68 / 122
68.被害者か加害者か――SIDE父
しおりを挟む
夜会で騒ぎを起こしたオロスコ元男爵は、断首が決定した。重罪のため、もっと重い刑罰を求める声もあったが、皇帝である義父リカルドは首を横に振る。宮殿主催の夜会を汚した罪は重いが、必要以上に苦しめる罰は不要と言い切った。
この意見には賛成だ。当主であったオロスコ元男爵の罪が重くなれば、親族への罰も比例して厳しくなる。愚かな行為をした娘も、修道院へ入り反省する道があったのに。妻子を道連れにすると知りながら、元男爵が人を傷つけた理由……。そこには同情の余地があったのだ。
オロスコ元男爵が一人娘の教育を間違え、貴族として必要な調査を怠った事実は変わらない。だが陥れた側が、平民落ち程度で生き延びるのは腹が立っただろう。そこへ加え、連れ去られる彼は気づいてしまった。自分の人生は終わるのに、平然と罪を逃れた存在がいる。
ダンスフロアで踊る伯爵夫妻は、彼を騙したグラセス元公爵夫人の両親だった。グラセス家に後妻として入り、正当な嫡女を虐待した女。彼女のせいで、自分達は貴族の爵位を失った。子爵家から男爵へ、さらに嘆願により平民へと。
貴族でなければ、領地も取り上げられる。ずっと貴族として暮らしてきた男が、手に職を持っているわけもなく。今後は没落の一途を辿るだろう。妻子を着飾ることはもちろん、まともな屋敷に住まわせることも難しい。それどころか、悪くすれば日々の食事にも事欠く未来が待っていた。
怖ろしい考えが彼の頭をよぎったのだ。どうせ破滅するなら、もろともに……道連れにするなら、妻子だけじゃなく元凶の女の親も、と。未来が好転する可能性はゼロに等しい。ならば爵位を保つ元凶の親を引きずり下ろしてやろう。
尋問に対し、オロスコ元男爵は一切言い淀まなかった。すらすらと聞かれるまま話し続ける。気が触れているのかも知れない。そう思うほど、明るい声で朗らかに語った。
「そもそも、おかしいと思いませんか。この夜会に招待されていない私が、この場にいた理由……あの伯爵夫妻に入れてもらったんですよ」
尋問に立ち会う貴族がざわりと揺れた。宰相を始めとする様々な役職の貴族の脳裏をよぎったのは、ある疑惑だ。皇族に恨みのある者を夜会に引き入れる。その意味を、私を含めた上位貴族は正確に理解した。
皇族の暗殺未遂――それは罪状としてかなり重い部類に入る。国家転覆罪に匹敵するほどの重罪だった。すぐに伯爵夫妻への逮捕命令が出され、命を取り留めた夫とその妻は貴族用の牢へ入れられた。
伯爵夫妻への追及はまだだが……おそらくオロスコ元男爵の供述が裏付けられるだろう。割り切って様々な裏事情を暴露する男は、その自白を功績として断首が確定した。
「ティナやリリアナ嬢の耳に入らぬよう、注意しなくてはならん」
「そうね」
同意する妻フェリシアを抱き締め、並んでベッドに横たわる。すぐに押し寄せる眠気に身を委ね、意識を手放した。とんでもない夜会になったが、家族が無事でよかったと。それだけが眠りに落ちる私の意識を掠めた。
この意見には賛成だ。当主であったオロスコ元男爵の罪が重くなれば、親族への罰も比例して厳しくなる。愚かな行為をした娘も、修道院へ入り反省する道があったのに。妻子を道連れにすると知りながら、元男爵が人を傷つけた理由……。そこには同情の余地があったのだ。
オロスコ元男爵が一人娘の教育を間違え、貴族として必要な調査を怠った事実は変わらない。だが陥れた側が、平民落ち程度で生き延びるのは腹が立っただろう。そこへ加え、連れ去られる彼は気づいてしまった。自分の人生は終わるのに、平然と罪を逃れた存在がいる。
ダンスフロアで踊る伯爵夫妻は、彼を騙したグラセス元公爵夫人の両親だった。グラセス家に後妻として入り、正当な嫡女を虐待した女。彼女のせいで、自分達は貴族の爵位を失った。子爵家から男爵へ、さらに嘆願により平民へと。
貴族でなければ、領地も取り上げられる。ずっと貴族として暮らしてきた男が、手に職を持っているわけもなく。今後は没落の一途を辿るだろう。妻子を着飾ることはもちろん、まともな屋敷に住まわせることも難しい。それどころか、悪くすれば日々の食事にも事欠く未来が待っていた。
怖ろしい考えが彼の頭をよぎったのだ。どうせ破滅するなら、もろともに……道連れにするなら、妻子だけじゃなく元凶の女の親も、と。未来が好転する可能性はゼロに等しい。ならば爵位を保つ元凶の親を引きずり下ろしてやろう。
尋問に対し、オロスコ元男爵は一切言い淀まなかった。すらすらと聞かれるまま話し続ける。気が触れているのかも知れない。そう思うほど、明るい声で朗らかに語った。
「そもそも、おかしいと思いませんか。この夜会に招待されていない私が、この場にいた理由……あの伯爵夫妻に入れてもらったんですよ」
尋問に立ち会う貴族がざわりと揺れた。宰相を始めとする様々な役職の貴族の脳裏をよぎったのは、ある疑惑だ。皇族に恨みのある者を夜会に引き入れる。その意味を、私を含めた上位貴族は正確に理解した。
皇族の暗殺未遂――それは罪状としてかなり重い部類に入る。国家転覆罪に匹敵するほどの重罪だった。すぐに伯爵夫妻への逮捕命令が出され、命を取り留めた夫とその妻は貴族用の牢へ入れられた。
伯爵夫妻への追及はまだだが……おそらくオロスコ元男爵の供述が裏付けられるだろう。割り切って様々な裏事情を暴露する男は、その自白を功績として断首が確定した。
「ティナやリリアナ嬢の耳に入らぬよう、注意しなくてはならん」
「そうね」
同意する妻フェリシアを抱き締め、並んでベッドに横たわる。すぐに押し寄せる眠気に身を委ね、意識を手放した。とんでもない夜会になったが、家族が無事でよかったと。それだけが眠りに落ちる私の意識を掠めた。
93
あなたにおすすめの小説
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる