68 / 90
68.あの子は無事なの? ***SIDE母
しおりを挟む
目が覚めて、凍りついた状況に驚く。いつこんな状態になったのか。何が起きたのか……記憶が混濁している。隣には夫がおり、同じように目覚めていた。頷きあって氷を砕く。
ぱりっと雷が走り、氷は大きく割れて落ちた。ここで、今いる場所が寝室なのだと気づく。すぐ近くのベッドに置いてある子供服が目に入った。
「っ! ルンは?」
「この部屋にはいないようだ。というか、どのくらい?」
同じように目覚めたばかりの夫は当てにならない。砕いた氷を一瞬で蒸発させた。と家の中に不審な気配を感じた。ドラゴン?
「お目覚めですか、現在ご子息がこちらに向かっております」
膝をついて敬意を示す竜族の若者は、服装からして兵士のようだ。隣で元竜王の夫も頷く。見覚えがあると示されたことと、言葉の内容に安心した。どうやら不測の事態に対応し、現竜王が息子を保護してくれたらしい。
「ルンの保護に感謝します。あの子は元気ですか」
「はい。健やかにお過ごしです」
こちらに向かっているなら、勝手に動かない方がいい。行き違いになる面倒を避けるため、夫婦は居間へ移動した。やたらと空腹なので、そこそこの時間が経過したのは間違いない。
駆けつけたのは、ルンより魔族の方が早かった。飛び込んだヴラドは半泣きだ。空腹を伝えると、大急ぎで食事の手配を始めた。竜族の若者も、同様に飛び出していく。
「お二人は動かないでください」
ヴラドに念を押され、大人しくソファに座った。家の中を確かめると、さほど汚れていない。客間は兵士の常駐用スペースに改装され、経過した時間を想像させた。思ったより長く封じられていたのでは?
夫の外見にさほど変化はない。強いて違いを挙げるなら、肌の色が濃くなった。それからツノが大きくなったかもしれない。
「逞しくなったわね」
「そうかい? 君はとても魅力が増したよ」
夫によれば、魔力が眩しいくらいに豊かになり、髪色が黄金に輝いているという。後ろで結った髪を解き、手元に引き寄せて確認した。その際に感じた違和感に、胸を撫でる。
「……大きく?」
胸が大きくなった! 喜びの声を上げる直前、飛び込んできた子供に目が釘付けになる。髪と肌、瞳の色はもちろん顔立ちも。間違いなく、息子のルンだった。まだ四歳であどけない幼子だったあの子が、倍の年齢にまで成長している。
「お母さん、お父さん」
呼んで立ち止まった息子に、私は駆け寄った。
「ルン、ごめんなさいね」
まだ混濁した記憶の整理は終わっていないが、こんなに大きくなるまで放置したことを詫びる。不可抗力であっても、怒っているだろうか。震える手で背中に回した手は拒まれることなく、ルンは素直に胸に顔を埋めた。
「悪かった、ルン。愛してるぞ」
自慢の息子だ、そう告げる夫が後ろから二人まとめて抱きしめた。背中に感じる温もりより、少し体温の高い息子。頬を伝う涙がルンの髪に落ちた。
狩りを終えて戻ったヴラドが声を掛けるまで、私達は抱き合ったまま動かない。生きていてくれてありがとう、一緒にいられなくてごめんね。言葉で伝えきれない想いを、すべて込めた抱擁はしばらく続いた。
愛してるわ、ルン。
ぱりっと雷が走り、氷は大きく割れて落ちた。ここで、今いる場所が寝室なのだと気づく。すぐ近くのベッドに置いてある子供服が目に入った。
「っ! ルンは?」
「この部屋にはいないようだ。というか、どのくらい?」
同じように目覚めたばかりの夫は当てにならない。砕いた氷を一瞬で蒸発させた。と家の中に不審な気配を感じた。ドラゴン?
「お目覚めですか、現在ご子息がこちらに向かっております」
膝をついて敬意を示す竜族の若者は、服装からして兵士のようだ。隣で元竜王の夫も頷く。見覚えがあると示されたことと、言葉の内容に安心した。どうやら不測の事態に対応し、現竜王が息子を保護してくれたらしい。
「ルンの保護に感謝します。あの子は元気ですか」
「はい。健やかにお過ごしです」
こちらに向かっているなら、勝手に動かない方がいい。行き違いになる面倒を避けるため、夫婦は居間へ移動した。やたらと空腹なので、そこそこの時間が経過したのは間違いない。
駆けつけたのは、ルンより魔族の方が早かった。飛び込んだヴラドは半泣きだ。空腹を伝えると、大急ぎで食事の手配を始めた。竜族の若者も、同様に飛び出していく。
「お二人は動かないでください」
ヴラドに念を押され、大人しくソファに座った。家の中を確かめると、さほど汚れていない。客間は兵士の常駐用スペースに改装され、経過した時間を想像させた。思ったより長く封じられていたのでは?
夫の外見にさほど変化はない。強いて違いを挙げるなら、肌の色が濃くなった。それからツノが大きくなったかもしれない。
「逞しくなったわね」
「そうかい? 君はとても魅力が増したよ」
夫によれば、魔力が眩しいくらいに豊かになり、髪色が黄金に輝いているという。後ろで結った髪を解き、手元に引き寄せて確認した。その際に感じた違和感に、胸を撫でる。
「……大きく?」
胸が大きくなった! 喜びの声を上げる直前、飛び込んできた子供に目が釘付けになる。髪と肌、瞳の色はもちろん顔立ちも。間違いなく、息子のルンだった。まだ四歳であどけない幼子だったあの子が、倍の年齢にまで成長している。
「お母さん、お父さん」
呼んで立ち止まった息子に、私は駆け寄った。
「ルン、ごめんなさいね」
まだ混濁した記憶の整理は終わっていないが、こんなに大きくなるまで放置したことを詫びる。不可抗力であっても、怒っているだろうか。震える手で背中に回した手は拒まれることなく、ルンは素直に胸に顔を埋めた。
「悪かった、ルン。愛してるぞ」
自慢の息子だ、そう告げる夫が後ろから二人まとめて抱きしめた。背中に感じる温もりより、少し体温の高い息子。頬を伝う涙がルンの髪に落ちた。
狩りを終えて戻ったヴラドが声を掛けるまで、私達は抱き合ったまま動かない。生きていてくれてありがとう、一緒にいられなくてごめんね。言葉で伝えきれない想いを、すべて込めた抱擁はしばらく続いた。
愛してるわ、ルン。
323
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる