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本編
第9話 守るのは私の役目なのだが
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街道沿いに立てられた魔物避けの旗を確認する。長細い槍のような形状の棒が魔除け本体なのだが、間違えて抜かないよう旗をつけているのだ。風にはためいた旗の間隔をひとつずつ確認した。
このあと王都から使用人を連れた兄が率いる馬車が通る。時間が遅くなる分、魔物に遭遇する危険性は高かった。少しでも危険を減らすために、丁寧に確認する。半分を超えた辺りで、馬が嘶いた。怯えた仕草で後ろに下がろうとする。
獣人である母カサンドラやアゼリアを乗せる馬達は、他の領地の馬と違い特殊な訓練を受けている。滅多なことで驚いたりしないはずだ。それが怯えて下がろうとするなら、本能が警告する捕食者の存在を示していた。アウグストとカサンドラが乗る馬も、下がらないまでも脚を止めてしまう。
「お父様は下がって」
「……アゼリア。こういう場面では娘と妻を守るのは私の役目なのだが?」
剣を抜きながら溜め息をつく公爵アウグストは気付いていた。お転婆娘は、自由に暴れたいだけなのだ。邪魔をすると後で文句を言われるだろう。仕方なく、抜身の剣を右手に構えたまま静観の姿勢を見せた。
「ありがとう、お父様のそういう優しさが好きよ」
砕けた口調でウィンクして寄越す娘に、後ろでカサンドラが声を立てて笑った。
「いいじゃない。好きになさいな。我がルベウス王家の血ですもの」
獣人国家であるルベウスは好戦的な種族が多い。自ら襲いかかる程分別がなければ自滅するだろうが、誇り高い彼らは自分より弱いものを甚振る行為に興味はなかった。
向かってくれば容赦なく敵を叩き潰すが、実力を認め合えるような強者との戦いを好む。誇りを傷つけられれば、手負いでも牙を剥く気の強さもあった。妻のそんな一面に惚れたアウグストとしては、そっくり受け継いだ娘アゼリアが可愛くて仕方ない。
魔物避けに近づける強者相手でも、傷つけられない限りで自由にさせる。そう決めて見守る父の前に進み出たアゼリアは、金瞳を煌めかせて愛用の剣を抜いた。
無骨にならないよう、細く削られた飾り物のような剣だ。柄に埋め込まれた宝石は、倒したカーバンクルから奪った紅石だった。魔法による強化を施し、軽く使いやすく、速さ重視の武器として作り上げた傑作品だ。
「そこ、でしょう?」
魔物避けのすぐ隣を、剣の先で指し示した。何もいない空間がぐにゃりと歪む。まるで空気や光が凝ったように、その姿は何もない場所に現れた。
「噂以上に美しい姫だ」
「え……?」
アゼリアは言葉を失った。見たこともない美形だ。彼女が知るどの女性より整った顔をしているのに、男性にしか見えない。顔だけの王太子より綺麗だった。そう、綺麗という表現が一番似合う。
低めの声はどこか甘い。身体の線が出るぴたりとした軍服に似た衣装を着ていた。黒髪と同色の瞳、対照的に真っ白な肌――幻想的な存在。これが夢で幻を見たのだと言われたら信じてしまいそうな、現実感の薄い人だった。
神様が顕現したらこんな感じかしら。心の中で呟いたアゼリアを見透かしたように、細身の男は明るい日差しを浴びて笑う。
「どうした、その剣を余に突き立てるのではないのか?」
このあと王都から使用人を連れた兄が率いる馬車が通る。時間が遅くなる分、魔物に遭遇する危険性は高かった。少しでも危険を減らすために、丁寧に確認する。半分を超えた辺りで、馬が嘶いた。怯えた仕草で後ろに下がろうとする。
獣人である母カサンドラやアゼリアを乗せる馬達は、他の領地の馬と違い特殊な訓練を受けている。滅多なことで驚いたりしないはずだ。それが怯えて下がろうとするなら、本能が警告する捕食者の存在を示していた。アウグストとカサンドラが乗る馬も、下がらないまでも脚を止めてしまう。
「お父様は下がって」
「……アゼリア。こういう場面では娘と妻を守るのは私の役目なのだが?」
剣を抜きながら溜め息をつく公爵アウグストは気付いていた。お転婆娘は、自由に暴れたいだけなのだ。邪魔をすると後で文句を言われるだろう。仕方なく、抜身の剣を右手に構えたまま静観の姿勢を見せた。
「ありがとう、お父様のそういう優しさが好きよ」
砕けた口調でウィンクして寄越す娘に、後ろでカサンドラが声を立てて笑った。
「いいじゃない。好きになさいな。我がルベウス王家の血ですもの」
獣人国家であるルベウスは好戦的な種族が多い。自ら襲いかかる程分別がなければ自滅するだろうが、誇り高い彼らは自分より弱いものを甚振る行為に興味はなかった。
向かってくれば容赦なく敵を叩き潰すが、実力を認め合えるような強者との戦いを好む。誇りを傷つけられれば、手負いでも牙を剥く気の強さもあった。妻のそんな一面に惚れたアウグストとしては、そっくり受け継いだ娘アゼリアが可愛くて仕方ない。
魔物避けに近づける強者相手でも、傷つけられない限りで自由にさせる。そう決めて見守る父の前に進み出たアゼリアは、金瞳を煌めかせて愛用の剣を抜いた。
無骨にならないよう、細く削られた飾り物のような剣だ。柄に埋め込まれた宝石は、倒したカーバンクルから奪った紅石だった。魔法による強化を施し、軽く使いやすく、速さ重視の武器として作り上げた傑作品だ。
「そこ、でしょう?」
魔物避けのすぐ隣を、剣の先で指し示した。何もいない空間がぐにゃりと歪む。まるで空気や光が凝ったように、その姿は何もない場所に現れた。
「噂以上に美しい姫だ」
「え……?」
アゼリアは言葉を失った。見たこともない美形だ。彼女が知るどの女性より整った顔をしているのに、男性にしか見えない。顔だけの王太子より綺麗だった。そう、綺麗という表現が一番似合う。
低めの声はどこか甘い。身体の線が出るぴたりとした軍服に似た衣装を着ていた。黒髪と同色の瞳、対照的に真っ白な肌――幻想的な存在。これが夢で幻を見たのだと言われたら信じてしまいそうな、現実感の薄い人だった。
神様が顕現したらこんな感じかしら。心の中で呟いたアゼリアを見透かしたように、細身の男は明るい日差しを浴びて笑う。
「どうした、その剣を余に突き立てるのではないのか?」
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