態、空を見上げれば晴れているというのに、雨あられと矢と石が降り注ぐ。
防ぐのは簡単で、大型の盾の影に隠れていれば良い。
もしくは魔術防御を展開するか、単純に避けるか。
アラタは付近の人間もまとめてこの攻撃から身を護る能力を有している。
しかし魔力消費を鑑みれば、指示されたように下がってトマスの部隊の影に隠れた方が得策だった。
「お邪魔しまーす」
「おうアラタ、調子良さそうだな」
「カイル! そうなんだよ、ってうわぁ」
知り合いの盾に隠れたアラタたちを待っていたのは、鉄や青銅の鏃が盾に突き刺さる恐怖の音と、火山噴火を思わせる投石の嵐だった。
「平気ってわかっててもこえーな」
「平気じゃねーよ。味方もかなり食らってる」
カーテンを使って掻き消すべきだったかと後悔しても遅い。
彼がアトラダンジョンで火竜の咆哮を防いでいたテクニック、特に魔術名も付けられていないので便宜上カーテンと呼んでいるのだが、魔力を節約するという判断を下したことが悔やまれた。
アラタの付近は盾でほとんど保護されているから問題ないにしても、少し隊列が細くなった気がした。
敵軍の遠距離攻撃が見事に刺さったということだ。
「あー、バカスカ撃ちやがって」
「同感だ。さあ、もうそろそろだぞ」
カイルは上に掲げていた盾を下ろすと、アラタの背中をトンと押した。
走っている最中にあぶねーだろと思った男は、圧倒的フィジカルの強さでバランスを崩すことなく走り続けている。
まず敵のフロントを崩してからルークとレインを送り届けると宣言した以上、仕事は完遂しなければならない。
雷槍は既に放ったあとで、敵は未だに大型の盾を横一列に並べてこちらを待ち構えていた。
それだけなら魔術と刀でこじ開けられるにしても、アラタの眼には太陽光に照らされて奥の方に煌めく無数の点が見えている。
あれは槍の先端、それもこちらに向けている状態だと分析する。
盾持ちを崩すだけでも面倒だと言うのに、ファランクスじみた陣形に突っ込んでいくのだから、アラタたちも苦労が絶えない。
普通なら勢いに任せて成す術もなく虐殺となるところ。
ただそうとは限らないのが異世界の難しいところだ。
「敵が何かを持ちました!」
「魔術妨害急げ!」
「関係ないんだなぁ」
アラタの手に握られたテニスボール大の球。
この世界では魔術や魔道工学が発達し、煙玉もそうやって製造される。
だから自然と魔力を使うし、魔道具に分類されるし、魔術阻害系スキルや技術の餌食になる。
そう、今までなら。
魔道具師メイソン・マリルボーンから魔力に対する執着を捨てさせるのは並大抵のことではなかった。
彼は優秀な魔道具師なわけで、そんな彼に開口一番魔力を捨てろなんて言えるのはアラタくらいだろう。
彼は代わりに、元の世界の話をした。
勿論それとなくぼかしてだが、詳細な動作原理も分からないわりにはよく説明した方だろう。
この世界では半ばSFじみた技術の数々、それが眉唾ではなく非常に高い解像度で語られたわけだから、メイソンの感動は計り知れないものがある。
とにかくこの話の続きが聞きたかったら魔力に頼らない道具を作れ。
そう丸め込んだ産物がこれである。
メイソン式スモークボール。
ノエルやリーゼにはダサいと一蹴されたこの道具、今日が初めての実戦である。
魔術回路を妨害しているはずなのに、ボールが爆ぜた。
「なにっ!?」
「やっぱ正解だわ。俺天才」
アラタは既に抜刀、白い仮面を取りだして付けていた。
「風陣で薙ぎ払え! 魔術阻害終了!」
魔術を恐れるあまり、他の技術に対する警戒が甘くなる。
発煙で混乱する中、帝国の士官は警戒心をMAXにまで引き上げて賭けに出る。
「槍を繰り出せ! 敵はそこまで来ている!」
よく訓練された部隊だ、恐らく実戦のキャリアもそれなりに積んできた優秀な部隊なのだろう。
しかし、初めて尽くしのこの戦いでは先手を打つアドバンテージはひたすらに大きい。
黒装束による隠密効果、【気配遮断】による追加効果、敵の魔術阻害による探知不可フィールド、煙玉による視界不良、【暗視】と【感知】による一方的な索敵。
帝国軍にも同様のスキルを使っている人間はいるだろうが、練度が違うし確率としては非常に低い。
「おっ、下、下だ!」
「バラすなや」
槍衾をスライディングで躱したアラタ、しかし低めに繰り出された槍を受け流さざるを得ず応戦、敵に悟られた。
だからどうということでもないのだが。
「下だ殺せ!」
砂埃と煙玉によって閉ざされた景色の中、アラタの眼は槍を繰り出すために開けられた隙間をしっかり見据えている。
「お゛っ。て、敵が…………!」
「雷撃」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
手応え不十分と判断したアラタによる追撃に、敵兵は昏倒した。
死んでいなければ幸運くらいの攻撃を受けて仰向けに倒れる。
自然と刀は抜けて、鋒に血が残った。
「隙間を埋めろ!」
ベリッと盾を剥がされて、肉壁が無防備になっている。
アラタはすでに立ち上がっていていまから反撃は当たりそうにない。
そして——
「スイッチング!」
「おっす」
バックステップで下がるアラタと入れ替わりに入ったのはBランク冒険者2名。
彼らも戦闘を得意とする冒険者で、その実力は戦争にやって来てから一段と磨きがかかっていた。
「殺せ!」
「てめーが死ね!」
怒号渦巻く最前線、彼らを筆頭に次々とカナン公国兵がなだれ込んでくる。
初動は公国軍の勝ち、中央突破される可能性が出てきた以上、そう簡単に包囲の輪を狭めることが出来なくなった。
横陣を縦に突破されれば、待っているのは無防備な背中を食い破られるという悪夢。
それは流石にまずいと帝国軍も踏ん張りを効かせる。
「アラタ来い!」
ルークの声に呼応するように、アラタは広がった入り口から堂々と入場した。
帝国の横陣ははさみを入れられた紙のようにビリビリと亀裂を深めていく。
その先端で陣形を破壊しているところにアラタが入ればどうなるか、答えは誰だってわかる。
「中佐! 増援はまだですか!」
下からの報告を受けて指揮官にあげる情報士官の悲鳴がこだまする。
しかし中佐も答えようがないのが現実だ。
なにせ全く戦うつもりがなく、先行する部隊を孤立させないためだけにここにいるのだから、増援の手配なんてまるで進んでいない。
「中佐!」
「隊を左右に分けて撤退だ。味方のいるところまで下がるぞ」
帝国指揮官の判断は正しかった。
これ以上公国軍の好き勝手にやらせていれば、数倍の兵力差があったにもかかわらず壊滅的な損害を被ることになっていただろう。
第32特別大隊の独立行動初戦、彼らは完全なまでの勝利を収めた。
兵士の数も状態も劣る公国軍が勝ったのだ。
奇襲ありき、そう言われればそれで話が終わってしまうのだが、そこに追加すべき事柄が1つ。
カナンのBランク冒険者でも屈指の戦闘力を持つアラタやその仲間たちによる密集陣形、これが中々に強い。
アラタが元居た世界では、どんなに強くても徒党を組んで挑めば人間1人どうとでもできた。
たまに現れる人外は例外なので除外するとして、戦闘行為とはそういうものだった。
しかしここは異世界、前提が大きく違う。
個々の身体能力、魔力、スキル、クラスが大きく異なるうえに、この世界に銃はまだない。
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