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本編
第46話 お願いが交錯する議場
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みんなの注目を浴びたアゼリアは、イヴリースを見上げる。美しい金色の瞳を覗き込む魔王の表情は柔らかく、すぐに頷いてくれそうだった。
「イヴリース、お願い」
「断る」
にっこり笑って拒否された。私、聞き間違えたかしら? アゼリアがこてりと首を傾けて周囲を見回すが、彼らが身振り手振りで「もう一度頼んで」と伝えてくる。どうやら耳が間違ってたわけじゃないらしい。幻聴ではなく、イヴリースは断ったのだ。
「どうしてダメなの?」
兄ベルンハルトにお菓子を強請るときの上目遣いで尋ねるアゼリアは、あざとい自覚はあった。それでも断れると思わなかったのが半分、こうなったら何が何でも篭絡してやると気合が入ったのが半分で、じっとイヴリースを見つめる。美人過ぎる婚約者に照れて頬が赤くなった。
「アゼリア、そのような顔は狡いぞ」
手ごたえありだ。視線を合わせたまま手を伸ばし、イヴリースの頬に手を這わせる。離れた席で父アウグストが「ああっ」とか「ごほん、げほっ」と大声やわざとらしい咳で邪魔するも、ベルンハルトに口をふさがれた。
「イヴリース」
「っ……」
悔しそうに眉をひそめたイヴリースががくりと項垂れた。伸ばした手が引き寄せて膝の上に座らせるのを、大人しく逆らわずに受け止めると……メフィストが溜め息を吐く。
「陛下の負けですね。準備いたします」
「……そうしてくれ」
どうやら口説き落とせたらしい。嬉しくて腕を首に回して抱き着くと、後ろで悲鳴が上がった。
「アゼリアっ! やめ……うわああああ……むぐっ、ううう゛」
途中でくぐもった声に振り向くと、アウグストがベルンハルトを始めとした辺境伯など力自慢に押さえつけられていた。まだ認めていない婚約者に抱き着く娘の邪魔をしたくて暴れる男を、アルブレヒト辺境伯が気の毒そうに宥める。
「アウグスト殿、諦めてくだされ」
「そうです。民のためです」
「彼はアゼリア姫の婚約者ですから」
他の貴族も同調し、彼の目を覆い耳を塞ぎ口を隠した。必死の彼らに目を見開いたアゼリアは「やだ……そんなにはしたないかしら」と膝から下りようとする。いくら魔王の懐柔が急務だったとはいえ、少しやりすぎたかもしれない。焦る彼女を、イヴリースは強く抱き締めた。
「あと少しだけ」
嘆願するように呟き、赤毛に顔を埋めた男に根負けした形で寄り掛かった。もうはしたなくても構わない。婚約者なのだから、悪評が立ったら責任を取ってもらえばいいわ。割り切ったアゼリアが大人しくなると、イヴリースは首筋に顔を埋めて目を閉じた。
長寿で圧倒的な力を揮う魔族の頂点に立つ男の甘えに、メフィストは苦笑いして目を逸らした。さすがに凝視するほど意地悪くない。少しすると満足したのか、イヴリースが顔を上げた。
「アゼリア、頼みがある」
「なに?」
「力を揮う間、余の姿を見ないで欲しい」
頼みというより願いに近い。不思議な言い回しにメフィストを見上げると、ぺこりと頭を下げられた。心の底から本心で見られたくないようだ。理由は不明だが、彼がここまで嫌がるならと了承した。
「イヴリース、お願い」
「断る」
にっこり笑って拒否された。私、聞き間違えたかしら? アゼリアがこてりと首を傾けて周囲を見回すが、彼らが身振り手振りで「もう一度頼んで」と伝えてくる。どうやら耳が間違ってたわけじゃないらしい。幻聴ではなく、イヴリースは断ったのだ。
「どうしてダメなの?」
兄ベルンハルトにお菓子を強請るときの上目遣いで尋ねるアゼリアは、あざとい自覚はあった。それでも断れると思わなかったのが半分、こうなったら何が何でも篭絡してやると気合が入ったのが半分で、じっとイヴリースを見つめる。美人過ぎる婚約者に照れて頬が赤くなった。
「アゼリア、そのような顔は狡いぞ」
手ごたえありだ。視線を合わせたまま手を伸ばし、イヴリースの頬に手を這わせる。離れた席で父アウグストが「ああっ」とか「ごほん、げほっ」と大声やわざとらしい咳で邪魔するも、ベルンハルトに口をふさがれた。
「イヴリース」
「っ……」
悔しそうに眉をひそめたイヴリースががくりと項垂れた。伸ばした手が引き寄せて膝の上に座らせるのを、大人しく逆らわずに受け止めると……メフィストが溜め息を吐く。
「陛下の負けですね。準備いたします」
「……そうしてくれ」
どうやら口説き落とせたらしい。嬉しくて腕を首に回して抱き着くと、後ろで悲鳴が上がった。
「アゼリアっ! やめ……うわああああ……むぐっ、ううう゛」
途中でくぐもった声に振り向くと、アウグストがベルンハルトを始めとした辺境伯など力自慢に押さえつけられていた。まだ認めていない婚約者に抱き着く娘の邪魔をしたくて暴れる男を、アルブレヒト辺境伯が気の毒そうに宥める。
「アウグスト殿、諦めてくだされ」
「そうです。民のためです」
「彼はアゼリア姫の婚約者ですから」
他の貴族も同調し、彼の目を覆い耳を塞ぎ口を隠した。必死の彼らに目を見開いたアゼリアは「やだ……そんなにはしたないかしら」と膝から下りようとする。いくら魔王の懐柔が急務だったとはいえ、少しやりすぎたかもしれない。焦る彼女を、イヴリースは強く抱き締めた。
「あと少しだけ」
嘆願するように呟き、赤毛に顔を埋めた男に根負けした形で寄り掛かった。もうはしたなくても構わない。婚約者なのだから、悪評が立ったら責任を取ってもらえばいいわ。割り切ったアゼリアが大人しくなると、イヴリースは首筋に顔を埋めて目を閉じた。
長寿で圧倒的な力を揮う魔族の頂点に立つ男の甘えに、メフィストは苦笑いして目を逸らした。さすがに凝視するほど意地悪くない。少しすると満足したのか、イヴリースが顔を上げた。
「アゼリア、頼みがある」
「なに?」
「力を揮う間、余の姿を見ないで欲しい」
頼みというより願いに近い。不思議な言い回しにメフィストを見上げると、ぺこりと頭を下げられた。心の底から本心で見られたくないようだ。理由は不明だが、彼がここまで嫌がるならと了承した。
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