男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ

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第6章 蔡華の想い

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 どれくらいそうしていただろうか。
 ただ頭を預けられていただけだったはずが、いつの間にか抱き寄せられ、小柄な羅刹は雲嵐の腕の中にすっぽりとおさまっていた。

「雲嵐、ねえ、いい加減にしないと、また男色だなんて言われてしまいますよ」
「男色ではない。お前は女だろう」
「いや、そうですけど」

 それはそれで問題があるのではないだろうか。なにしろ。

「雲嵐は、皇帝になる決意が固まったんですよね?」

 羅刹の言葉に、雲嵐は体をひく。

「正直言って、まだ迷いはある」
「でも雲嵐以外に継承権を持つ人がいないんでしょう? 現帝に兄弟は居られませんし」
「引きこもっていた俺が、官と対等に渡り合えるだろうか」

 このままでは国が滅んでしまう。だから雲嵐は決意した。しかし決意したからと言って、そう簡単に覚悟が決まるものではないのだろう。
 これまで凰族は国の仇として扱われてきた。臣も凰族の虐殺を後押ししたものたちが中心になっている。皇帝になるということは、その渦中に飛び込み、改革をしなければならないということ。
 口下手な彼にはきっと荷が重いはず。

「やる気と情熱さえあれば、なんとかなります。見てください、やる気と情熱だけでここまでやってきた人間がいるでしょう?」

 に、と笑って見せれば、雲嵐も頬を緩めた。

「お前のような味方が隣にいてくれれば、心強いだろうな」
「いつでもお呼びつけください。この優秀な柳羅刹が、お力になります。あ! 志部への配属の件はよろしくお願いしますね!」

 一瞬、真顔になった雲嵐が、少しむくれた顔をして頬をかく。

「そういう意味ではなかったのだが」
「どういう意味だったんです?」

「東宮さまあああああ!」

 そう叫んで飛び込んできたのは麗玲。商売人気質の雲嵐の侍女だ。

「た、たた、た、大変です。雷光宮が燃えているとの報告が」

 慌てて立ち上がった雲嵐は、麗玲に詰め寄る。

「燃えているだと? 父上は無事なのか」

「それが、火元が主上の寝室のようでして。兵部総出で救助に向かっているものの、火に阻まれて前に進めないようです。また蔡華様の姿も見えないので、主上と一緒にいるのではないかと」

 雲嵐と顔を見合わせ合う。すでに二人の中で答えは出ていた。

「行きましょう、雲嵐」

 羅刹の呼びかけに、雲嵐はうなづいた。


 ◇ ◇ ◇

 とぐろを巻く大蛇のように、猛炎が雷光宮を襲っている。
 兵部は突入を試みているが、突入したが最後、ほとんどの人間は焼け死ぬことになるだろう。
 それほどに火の勢いが強かった。

 羅刹と雲嵐は雷光宮の様子を確認すると、府庫に向かった。
 埃臭く、どんよりとした雰囲気は変わらずで、人影は一切ない。

 雲嵐は禹国反乱史の棚の前に立ち止まると、床にしゃがみ込んだ。
 反乱史の書棚の下には、色の違う板がはられている箇所があり、よく見ると手をかけられる位の溝がついている。

 溝に手をかけ、一気に引けば、湿気くさい匂いと共に地獄へ続くかと思うような通路が現れた。

 この通路については、調べ物をしていたときに気がついた。
 風通しがいいのに、部屋が異様に臭う気がして出所を探ってみれば、この通路にたどり着いたのだ。
 長いこと使われていないためか、湿気がこもっている。
 気になって雲嵐と探検してみれば、帝の寝室に直結していたのだ。
 最近使われた形跡がないところを見るに、昔の皇帝の避難路、またはお忍びで出かける際の通路だったのだろう。

「早速役に立つとはな。羅刹、お前はここで待っていろ」
「いやです。一緒に行かせてください」
「だが」
「蔡華さんに、真実を確認したいんです。そして帝の前で罪を認めてもらわねば」

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