男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ

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第4章 急転直下

鵜承の見立て

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「大麻草でまちがいないと思います」

 神経質そうな顔をこれ以上ないくらいにゆがめて鵜承は言った。

「閨事の直後、気分が悪いということで妃を診る機会を得たのですが。その際、青臭さと甘ったるい匂いが混じったような、大麻草独特の匂いを感じました」

 梓晴しせい妃が気を失ったあと。雲嵐は妃に危害を加えた罪で刑吏を呼ばれそうになった。
 佩玉のおかげで難を逃れたが、混乱の最中にある妃の部屋では話ができそうもない。結果として後宮医局で羅刹、雲嵐、鵜承は頭を突き合わせている。

 羅刹は左手で自分の首を撫ぜる。
 凄まじい力だった。理性というタガが外れると、女でもここまでの力を出せるのか。

 正気を失った妃の、殺意に満ちた瞳。
 鬼のような表情が未だ頭から離れず、体の震えが止まらない。

「入手経路に心当たりは。禹国では栽培も取引も禁止されている植物のはずだが」

 雲嵐がそう尋ねる声に、羅刹は顔を上げる。
 そうだ、今は怖がっている場合じゃない。
 自らの腕に爪を立て、痛みで恐怖を抑えようとする。

「かつては薬として用いられることもあったようですが。現在医局では仕入れておりません」

 眉間の皺を渓谷のごとく深める鵜承。雲嵐はため息をついて、顎に手を当てた。

「あるとすれば、密売人からの押収品の中か。未だ大麻騒乱が影を落としているからな」

 大麻騒乱。雲嵐の口から発された言葉が、羅刹の記憶の蓋を開ける。
 近代の史書、「大麻騒乱」の項が広げられた。

 大麻草は、かつて禹国内に蔓延した時期がある。敵対していた隣国眞国まこくが禹国の兵力を削ぐため、間諜を使って軍の若者に広めたのが始まりだ。そこから民に広まり、搾取されるばかりのものたちはいっときの快感を得られる夢の薬に溺れ、そして堕落し、狂っていった。
 国を乱したこの出来事は、のちに「大麻騒乱」と名付けられた。時の帝により大麻の取り締まりが強化され、一掃されたが、未だ膿は出しきれていないと聞く。

 そういえば。
 羅刹は唇に親指を押し当てる。

 大麻騒乱の際、眞国と手を結び、大麻を広める役割をした一族がいたはず。しかし羅刹の読んだ史書には、どの一族が加担したかが明確に書かれていなかった。

「雲嵐、あの」

 彼なら、もしかしたらその一族の名を知っているかもしれない。
 だが羅刹の問いかけは、思い切り開かれた戸の音でかき消された。

「なんだ騒々しい」

 医官が応対する声がする。答えているのは若い女だ。

「禁色の佩玉を持った宦官様が、こちらにいらっしゃるとお聞きしたのですが」

 息を切らしながらそう言う彼女の次の言葉に、その場にいた全員が固まった。

「怪しい女が捕えられました」

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