【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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77.全身に感じる木漏れ日の下で

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 オスカル様は約束通り、迎えにきてくれた。お母様の見立てで、さらりとしたワンピースを纏う。靴は転ばないよう、ヒールが低く安定したものを選んだ。

 リリアナは朝から入り浸り、髪飾りをお揃いだと喜ぶ。お母様が用意した物らしい。ハーフアップにした髪にリボンを絡め、下の方で纏める。首についた傷を隠すように、髪飾りを付けた。準備を整えてすぐ、オスカル様が歩み寄る。

「腕を絡める許可をいただけますか?」

「え、ええ。よろしくお願いします」

 触れたいと言われ、ぽんと腕に触れる指先。怖さはなくて、慌てて頷いた。右腕をしっかりと絡め、体を寄り添わせる。未婚の男女の距離として問題ないかしら。

「お母様……その」

「親戚だもの、普通よ。それに目が見えない人の介助を、オスカル様は学んできたのよ。任せて気を楽に楽しんでらっしゃい」

 小さく気遣う彼のエスコートで、足を踏み出す。廊下を通って、一度立ち止まって確認された。承諾してまた足を進めれば、石の硬い感触が靴裏から届く。お母様が用意した靴は、踵への配慮だけではなかった。しなやかな靴底は薄く、石畳から芝へ移動する感触が伝わる。

「お姉様、こっち!」

「こっちは通じないよ、リリアナ。手に触れてゆっくり引き寄せるんだ」

 こっちと表現した方角が、左手の指を引く動きで分かる。オスカル様の説明や指示に、リリアナは素直に従った。外へ出て興奮する幼子は、どうしても自分の目線で動く。それをやんわりと窘めて、方向修正するオスカル様の声は柔らかかった。

「ああ、花が咲いていますね。匂いで分かりますか?」

「ええ、ハーブかしら」

「小さな白い花です、ほら」

 オスカル様が指を誘導して触れさせたのは、細く柔らかい草花だった。花に触れた指先から、スパイシーな香りがする。

「この先に林があります。木の根があるので、手前で休憩しましょう」

 案内されて座った場所は、芝だった。いつもは絨毯やシートを敷いた上に座る。天然の絨毯である芝の感触を指先で確かめる。顔に触れる日差しに温度差があって、木漏れ日なのだと気付いた。今までは感じられなかった全てが、新しい世界を開くように飛び込んでくる。

「世界が変わったみたいに感じるわ」

 同意するオスカル様が、私をゆっくりと倒した。芝に横たわると、草の青い匂いが胸に満ちる。隣に寝転んだリリアナが、空が青いとか、赤い尾羽の鳥がいると教えてくる。相槌を打ちながら、昨夜医師に言われた言葉を思い出した。

 気持ちを楽にして、思い詰めない方が早く見えるかもしれませんよ。無責任に聞こえた言葉だけど、こういうことかしら。閉じこもってジメジメするより、外でからりと晴れた明るい日差しを浴びて、気持ちを大きくしなさい。そうすれば道が開ける、と。

 お祖父様やお祖母様が責任を感じて、重い雰囲気になっていた。ひいお祖父様もピリピリしている。そんな中、大公家のオスカル様やリリアナが寄り添ってくれて、お母様が明るく笑って。

 深呼吸する。大丈夫、見えるようになるわ。エルの寝返りもまだ見ていないし、歩けるようになるところも見たい。リリアナが綺麗な淑女へ成長する姿も、オスカル様の微笑みも。エルやリリアナに絵本を読み聞かせ、一緒にお菓子作りもしたいわ。

 夢を満たした深呼吸を繰り返し、私はゆっくりと両手を上に上げた。閉じてばかりの瞼を薄く開いてみる。眩しいと感じて……希望が溢れでた。

「明るさを感じるわ」

「光を? 良かった」

 オスカル様の短い言葉に、湿った響きが滲んだ気がする。私は気づかなかったフリをした。
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