96 / 122
96.この子、マリアにします
しおりを挟む
途中で休憩を挟みながら、馬車はトラブルもなく公国に入った。美しい草原を抜け、整えられた街並みを走る。ベルトラン将軍が、窓から話しかけた。
「もうすぐ到着いたしますぞ」
「ありがとうございます」
窓から見える景色に、見覚えのある屋敷が現れた。美しい庭のある屋敷の前で、馬車は速度を緩める。護衛の騎士が編成を直し、前後に整列した。馬車を囲む形での護衛はもう必要ないのでしょう。
玄関先へ滑り込んだ馬車が止まる前に、リリアナを起こす。まだ眠そうだけれど、久しぶりの領地帰還だもの。眠ったままは可哀想だわ。目元を優しく拭いて、乱れた髪を整えた。
「これでいいわ。可愛いわよ、リリアナ」
「ありがとうございます、お義母様」
にこにこと笑うリリアナは、お人形をしっかり抱え直した。人形の服や髪の乱れを指先で整え、私を見つめる。
「この子、マリアにします」
「マリア? いい名前だわ」
お母様が声をあげると、照れたリリアナはほんのりと頬を染める。そこで馬車が停まった。僅かな揺れを残し、御者が扉をノックする。応じて開かれた扉の外に、オスカル様と大叔父様が待っていた。
「豪華なお迎えですこと」
お母様がほほほと笑う。オスカル様が伸ばした手を取り、リリアナが最初に降り立った。抱きついて「ただいま」と挨拶をする彼女は、年齢相応の幼子に見えた。私の前ではまだ大人ぶっているけど、慣れたら幼い振る舞いで甘えて欲しいわ。
「ティナ、どうぞ」
「ありがとうございます」
続いて私がオスカル様の手を掴む。それからエルを受け取って、最後にお母様が大叔父様の手を借りて馬車を降りた。敬礼するベルトラン将軍に、大叔父様が酒の誘いを向ける。職務中だと断られ、残念そうに呻いた。
「手合わせをお願いして、それから夜は飲んだらいいわ。ベルトランも騎士達も、明日はまだ帰らないんだもの。ゆっくり休みなさい」
お母様が断言したことで、全員休暇となった。もし明日出掛けるとしても、大公家の騎士達が護衛してくれる。ほぼ丸一日かけて移動したので、大叔父様やオスカル様もこの案を後押しした。
お母様がエルを抱くと仰るので渡せば、大叔父様も抱っこしたがる。人気のエルを微笑ましく思っていたら、リリアナが手を伸ばした。私が握れば、反対の手をオスカル様に伸ばしかけて、動きが止まる。
「お義祖母様、マリアを預けてもいいですか」
「あら、大切なマリアちゃんを預けてくれるの? 嬉しいわ」
エルを大叔父様に取られたお母様は、言葉通り嬉しそうに笑って受け取る。エルを抱くように、きちんと頭を支える形で抱っこした。空いた手をオスカル様と繋ぎ、リリアナは歩き始める。
銀髪のつむじを見下ろし、私は嬉しくなった。私やお母様に甘えることに躊躇がなくなってきたわ。
「リリアナ、あとでマリアを紹介してくれないか?」
「ええ、お義父様。私の大切なお友達なのよ」
得意げに語るリリアナは、ちらりと私を振り返る。その仕草が可愛くて、自然と頬が緩んだ。
「今度一緒にマリアのお洋服を作りましょうね」
「頑張る」
幸せはすぐ近くで、可愛らしい笑顔を振り撒いていた。
「もうすぐ到着いたしますぞ」
「ありがとうございます」
窓から見える景色に、見覚えのある屋敷が現れた。美しい庭のある屋敷の前で、馬車は速度を緩める。護衛の騎士が編成を直し、前後に整列した。馬車を囲む形での護衛はもう必要ないのでしょう。
玄関先へ滑り込んだ馬車が止まる前に、リリアナを起こす。まだ眠そうだけれど、久しぶりの領地帰還だもの。眠ったままは可哀想だわ。目元を優しく拭いて、乱れた髪を整えた。
「これでいいわ。可愛いわよ、リリアナ」
「ありがとうございます、お義母様」
にこにこと笑うリリアナは、お人形をしっかり抱え直した。人形の服や髪の乱れを指先で整え、私を見つめる。
「この子、マリアにします」
「マリア? いい名前だわ」
お母様が声をあげると、照れたリリアナはほんのりと頬を染める。そこで馬車が停まった。僅かな揺れを残し、御者が扉をノックする。応じて開かれた扉の外に、オスカル様と大叔父様が待っていた。
「豪華なお迎えですこと」
お母様がほほほと笑う。オスカル様が伸ばした手を取り、リリアナが最初に降り立った。抱きついて「ただいま」と挨拶をする彼女は、年齢相応の幼子に見えた。私の前ではまだ大人ぶっているけど、慣れたら幼い振る舞いで甘えて欲しいわ。
「ティナ、どうぞ」
「ありがとうございます」
続いて私がオスカル様の手を掴む。それからエルを受け取って、最後にお母様が大叔父様の手を借りて馬車を降りた。敬礼するベルトラン将軍に、大叔父様が酒の誘いを向ける。職務中だと断られ、残念そうに呻いた。
「手合わせをお願いして、それから夜は飲んだらいいわ。ベルトランも騎士達も、明日はまだ帰らないんだもの。ゆっくり休みなさい」
お母様が断言したことで、全員休暇となった。もし明日出掛けるとしても、大公家の騎士達が護衛してくれる。ほぼ丸一日かけて移動したので、大叔父様やオスカル様もこの案を後押しした。
お母様がエルを抱くと仰るので渡せば、大叔父様も抱っこしたがる。人気のエルを微笑ましく思っていたら、リリアナが手を伸ばした。私が握れば、反対の手をオスカル様に伸ばしかけて、動きが止まる。
「お義祖母様、マリアを預けてもいいですか」
「あら、大切なマリアちゃんを預けてくれるの? 嬉しいわ」
エルを大叔父様に取られたお母様は、言葉通り嬉しそうに笑って受け取る。エルを抱くように、きちんと頭を支える形で抱っこした。空いた手をオスカル様と繋ぎ、リリアナは歩き始める。
銀髪のつむじを見下ろし、私は嬉しくなった。私やお母様に甘えることに躊躇がなくなってきたわ。
「リリアナ、あとでマリアを紹介してくれないか?」
「ええ、お義父様。私の大切なお友達なのよ」
得意げに語るリリアナは、ちらりと私を振り返る。その仕草が可愛くて、自然と頬が緩んだ。
「今度一緒にマリアのお洋服を作りましょうね」
「頑張る」
幸せはすぐ近くで、可愛らしい笑顔を振り撒いていた。
79
あなたにおすすめの小説
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる