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69.嬉しいのに涙が出る
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人の形に戻るディーが「先に行け!」と叫んだ。ありがとうを大声で返し、僕は走り出す。このお家を出た日に比べたら、ずっと速くなった。体も大きくなって、強くなったんだよ。
客間に駆け込んだ僕の目に映るのは、きらきらするお母さんとお父さんだった。まだ僕に気づいていない。お母さんは何かを呟いて、お父さんは優しく微笑んだ。
「お母さん、お父さん」
夢にみた再会だけど、現実では大きな声が出なかった。夢の中では大声で叫んで、全力で飛びついたけど。今は足が重くなって、止まってしまう。
だって、お母さんが僕を覚えていなかったら? お父さんも同じだ。僕なんて知らないと言われたら、どうしよう。怖くて足が竦む。
ぱっとこちらを見た二人の表情が変わった。お母さんは泣きそうで、驚いた顔のお父さん。両手を広げて、お母さんが近づいてきた。ぎゅっと抱きしめられる。
「ルン、ごめんなさいね」
謝るお母さんの腕が震えていて、僕と一緒で怖いのかも……と気づいた。ぼふんとお胸に顔を埋めて、お母さんの匂いを確かめる。間違いない、僕のお母さんだ。ずっと会いたかったし、抱っこしてほしかったし、声を聞きたかった。
「悪かった、ルン。愛してるぞ。お前は自慢の息子だ」
お父さんの声が聞こえて、お母さんごと腕にすっぽり収まる。僕ね、頑張ったの。優しくて綺麗なお母さんみたいに、怖くて誰より優しいお父さんのように。お勉強も魔法も剣術も、いっぱい覚えたんだ。
言葉にしようとするけど、涙が出るだけ。声は出なくて喉に詰まってしまった。しゃくりあげて腕をお母さんの背中に回す。お父さんの涙が髪に落ちて、ちょっとだけ上を向いた。お父さんとお母さん、温かい。
大好き、また一緒に暮らせるのかな。僕、忘れられていなかったね。すごく嬉しい。伝えたいことも話したいことも、山ほどあるんだ。だけど、今は動きたくない。少し苦しい腕の中で、じっとしていたかった。
「やれやれ、我が君……そろそろ食事にしませんか」
ほら、獲物です。吸血鬼のおじさんが口を挟み、ようやく僕達は腕の力を緩めた。いっぱい泣いたから、目が痒い。お母さんもお父さんも泣いてて、その顔のまま笑った。
「まずは料理か……火加減なら任せろ!」
ディーはわざと大きな声で話し、吸血鬼のおじさんと騒がしく出ていく。血を抜いたお肉をアガリが捌き、すぐにいい匂いがしてきた。お父さんとお母さんが消えちゃいそうな気がして、僕は繋いだ手を離せない。
忙しなく両側をみて、手に力を入れる。これは絶対に離さない。きゅっと唇を噛んだ僕だけど、お父さんがいきなり抱っこした。お母さんと手を繋いだまま、お父さんの腕にお座りする。
「え?」
「安心しろ、ずっと一緒だ」
「ほんと?」
「ええ、ルンの希望通りにするわ。もう安心していいのよ」
「……うん」
ずずっと鼻を啜る。二人とも一緒にいてくれる。これは約束だよ。だから、破ったらダメなんだからね。
客間に駆け込んだ僕の目に映るのは、きらきらするお母さんとお父さんだった。まだ僕に気づいていない。お母さんは何かを呟いて、お父さんは優しく微笑んだ。
「お母さん、お父さん」
夢にみた再会だけど、現実では大きな声が出なかった。夢の中では大声で叫んで、全力で飛びついたけど。今は足が重くなって、止まってしまう。
だって、お母さんが僕を覚えていなかったら? お父さんも同じだ。僕なんて知らないと言われたら、どうしよう。怖くて足が竦む。
ぱっとこちらを見た二人の表情が変わった。お母さんは泣きそうで、驚いた顔のお父さん。両手を広げて、お母さんが近づいてきた。ぎゅっと抱きしめられる。
「ルン、ごめんなさいね」
謝るお母さんの腕が震えていて、僕と一緒で怖いのかも……と気づいた。ぼふんとお胸に顔を埋めて、お母さんの匂いを確かめる。間違いない、僕のお母さんだ。ずっと会いたかったし、抱っこしてほしかったし、声を聞きたかった。
「悪かった、ルン。愛してるぞ。お前は自慢の息子だ」
お父さんの声が聞こえて、お母さんごと腕にすっぽり収まる。僕ね、頑張ったの。優しくて綺麗なお母さんみたいに、怖くて誰より優しいお父さんのように。お勉強も魔法も剣術も、いっぱい覚えたんだ。
言葉にしようとするけど、涙が出るだけ。声は出なくて喉に詰まってしまった。しゃくりあげて腕をお母さんの背中に回す。お父さんの涙が髪に落ちて、ちょっとだけ上を向いた。お父さんとお母さん、温かい。
大好き、また一緒に暮らせるのかな。僕、忘れられていなかったね。すごく嬉しい。伝えたいことも話したいことも、山ほどあるんだ。だけど、今は動きたくない。少し苦しい腕の中で、じっとしていたかった。
「やれやれ、我が君……そろそろ食事にしませんか」
ほら、獲物です。吸血鬼のおじさんが口を挟み、ようやく僕達は腕の力を緩めた。いっぱい泣いたから、目が痒い。お母さんもお父さんも泣いてて、その顔のまま笑った。
「まずは料理か……火加減なら任せろ!」
ディーはわざと大きな声で話し、吸血鬼のおじさんと騒がしく出ていく。血を抜いたお肉をアガリが捌き、すぐにいい匂いがしてきた。お父さんとお母さんが消えちゃいそうな気がして、僕は繋いだ手を離せない。
忙しなく両側をみて、手に力を入れる。これは絶対に離さない。きゅっと唇を噛んだ僕だけど、お父さんがいきなり抱っこした。お母さんと手を繋いだまま、お父さんの腕にお座りする。
「え?」
「安心しろ、ずっと一緒だ」
「ほんと?」
「ええ、ルンの希望通りにするわ。もう安心していいのよ」
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