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本編
第49話 闇を従える黒い獣
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ドラゴンの翼と鳥の羽を1対ずつ背に生やしたイヴリースの形がぼやける。第二形態を抜ける予兆に、メフィストはごくりと唾を飲んだ。第三形態は獣の本性が現れる。
弾けるような衝撃の直後、ベルンハルトは全身が震えるのを感じた。持ち上げた手は、小刻みに震えて止められない。右手を止めようと手首を掴んだ左手も、それ以上に震えている気がした。
肌全体が恐怖を感じ、顔を上げられない。右手首を掴んだ左手を凝視するベルンハルトの前に、メフィストが立った。少しだけ圧迫感が薄れる。全身を震わせながら、見届けなくてはとぎこちなく顔を上げた。
黒い毛皮の豹に似た猛獣がいた。頭の上に獣の耳はあるのに、顔の横にエルフのような耳も見える。それも毛に覆われ、あまりよく見えなかった。
豹に近いしなやかな巨体の尻尾は7本、メフィストが興奮した様子で尻尾の数は魔力量を示すのだと告げた。メフィストの第三形態である狼は5本の尾を持つ。この時点ですでに大きな差がついた。
ひとまわり大きくなった体は、さらに大きくなる。背に3対の翼が現れる。羽毛の羽とドラゴンの爪がついた翼、最後に半透明の薄く柔らかそうな羽が現れた。近いのは蝶だろうか。細い筋が何本が浮かぶ3対目の羽が広がると、魔力が物理的な圧力となる。
押されて膝をついたベルンハルトの上に、メフィストは数枚の結界を張った。それにより息苦しさも楽になる。見上げた先には、形容し難い魔物がいた。
魔物と呼ぶのが失礼なのを承知で、ベルンハルトは他に表現を思いつけない。角は弓のように後ろへ反り、イヴリースの背に届くかと思われるほど長かった。漆黒の毛皮は全身を包み、ベルベットの艶を纏う。目は爛々と紅を帯びて輝き、吐く息に冷気が混じる。
ピンと張ったヒゲを押し除けるように、犬歯が鋭く光を弾いた。前足は猛禽類の鉤爪を、後ろ足は猫科猛獣のしなやかさを見せつける。
「なんと……美しい」
うっとりと賛美するメフィストの手が、眼鏡を取り出してかける。魔王が嫌う姿は、どこまでも強さが際立つ。魔族にとって惚れ込まずに居られない、圧倒的な強さと美があった。
様々な種族を混ぜた姿なのに、嫌悪感はない。そのことにベルンハルトは気づかなかった。ただ……圧倒的な姿に、これが魔王の本当の姿かと息を飲む。
「まだ余力を残しているなんて、信じられませんね」
最終形態ではない。そう匂わせたメフィストは、暗赤の瞳を細める。魔王の最終形態は第三の獣ではなかった。だが今回必要な魔力はこの程度で足りるだろう。もっと強敵であったなら、次の段階も見せてもらえたのに。
残念そうに呟いたメフィストが、見上げる先で漆黒の闇の獣は咆哮を上げた。街中に響く振動と染み渡る魔力が世界を暗く感じさせる。
闇を支配し君臨する魔王の紅を帯びた黒瞳が、街道を進む一団を捉えた。愉悦と歓喜に身を震わせ、イヴリースだった獣は砦の外壁を飛び降りた。振動もなく着地した獣は、しなやかなバネを利用して敵への距離を一瞬で詰める。
「……大丈夫、なのか?」
「わかりません。最悪は全滅させる可能性も、否定できなくなりました」
暴走してしまったと苦笑いする宰相メフィストの悪びれない言葉に、ベルンハルトは震えている場合ではないと焦った。
弾けるような衝撃の直後、ベルンハルトは全身が震えるのを感じた。持ち上げた手は、小刻みに震えて止められない。右手を止めようと手首を掴んだ左手も、それ以上に震えている気がした。
肌全体が恐怖を感じ、顔を上げられない。右手首を掴んだ左手を凝視するベルンハルトの前に、メフィストが立った。少しだけ圧迫感が薄れる。全身を震わせながら、見届けなくてはとぎこちなく顔を上げた。
黒い毛皮の豹に似た猛獣がいた。頭の上に獣の耳はあるのに、顔の横にエルフのような耳も見える。それも毛に覆われ、あまりよく見えなかった。
豹に近いしなやかな巨体の尻尾は7本、メフィストが興奮した様子で尻尾の数は魔力量を示すのだと告げた。メフィストの第三形態である狼は5本の尾を持つ。この時点ですでに大きな差がついた。
ひとまわり大きくなった体は、さらに大きくなる。背に3対の翼が現れる。羽毛の羽とドラゴンの爪がついた翼、最後に半透明の薄く柔らかそうな羽が現れた。近いのは蝶だろうか。細い筋が何本が浮かぶ3対目の羽が広がると、魔力が物理的な圧力となる。
押されて膝をついたベルンハルトの上に、メフィストは数枚の結界を張った。それにより息苦しさも楽になる。見上げた先には、形容し難い魔物がいた。
魔物と呼ぶのが失礼なのを承知で、ベルンハルトは他に表現を思いつけない。角は弓のように後ろへ反り、イヴリースの背に届くかと思われるほど長かった。漆黒の毛皮は全身を包み、ベルベットの艶を纏う。目は爛々と紅を帯びて輝き、吐く息に冷気が混じる。
ピンと張ったヒゲを押し除けるように、犬歯が鋭く光を弾いた。前足は猛禽類の鉤爪を、後ろ足は猫科猛獣のしなやかさを見せつける。
「なんと……美しい」
うっとりと賛美するメフィストの手が、眼鏡を取り出してかける。魔王が嫌う姿は、どこまでも強さが際立つ。魔族にとって惚れ込まずに居られない、圧倒的な強さと美があった。
様々な種族を混ぜた姿なのに、嫌悪感はない。そのことにベルンハルトは気づかなかった。ただ……圧倒的な姿に、これが魔王の本当の姿かと息を飲む。
「まだ余力を残しているなんて、信じられませんね」
最終形態ではない。そう匂わせたメフィストは、暗赤の瞳を細める。魔王の最終形態は第三の獣ではなかった。だが今回必要な魔力はこの程度で足りるだろう。もっと強敵であったなら、次の段階も見せてもらえたのに。
残念そうに呟いたメフィストが、見上げる先で漆黒の闇の獣は咆哮を上げた。街中に響く振動と染み渡る魔力が世界を暗く感じさせる。
闇を支配し君臨する魔王の紅を帯びた黒瞳が、街道を進む一団を捉えた。愉悦と歓喜に身を震わせ、イヴリースだった獣は砦の外壁を飛び降りた。振動もなく着地した獣は、しなやかなバネを利用して敵への距離を一瞬で詰める。
「……大丈夫、なのか?」
「わかりません。最悪は全滅させる可能性も、否定できなくなりました」
暴走してしまったと苦笑いする宰相メフィストの悪びれない言葉に、ベルンハルトは震えている場合ではないと焦った。
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