【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
29 / 238
本編

第26話 暴かれる騎士の仮面

しおりを挟む
 人間が住む領域の中で、へーファーマイアー公爵領はもっとも北に位置した。それは、人以外の種族が治める土地にもっとも近いという意味だ。他種族の侵略に備え、危険な土地に一番力を持つ貴族家を配置したように言われてきたが、実際は逆だった。

 いざというときに実家の援助を得て、この土地を守るために母カサンドラが望んだ領地だ。領地替えの際に貴族達は反対しなかった。前ヘーファーマイアー公爵領は肥沃な農地が広がる海沿いの土地で、この辺境の地との交換を彼らは大喜びで受け入れたのだ。

 今になれば、人間の土地の端にいる利点ばかりが目につく。ヘーファーマイアー公爵家が復興させた枯れ地は、かつて治めた土地に匹敵する収穫量を誇った。公爵家の手腕による豊かさを知る民は、領主一家と共に辺境に移り住んだ。開墾に尽力した彼らの結束は固い。

 頭の中で情報を整理しながら、凡庸を装う青年の脇に控える。多種多様な種族がひしめく魔国サフィロスの名宰相として辣腕を振るうメフィストから見て、ベルンハルトは特徴がなかった。上位貴族ゆえに顔立ちは整っているが、特筆すべき部分がない。

 妹アゼリアのように鮮やかな赤毛ではなく、少しくすんだ金髪は父親と同じだった。明るいブラウンと言っても通じそうな髪色に、同じ色の瞳。優しそうで穏やかな口調と表情を作り、誰にでも当たり障りのない態度で微笑みを浮かべる。

 機嫌を顔に出しやすい主君イヴリースとは真逆の存在に思えた。しかし当初の印象は当てにならない、とメフィストは眼鏡越しに観察を続ける。視線の意味に気づいているくせに、ベルンハルトは何も言わなかった。

「妹が失礼した。この砦で働きたいと希望したが、それはブルーノ殿個人の相談か?」

 言外にあの聖女を野放しにされては困ると匂わせる。ベルンハルトは穏やかに口元に微笑みを湛えたまま、ブルーノの反応を窺った。少し困った顔で、ブルーノが切り出す。

「彼女は私ではなく、贅沢をさせてくれる男を欲したようです。働きたいのは私だけです」

「なるほど」

 もっといい男を見つけた聖女エルザに振られたとも取れる言い分だ。しかしベルンハルトは金茶の瞳を細め、笑みを深めた。

「髪飾りを買い与えた隙に置いて逃げたのでは?」

「っ! 知って……」

 自領に招き入れて、そのまま放置するには危険すぎた。妹アゼリアが人前で婚約破棄などという辱めを受ける原因となった聖女を自称するエルザも、その愚かな女に惑わされた英雄の息子も、監視を付けない理由がなかった。

 ノックして入室した老執事スヴェンが小さな紙片を差し出す。さっと目を通し、ベルンハルトは口角を持ち上げた。舞い込んだ情報は彼にとって都合がいい内容だ。

 ヘーファーマイアー公爵家自慢の優秀な使用人達は、命じなくても彼らの監視と追跡を行った。その結果は逐一知らされ、最新の情報は手元にある。

「エルザは聖女ではない。そして聖女をかたった女の末路は悲惨です」

 これが最後の判断材料だ。ベルンハルトの手腕に満足そうに頷くメフィストは、眼鏡の奥で深赤の瞳を細めた。この一族ならば魔族の強者と渡り合う実力をもつ。魔王妃の後ろ盾として十分だと――値踏みする眼差しを隠すように、眼鏡のブリッジを指で押し上げるフリで緩んだ表情を覆った。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...