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38.無事でよかった ***SIDEバラム
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ほんの少しだった。花を入れる籠が欲しいと言われ、動かないようにお願いする。近くに侍女も見当たらず、仕方なく離れた。
私の竜生最大の失態だ。走って戻った場所に幼子の姿はなく、愛らしいルン様は消えていた。籠を放り出して探す私の目に飛び込んだのは、水が滴った痕跡だ。
――まさか?
慌てて噴水を覗くが、誰もいない。ほっとしたところで、縁に置いたままの花に気づいた。いないルン様、摘んでいた花を置いてどこへ? 水浸しの噴水周辺が示すのは、彼が落ちた可能性だ。誰かが救い出したのか。
焦りながらも花を籠に入れて、屋敷へ走って戻る。と、侍女を一人見かけた。
「ルン様をお見かけしなかったか? まだ四歳ほどの幼子で……」
「存じております」
ほっとして、膝から崩れ落ちる。廊下に座り込んだまま、追加の問いを放った。
「おケガはないか? どちらにおられる!」
「イオフィエル様と入浴なさっておいでです。タオルと着替えをお持ちするので、失礼します」
よく見れば、彼女の手にはタオルや布包みがある。布包みの中が着替えだろう。となれば、安全確認のために突入すれば……命がない。
イオフィエル嬢はとにかく強い。きりっとした女騎士の佇まいを持つお方だが、その外見以上に強かった。練習時に叩きのめされた記憶が蘇る。風呂に乱入して、万が一にも肌を見ようものなら……目を抉られるだろう。
ひとまず、風呂の外でお待ちするべきだ。ルンの警護は私の仕事であり、大切な役割だ。たとえ命じられなくても守りたくなる幼子だった。
無邪気で天真爛漫、素直なことは言うまでもない。愛らしいお姿で、ゴツい竜族を綺麗だと褒める。魔族は誘惑系の種族であれば、美形が多い。吸血種や淫魔の類、または魔王種などが該当する。
魔王の一人っ子であり、先代竜王の息子でもあるルン様は、生まれに相応しい可愛い外見をお持ちだった。丸い頬はほんのりと赤みを帯び、艶のある黒髪は光で赤く反射する。瞳の色は黄金色で、蜂蜜のように甘そうだ。
こんなに愛らしい子を守る役割をいただいたのに、離れた自分が悔やまれた。イオフィエル様はルン様を抱っこして、さっさと進む。まだ髪が濡れているのに、気にした様子もなかった。声をかけそびれて後ろをついていく。
ちらりとこちらへ向けられた視線は冷たく「能無しが」と射抜くように鋭かった。離れた間に噴水へ落ち、イオフィエル様が助けてくださったのなら、その謗りも甘んじて受ける。というか、当然だった。
幼子の命は儚いのに、普段聞き分けのいいお子だからと甘えた自分が悪い。室内へ入って二人が落ち着くまで、壁の一部となって耐えた。
もし護衛のお役目を外されるとしても、せめて謝罪をしたい。ルン様の目を見て、申し訳なかったと頭を下げるチャンスが欲しかった。声をかけたいのを堪える私に、ルン様の視線が向けられる。きょとんとした顔で、ルン様は「バラム」と呼んだ。
私の竜生最大の失態だ。走って戻った場所に幼子の姿はなく、愛らしいルン様は消えていた。籠を放り出して探す私の目に飛び込んだのは、水が滴った痕跡だ。
――まさか?
慌てて噴水を覗くが、誰もいない。ほっとしたところで、縁に置いたままの花に気づいた。いないルン様、摘んでいた花を置いてどこへ? 水浸しの噴水周辺が示すのは、彼が落ちた可能性だ。誰かが救い出したのか。
焦りながらも花を籠に入れて、屋敷へ走って戻る。と、侍女を一人見かけた。
「ルン様をお見かけしなかったか? まだ四歳ほどの幼子で……」
「存じております」
ほっとして、膝から崩れ落ちる。廊下に座り込んだまま、追加の問いを放った。
「おケガはないか? どちらにおられる!」
「イオフィエル様と入浴なさっておいでです。タオルと着替えをお持ちするので、失礼します」
よく見れば、彼女の手にはタオルや布包みがある。布包みの中が着替えだろう。となれば、安全確認のために突入すれば……命がない。
イオフィエル嬢はとにかく強い。きりっとした女騎士の佇まいを持つお方だが、その外見以上に強かった。練習時に叩きのめされた記憶が蘇る。風呂に乱入して、万が一にも肌を見ようものなら……目を抉られるだろう。
ひとまず、風呂の外でお待ちするべきだ。ルンの警護は私の仕事であり、大切な役割だ。たとえ命じられなくても守りたくなる幼子だった。
無邪気で天真爛漫、素直なことは言うまでもない。愛らしいお姿で、ゴツい竜族を綺麗だと褒める。魔族は誘惑系の種族であれば、美形が多い。吸血種や淫魔の類、または魔王種などが該当する。
魔王の一人っ子であり、先代竜王の息子でもあるルン様は、生まれに相応しい可愛い外見をお持ちだった。丸い頬はほんのりと赤みを帯び、艶のある黒髪は光で赤く反射する。瞳の色は黄金色で、蜂蜜のように甘そうだ。
こんなに愛らしい子を守る役割をいただいたのに、離れた自分が悔やまれた。イオフィエル様はルン様を抱っこして、さっさと進む。まだ髪が濡れているのに、気にした様子もなかった。声をかけそびれて後ろをついていく。
ちらりとこちらへ向けられた視線は冷たく「能無しが」と射抜くように鋭かった。離れた間に噴水へ落ち、イオフィエル様が助けてくださったのなら、その謗りも甘んじて受ける。というか、当然だった。
幼子の命は儚いのに、普段聞き分けのいいお子だからと甘えた自分が悪い。室内へ入って二人が落ち着くまで、壁の一部となって耐えた。
もし護衛のお役目を外されるとしても、せめて謝罪をしたい。ルン様の目を見て、申し訳なかったと頭を下げるチャンスが欲しかった。声をかけたいのを堪える私に、ルン様の視線が向けられる。きょとんとした顔で、ルン様は「バラム」と呼んだ。
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