半竜の心臓〜私を刺したのはとても優しい人でした〜

織部

文字の大きさ
17 / 27
アクアマリンの勇者

アクアマリンの勇者(2)

しおりを挟む
 アメノとロシェのいる畳の部屋に通された勇者はとても利発そうな顔をしていた。
 利発で・・・とても弱々しそうだった。
 年の頃は11・・いや、12歳と言ったところだろうか?
 眉毛に掛からないくらいに切り揃えられた黒髪、黒曜のように輝く目、幼いが引き締まった顔つきからは知性が滲み出ている。しかし、その知性に溢れた顔に反比例してその身体はあまりに頼りない。
 頭や左胸、腕や足、腰と言った必要最低限の部位のみを防御カバーするように造られた海色の鎧から覗く手足は驚くほどに細く、ロシェの手どころかポコの幼い手の方が太いのではと感じるほどで鎧下垂れを脱いだら肋骨が浮き出ているのではないかと感じた。
 ロシェは、勇者と呼ぶにはあまりにも儚い印象の少年をじっと見てしまった。
 そして彼の隣に座るあまりにも対照的な人物にも。
 ポコが客人用の若草色の湯呑みを二つ、丸いお盆に乗せてやってくる。
「粗茶でございますが」
 ポコが丁寧に2人の前に湯呑みを置く。
「あっありがとうございます」
 少年は、緊張した面持ちで丁寧に頭を下げる。
「ありがとうっす!」
 少年の隣に座る長衣ローブを着た絶世と言う言葉を絵に描いたような美しい顔立ちのエルフの女性、リンツは軽快にお礼を述べる。
「リンツ様・・」
「昨日ぶりっすね!」
 リンツは、にこやかに笑って右手を上げる。
「まさかこんなに早く再会出来るとは思わなかったっすよ」
「私もです」
 ロシェは、小さく笑みを浮かべる。
 その顔にリンツは少し驚き、笑う。
「少し落ち着いたみたいっすね。良かった」
 落ち着いた・・と言えるのだろうか?
 リンツのいる保護施設を出て半日と少ししか時間は経ってないはずなのに非常に濃密な出来ごとが沢山あった。
 特に・・。
 思い出して、ロシェはむすっと頬を膨らませてアメノを睨む。
 リンツは、怪訝な表情を浮かべてアメノを見る。
「旦那・・まさかもう手を出したんすか?」
「んな訳ねえだろう」
 アメノは、不機嫌そうに言う。
「ちょいと不可抗力が働いただけだ」
 どんな不可抗力なのか非常に気になってリンツは問い詰めようとする。が、隣にいる少年にそれを阻まれる。
「リンツさん、今は・・」
 少年は、固い面持ちのままリンツを静止する。
 緊張の為か、声が上擦っている。
「ああっ申し訳ないっす」
 リンツは、苦笑いを浮かべて手を合わせる。
 少年は、まったくと言った感じに肩を竦めると改めてアメノに向き直る。
「聖剣様」
「アメノです」
 アメノは、自分に用意された焙じ茶を啜りながら少年を一瞥する。
「誰が付けたか分からない渾名あだなです。名前でお呼び下さい」
 口調はとても丁寧なのにその仕草は他者を萎縮させるのに十分な迫力があった。
 案の定、少年の身体は一瞬で固まる。
 それに気づいたリンツは、緑色の目を細めてアメノを睨む。
「うちの勇者様をビビらせないで欲しいっす」
 リンツの苦情にアメノは、猛禽類のような目を大きく開いて驚く。
 アメノからすれば普通に会話をしていただけでそんなつもりは微塵もなかった。
「ほら、ヘーゼルもちゃんと話すっす」
 リンツは、ヘーゼルと呼んだ少年の肩をぱんっと叩く。
 へーゼルは、びっくりしてリンツを見る。
 その様子はまるで姉弟のように微笑ましくてロシェは小さく笑う。
「大変失礼を」
 ヘーゼルは、頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
 アメノは、少し戸惑いながら答える。
「改めまして、私はギルドより派遣されました勇者へーゼルと申します。等級はアクアマリンです」
 ロシェは、眉を顰める。
 ギルド?
 等級?
 アクアマリン?
 その様子に気づいたリンツがロシェに目を向ける。
「旦那から聞いてないっすか?勇者ギルドのこと?」
 勇者ギルド?
 ロシェは、首を傾げてアメノを見る。
 それに気づいたアメノは頬を掻く。
「そういや、まだ説明してなかったか」
「里親なんだからちゃんと自分の事を説明するっす」
 リンツは、呆れて肩を竦める。
 そしてロシェの方を向く。
「勇者ギルドって言うのはその名の通り勇者を取りまとめる組合のことっすよ」
 勇者を取りまとめる?
「勇者って言うのは称号じゃなく職業なんすよ」
 唯一無二の最高の存在。
 勇者。
 しかし、それがただ1人の持つ称号であったのはそれこそ魔王が顕現した千年も前のこと。
 現在にはその才能を受け継ぐ人間種が数多く存在し、勇者として名乗りを上げていた。
 そんな勇者を取りまとめ、正義の名の下に派遣するのが勇者ギルドなのだと言う。
 その結果、勇者は名誉ある称号ではなく、星の数ほどある職業の一つになったのだ。
「ちなみに等級ってのはその勇者の実力に合わせたランクのことっす」
 リンツの話では等級は全部で7段階に分かれる。
 第1位 金剛石ダイヤモンド
 第2位 紅玉
 第3位 青玉
 第4位 緑玉
 第5位 黄玉
 第6位 紫玉
 第7位 アクアマリン。
「ちなみに金剛石ダイヤモンドの等級を持つ勇者は歴史上では魔王を倒した勇者のみなので実質、王国最強の勇者は紅玉ということになるっす。そして・・」
 リンツは、両手をアメノに向けて思い切り手をヒラヒラさせる。
「旦那は、そんな最強の勇者と肩を並べて戦うことの出来る唯一の剣士であり戦士なんす!」
 リンツの説明にロシェは目を丸くする。
 父たる白竜の王から勇者という存在のことは聞いていたから知ってはいたがまさかそんなシステマチックな仕組みになっているとは思いもしなかった。
 ロシェは、じっとアメノを見る。
 アメノも見られていることに気づき、眉を顰める。
「どうした。やっぱ煎餅食いたくなったのか?」
 アメノの言葉にロシェはムッと頬を膨らます。
「いえ・・アメノ様は凄い方だったんだなと改めて思っただけですけど・・」
 ロシェは、ぷいっと首を横に向ける。
「やっぱり訂正します」
 ロシェの反応の意味が分からずアメノは首を傾げる。
 襖の向こうに座ったポコがその様子をみてくすりっと笑い、リンツはやはり何かあったのではないかと疑いの目を向ける。
「あの・・話しを戻してもよろしいでしょうか?」
 へーゼルが恐る恐る聞いてくる。
 その言葉にアメノとロシェ、そしてリンツも姿勢を正す。
 へーゼルは、緊張を払うように咳払いして改めてアメノを見る。
「最下位のアクアマリンである私が紅玉の勇者様の一行パーティであるアメノ様に前に出てお願いするような立場ではないことは十分に承知しているのですが・・」
 ヘーゼルは、正座したまま体を後ろに下げ、頭を下げる。
「どうか私の一行パーティの前衛として協力してきただけないでしょうか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...