【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
42 / 122

42.俯くことはない、誇るべきよ

しおりを挟む
 ミント色に金刺繍で蔦模様が入っているドレスは、軽い布を使っていた。絹のはずなのに、透け感がある。一番肌に近い部分は艶を出した絹で整え、上に柔らかな薄絹を重ねていた。重くなりそうなのに、不思議な軽さ。

 蔦の刺繍が幾重にも重なると、とても豪華だった。金髪や金瞳は、緑や青と相性がいい。金の首飾りに嵌められた宝石は、紫色だった。昼間の屋外では青緑に見えると聞いて驚く。すごく高価な石じゃないかしら。

 同じ宝石の耳飾りを付け、小ぶりのティアラを差し込む。片手で持てるほど小さなティアラは、冠というより髪飾りのようだった。お母様はもう少し大きなティアラをすると聞いて、納得する。皇族だと分かるようにするけれど、直系ではない印かも。

 着替えたドレスは、二部式で作られていた。お祖母様のプレゼントなのだけれど、上半身がビスチェタイプで後ろのホックを外せば、脱げるように出来ている。授乳のことを考えてくれたのね。

 着替えの前に「授乳を済ませたいの」と侍女にお願いしたら「後でもだいじょうぶです」と返されたのは、これが理由ね。乳が張っても平気なよう、内側にパッドが入っていた。たぶん外へ滲まない工夫だわ。

 ナサニエルに授乳を済ませ、侍女にまたドレスを直してもらった。授乳の時期は胸が張るから、大きくなる。なのにドレスは、ぴたりと合った。

「サイズがぴったり」

「当然よ、私がお母様にサイズを教えたの」

 着替え終えたお母様が入室する。お母様はワインレッドのドレスだった。赤は豪華な感じを与えるから、私にはまだ着こなしが難しいの。お母様のお飾りも紫の宝石が使われていた。

「夜会はまだ序盤だから、軽食を食べて待ちましょう。すぐにアウグストも来るわ」

 お母様の語尾に被せるようにノックがあり、お父様が顔を見せる。お腹を満たしたナサニエルは、けぷっと愛らしいゲップをして笑顔を浮かべた。眉尻を下げて甘い顔をしたお父様が抱き上げ、嬉しそうに頬を擦り寄せる。

「あなた、食べておかないとお腹が空くわよ」

「ん? ああ、そうだった」

 夜会で用意される食事は、摘めるサイズの酒の肴やお菓子が多い。お酒を飲む人は肴に手を伸ばし、ご令嬢やご夫人はお菓子を好んだ。もちろん、お酒を嗜む女性も半数ほどいるので、ツマミの方が用意されている。

 どちらもお腹に溜まる食事にはならないので、夜会の日は夕方に軽食を済ませて参加するのが一般的だった。しっかり食べると、宮殿の一流料理人が用意したお菓子や肴が入らない。それに女性は腰を絞ったり胸元を寄せる下着のせいで、食べ過ぎると苦しくなってしまう。

 ドレスを汚さずに食べられるよう、パンや野菜で肉を挟んだ物を口に入れる。卵や魚を挟んだパンは、小さく切ってあった。これなら一口で頬張れる。

 果物、紅茶で締め括った。一段落したところへ侍従が現れる。呼び出しね。ナサニエルを抱いて歩き出す私は、お父様とお母様の背中を見て頬を緩めた。自然に腕を組む二人の姿に、幸せを噛み締める。私もこんな夫婦になれると思っていた。ダメだったけど、後悔はしていないわ。

 腕の中に確かな重みを感じさせる息子、ナサニエルがいるのだから。この子を得るための試練だったなら、あの慟哭や痛みも耐えられる。顔を上げて、両親の後ろに続いた。お祖父様、お祖母様、ひいお祖父様の血を引く私が、俯くことは許されない。

「あっぶぅ」

 ナサニエルの声が同意しているようで、背を押された私は足を進めた。
しおりを挟む
感想 360

あなたにおすすめの小説

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~

百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!? 男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!? ※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

処理中です...