110 / 122
110.あなたを愛しています
しおりを挟む
胸の下からすらりと伸びた白絹は、美しく刺繍に彩られていた。銀と白、それから裾へ向けて色が濃くなっていく水色の花刺繍だ。国花である薔薇を大胆にあしらい、周囲を各貴族家の紋章に使われた草花で埋め尽くす。我がエリサリデ公爵家の百合が、肩から胸元へ掛けて咲き誇った。
来賓として訪れる貴族だけでなく、辺境を守る当主が立ち会えない貴族家であっても、カルレオン帝国を支える大切な方々。だから紋章の花をスカートにあしらった。お飾りは金細工にサファイアにした。魔除けであると同時に、アルムニア公国のシンボルでもある宝石だ。
大公妃のためにと、大粒の宝石を用意してもらえた。中央に十字の光が入る。柔らかな丸みを帯びたカボションは、ずっしりと重い、私がこれから背負っていく責任の重さと比べられないけれど、ひとつ深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「行こうか、ティナ」
優しい声なのに、どこか寂しそう。お父様の呼びかけに頷き、リリアナを振り返った。
「ヴェールをお願いね」
「任せて、お義母様」
年齢の割にしっかりし過ぎた義娘に微笑み、私は前を向いた。両開きの扉を見つめる。もう一度ゆっくり息を吐いて、姿勢を正した。吸い込むタイミングで、衛兵達が扉を開く。
楽隊の演奏の中、私とお父様は足を踏み出した。右足を一歩、左足を添える。左足を一歩、また揃える。繰り返す仕草はまるでダンスのよう。お父様は忙しくても、私のデビュタント前に時間を作ってダンスの相手をしてくださったわ。
前を向いた私の目に、涙ぐむお母様が映った。いつでも優しくて、色々なことを教えてくれた。セルラノ侯爵家へ乗り込んで、私を救い出したお母様の勇ましかったこと。強く気高く美しく、私の目標である女性です。
お祖父様とお祖母様は、一段高い位置から見守っていた。困った時にすぐ助けの手を伸ばしてもらえ、お祖父様の気持ちがどれだけ嬉しかったか。必死で逃げた私達を迎えたお祖母様の微笑みと抱擁に、どれほど感謝したことか。
カルレオン帝国へ来てからの思い出が一気に溢れる。潤んだ瞳を忙しく瞬き、涙を堪えようと顎を反らした。
さらに歩いた先で、ひいお祖父様と目が合う。柔らかな微笑みで頷くお姿に、伝え聞く苛烈な戦帝の過去は窺い知れない。家族の繋がりを何より大切にし、亡くなられたひいお祖母様を一筋に愛された情の深い方。可愛いエルに名前を頂いた、ナサニエル陛下へ頷き返した。
他国へ留学していた皇太子殿下が、ひいお祖父様の脇で会釈した。お久しぶりですわ。幼い頃以来ですね。庭で転んだ私を助け起こし、涙と汚れをハンカチで拭ってくれた優しさは忘れません。
向かい側は他国から訪れた来賓達。軽く会釈し、ヴェール越しに確認する。視線を正面に戻せば、胸がきゅっと苦しくなった。ドキドキする気持ちが溢れ出す。
オスカル・ジ・アルムニア――私と対になるよう誂えた衣装は、柔らかなグレーでした。銀と白の刺繍に、一部強めの青を混ぜて。アルムニア大公家に伝わるサファイアの房飾りを、儀礼用の剣に飾っている。見惚れる彫刻のごとき美丈夫は、お父様にエスコートされた私に手を差し伸べた。
微笑んで応じ、父から夫になる男性へと身を任せる。人前式のため、人々へ二人の結婚を宣言する。ここに一生愛し抜き、死が二人を分かっても墓まで一緒に。そう付け加えた。ヴェールを引くリリアナの、鼻を啜る音が聞こえた。
来賓として訪れる貴族だけでなく、辺境を守る当主が立ち会えない貴族家であっても、カルレオン帝国を支える大切な方々。だから紋章の花をスカートにあしらった。お飾りは金細工にサファイアにした。魔除けであると同時に、アルムニア公国のシンボルでもある宝石だ。
大公妃のためにと、大粒の宝石を用意してもらえた。中央に十字の光が入る。柔らかな丸みを帯びたカボションは、ずっしりと重い、私がこれから背負っていく責任の重さと比べられないけれど、ひとつ深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「行こうか、ティナ」
優しい声なのに、どこか寂しそう。お父様の呼びかけに頷き、リリアナを振り返った。
「ヴェールをお願いね」
「任せて、お義母様」
年齢の割にしっかりし過ぎた義娘に微笑み、私は前を向いた。両開きの扉を見つめる。もう一度ゆっくり息を吐いて、姿勢を正した。吸い込むタイミングで、衛兵達が扉を開く。
楽隊の演奏の中、私とお父様は足を踏み出した。右足を一歩、左足を添える。左足を一歩、また揃える。繰り返す仕草はまるでダンスのよう。お父様は忙しくても、私のデビュタント前に時間を作ってダンスの相手をしてくださったわ。
前を向いた私の目に、涙ぐむお母様が映った。いつでも優しくて、色々なことを教えてくれた。セルラノ侯爵家へ乗り込んで、私を救い出したお母様の勇ましかったこと。強く気高く美しく、私の目標である女性です。
お祖父様とお祖母様は、一段高い位置から見守っていた。困った時にすぐ助けの手を伸ばしてもらえ、お祖父様の気持ちがどれだけ嬉しかったか。必死で逃げた私達を迎えたお祖母様の微笑みと抱擁に、どれほど感謝したことか。
カルレオン帝国へ来てからの思い出が一気に溢れる。潤んだ瞳を忙しく瞬き、涙を堪えようと顎を反らした。
さらに歩いた先で、ひいお祖父様と目が合う。柔らかな微笑みで頷くお姿に、伝え聞く苛烈な戦帝の過去は窺い知れない。家族の繋がりを何より大切にし、亡くなられたひいお祖母様を一筋に愛された情の深い方。可愛いエルに名前を頂いた、ナサニエル陛下へ頷き返した。
他国へ留学していた皇太子殿下が、ひいお祖父様の脇で会釈した。お久しぶりですわ。幼い頃以来ですね。庭で転んだ私を助け起こし、涙と汚れをハンカチで拭ってくれた優しさは忘れません。
向かい側は他国から訪れた来賓達。軽く会釈し、ヴェール越しに確認する。視線を正面に戻せば、胸がきゅっと苦しくなった。ドキドキする気持ちが溢れ出す。
オスカル・ジ・アルムニア――私と対になるよう誂えた衣装は、柔らかなグレーでした。銀と白の刺繍に、一部強めの青を混ぜて。アルムニア大公家に伝わるサファイアの房飾りを、儀礼用の剣に飾っている。見惚れる彫刻のごとき美丈夫は、お父様にエスコートされた私に手を差し伸べた。
微笑んで応じ、父から夫になる男性へと身を任せる。人前式のため、人々へ二人の結婚を宣言する。ここに一生愛し抜き、死が二人を分かっても墓まで一緒に。そう付け加えた。ヴェールを引くリリアナの、鼻を啜る音が聞こえた。
61
あなたにおすすめの小説
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる