半竜の心臓〜私を刺したのはとても優しい人でした〜

織部

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アメノという男

アメノという男(3)

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 やっぱり怖い人なのかもしれない。
 少女は、背を曲げて、質の良くない板金鎧プレートメイルを纏った屈強な兵士に因縁を付けるように睨むアメノを見て少女は思った。
「こいつに謝れや。木偶の坊・・」
 アメノは、兵士の横広く発達した顎を殴りつけるように下から睨む。
 アメノに睨まれた屈強な兵士は悔しげに歯軋りしながらも震える目で睨み返す。
「ちょ・・調子に乗るなよ勇者様の腰巾着が・・」
 しかし、その声は震え、裏返り、しっかりと耳を立ててなければ発音すら聞き取れない。
 屈強な兵士の周りを他の兵士がオロオロと、しかし手を貸すことも庇うことも出来ないまま庭の柵のように立っている。
(なんでこんなことになったんだろう?)
 少女は、つい数分前に起きたことを思い返す。
 
 あの後、無事に山を下り終え、土を慣らして平坦に舗装された道を揺られながら進むこと30分ほどで王都を守る城壁が見えてきた。
 どうやって削り取ったのかまるで見当のつかない四角く成型された少女の身の丈を超える無数の石を並べて造られた巨大な城壁。並の人ならざる者では、それこそ竜王でもなければ傷一つ付けることは出来ないだろうと思わせる壁に少女は圧倒された。
 王都に入ることの出来る唯一の城門の前には検閲所が設けられており、板金鎧プレートメイルに兜、そして右手に槍を、腰に銃と呼ばれる武器を下げていた。父たる白竜の王が人間種が弓矢や魔法に代わって遠距離の相手と戦う時に使う新しい武器で殺傷能力が非常に高く、場合によっては子供でも相手を死に至らしめることが出来るらしいと言ってきたのを思い出す。
 しかし、あの耳障りな発砲音は聞いていて気分を不快にさせるし、何より撃った後の臭いのを思い出し、少女は眉を顰めようとして・・・気付く。
(何で私は硝煙の臭いなんて知ってるの?)
 というか硝煙ってなに?
 父から聞いたのだろうか?
 少女は、頭の奥に引っかかっているものを思い出そうとする、とアメノ側の車の窓が叩かれる。
 数人の兵士が車の前に立って窓から車内を覗き込んでいた。
 アメノは、ドアに付いたレバーを回して窓を開ける。
 アメノの顔を見て兵士たちが驚く。
「アメノ様!」
 小柄な兵士が目を見開いて声を上げる。
 身体こそ小さいがよく鍛え上げられているようで露出した部分腕や首の筋肉が程よく発達している。
 小柄な兵士の声に他の兵士たちも一斉にアメノの方を向く。
「検閲ご苦労様です」
 アメノがぶっきらぼうに、しかし見かけからは想像も出来ないような丁寧な口調で言うと兵士達は揃って背筋を伸ばし、額に手を当てて敬礼する。
「とんでもございません」
「恐れ多い」
「恐悦にございます」
「アメノ様もご機嫌麗しく」
 賛美と畏怖の混じり合った声が兵士達より飛ぶ。
 兵士達の様子を見てやはりこの人は勇者一行パーティの1人なんだと改めて思う。
「荷物と車の中を検閲するのでしょう?エンジン切るから少し待っていてください」
「いえ、アメノ様にそのような・・!」
「規則でしょう?遠慮せずにしっかりやってください」
 アメノは、兵士達の言葉に構わずエンジンを切り、車から降りる。
 この時はとても平穏だった。
 空気が変わったのは少女がアメノに倣って車から降りた時だ。
 少女の姿を見た瞬間、兵士達の顔が変わる。
 最初は、何が起きたか分からないと言った表情で呆然と、しかし、少しずつ思考が理解に追いつき、感情にまで浸透していくとそこに明らかな不快と嫌悪が浮かび、汚いもの見るかのように少女を睨みつけた。
 少女は、兵士達のあまりの変化に戸惑い、同時に理解する。
 これが人間種達の混ざり者ブレンドに対する感情の表れなのだ、と。
 アメノも兵士達から放たれる殴りつけるような負の感情に気づき、猛禽類のような目を細める。
「アメノ様」
 小柄な兵士が戸惑いつつも不快と嫌悪を隠しもせずに口を開く。
「"それ"はなんです?」
「"それ"じゃありません」
 アメノの猛禽類のような目がきつく細まる。
「俺の連れです」
 兵士たちの間に響めきが起きる。
「何か問題でもありますか?」
 口調はとても丁寧。しかし、猛禽類のような目が剣呑に光る。
 兵士たちは、気圧され、一歩後ずさる。
 アメノは、猛禽類のようなものをきつく細めたまま兵士たちを睨み、小さく息を吐く。
「問題ないなら早く車の中を検めてくれませんか?夕方までには帰りたいので」
  アメノは、少女を見て「車に乗って待ってろ」と小声で言う。
 少女は、戸惑いつつも車に戻ろうとした。
 その時だ。
「問題ないわけないだろうが!」
 戸惑い、怯える兵士たちの後ろから顎が横に広く張った一際大きな身体つきの屈強な兵士が現れる。
 アメノよりも頭1つ分大きく、板金鎧プレートメイルから覗く腕はアメノの腕よりも遥かに太く、右手に持つ槍も他の兵士た地よも長く、刃も厚い。
 屈強な兵士は、アメノの前に立つと見下すようにぎっと睨みつける。
「そんなものを王都に持ってくつもりか⁉︎」
「・・・持っていくじゃありません」
 アメノは、屈強な兵士の目を見返す。
「連れていくです。言葉を間違えないでください。ガキですか貴方は?」
 言葉は丁寧なのにあまりの惨烈な口調と言葉に屈強な兵士は、奥歯を噛み締め、他の兵士たちは恐怖で顔を引き攣らせる。
「あんた・・本当に聖剣アメノなのか?」
 聖剣?
 少女は、眉を顰める。
「紅玉の勇者様の懐刀。悪を断つ秘剣とまで呼ばれたあんたがなんでそんな汚いモノを連れ回す⁉︎」
 汚いもの・・・。
 少女は、左手で右の二の腕をぎゅっと握る。
 暗黒竜の王の下卑た顔が脳裏に蘇る。
「所詮は勇者様の腰巾着だったか」
 屈強な兵士は、馬鹿にするように鼻で笑う。そして少女の身体を下品な目で舐め回すように見て下卑た笑みを浮かべる。
「まあ、顔だけはマシか。夜の相手にでも・・・」
 しかし、屈強な兵士は次の言葉を告げることが出来なかった。
 アメノから迸った背筋を破壊するような気迫と怒りが屈強な兵士だけでなく、怯える兵士たちに、少女にまで伝播する。
 屈強な兵士の顔が青ざめ、固まる。
 アメノは、猛禽類のような目を激らせ、屈強な兵士の顎を殴りつけるように睨みつける。
「こいつに謝れや。木偶の坊・・・」
 それを見て少女は思った。
 やはり怖い人なのかもしれない・・と。

 時は戻る。
 屈強な兵士が動く。
 土剥き出しの地面を蹴り、アメノから離れる。
 アメノは、驚いた様子すら見せず猛禽類のような目で兵士を見据える。
 屈強な兵士は、叩きつけるように地面を踏み締め、槍を両手で握りしめるとアメノに向かって振り下ろす。
 少女は、両手で口元を覆い、短い悲鳴を上げる。
 アメノは動かない。
 槍の切先がアメノの血の抜けたような白髪を捉える。
 砂埃が舞い上がる。
 兵士の板金鎧プレートメイルが不細工な音を立てる。
 兵士の横に発達した顎が大きく開く。
 驚愕に。
 アメノは、猛禽類のような目で冷めたように兵士を見る。
 振り落とされた槍はアメノに捉える直前で止まっていた。
 いや、正確には止められていた。
 アメノの左手の親指と人差し指が屈強な兵士の槍の切先を摘んでいた。
 まるで羽虫を優しく捕まえるように。
 そして槍はそのままびくとも動かない。
 屈強な男兵士が押しても引いてもまるで動かなかった。
 アメノは、じっと兵士を見据える。
 虚栄に覆われていた屈強な兵士の心にヒビが入る。
 恐怖が屈強な兵士の心から全身に流れ込む。
「・・・ごめんなさいは?」
 アメノの口が小さく開く。
「へっ?」
「だからごめんなさいは?」
 口調は苛立ってるのに言葉にあまりにギャップがあり過ぎて屈強な兵士は意味を飲みこむことが出来ず、他の兵士たちは唖然とする。
 少女も理解出来ず思わず眉根を寄せる。
 アメノは、呆れたように息を吐く。
「相手に嫌な思いをさせたらごめんなさいだろうが!なんでわからない!」
 アメノは、怒鳴る。
 兵士たちに恐怖が伝播する。
(ひょっとして・・・諭してる?)
 少女は、その事実に気づき、唖然とする。
 つまりアメノは少女に対して酷いことを言った兵士たちに謝らせようとしているだけなのだ。
 しかし、今にも惨殺されそうな迫力に押された兵士たちがそんなことに気づくはずがない。
 アメノに一喝され、屈強な兵士は腰が抜けてそのまま地面に座るこむ。
 彼の周りの地面の色が変色し、湯気を上げる。
 恐怖の限界を超えた兵士たちは一斉に銃を抜いてアメノに向ける。
 アメノは、槍を摘んだ姿勢のまま銃を抜いた兵士たちを見据える。
 兵士たちは、引き金に手をかける。
「アメノ様!」
 少女は、声を上げて手を伸ばす。
 冷気が走る。
 無数の光る粒の筋が少女の横を抜け、アメノを囲む兵士たちの周りを反物のように広がっていく。
 光の粒の筋は銃を持つ兵士たちの手をすり抜ける。
 その瞬間、兵士たちの手が銃ごと凍りつく。
 突然、凍りついた自分達の手に兵士たちは何が起きたか分からず取り乱し、声を上げる。
 少女は、何が起きたか分からずぽかんっとする。
 アメノは、手に持った槍を捨てると猛禽類のような目を細めて少女の背後に目をやる。
「やはり王都では氷の魔法の効果は薄いですね」
 ため息と共に呆れた声が背後から聞こえる。
 少女は、声に引っ張られるように振り返ると紫の長衣ローブを纏い、樫の木の杖を持った白と金の混じった髪の痩せこけた眼鏡の男が立っていた。
 少女は、その男を知っていた。
 雪山でアメノと共に現れた勇者一行パーティの1人だ。
「ヤタ」
 アメノは、ぼそりっと呟く。
「まったく貴方は・・」」 
 ヤタは、少し呆れたように言いながらも口元に穏やかな笑みを浮かべた。
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