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本編
第53話 八つ裂きにしてやる
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食い破られても構わない。最後だから告げた告白は、好きよと言うつもりだった。なのに溢れた言葉は違っていて……これが本音なのだろう。最後に告げられたならよかった。
目を閉じたアゼリアの首に、牙が触れる。このまま黒い獣が力を込めたら、命が終わるかも……ぞくりと背筋を痺れが走った。尻尾の先まで毛が逆立つ。捕食される動物のように身を硬くした狐の耳をぺろりと毛づくろいされた。片方だけ先が赤茶に染まった耳を揺らすと、舌で追い回される。
食べられるわけではなさそう。ほっとしたアゼリアが身体の力を抜いた。地面に横たわった2匹の獣へ人間が近づいてくるのを、イヴリースが尻尾で威嚇した。
漆黒の獣が頬ずりしながら、ぐるぐると喉を鳴らす。彼の重さはずっしりと全身にのしかかり、全体像はつかめないが、自分より一回り以上大きいのは間違いなかった。隙間なく身体を乗せたイヴリースは何も言わない。琥珀の瞳を瞬かせたアゼリアの耳に、羽音が聞こえた。
「アゼリア様、お邪魔します」
言うが早いか、メフィストは手にした剣を無造作に振るった。キンと甲高い音で、剣が敵を弾く。第二形態のまま魔力を凝らせた翼を作り出したメフィストが、口元を笑みに歪めた。強者との戦いも心が高ぶるが、弱者を踏みにじるのは心地よい。動けない程度に甚振りながら、次々と人間を叩きのめした。
『……アゼリア、ケガはないか?』
覆い被さる漆黒の獣に頷けば、ほっとした様子でイヴリースは羽を畳んだ。体を起こして立ち上がった彼は慌てた様子でアゼリアの目元を手で覆う。人間の悲鳴や叫び声が聞こえる場で視覚を奪われても、アゼリアに焦りはなかった。
もうイヴリースは戻った。ならば私や街に危害を加えたりしない。心から安堵して身を任せる婚約者に、困惑したのはイヴリースの方だった。このように醜い獣の姿を見られたくないから遠ざけたのに、気づいたら彼女を押し倒していた。
第三形態をとったあたりから本能が暴走したのは覚えている。見聞きした記憶はあった。ただ……他人事のように遠く感じられるだけ。その中でメフィストや人間を獲物と見做し、攻撃しようとした感情も覚えていた。自己嫌悪に襲われながら、婚約者の目を覆う行動にでる。
『くそっ、あの蛇女八つ裂きにしてやる』
物騒な言葉を吐いた口で、イヴリースは深呼吸して婚約者の耳に囁きかけた。
『アゼリア、少しの間目を閉じていられるか?』
こくんと頷いた首の動きを確認し、イヴリースは恐る恐る手を離す。それでも心配なので、闇で彼女の上に結界を張った。これで外は見えないはずだ。
温かいアゼリアから身を起こせば、寒い気がして肩を震わせる。視線の先で人間を叩き伏せる側近の楽しそうな姿に溜め息を吐いた。羨ましいと感じる本能が厭わしい。
「我が君、処分はどうなさいますか?」
『全部まとめて閉じ込めておけ』
洗脳を解除するための魔法陣を発動したイヴリースは、吐き捨てるように命じる。八つ当たりに使うのだろうと見当を付けながら、メフィストは恭しく漆黒の獣に頭を下げた。
目を閉じたアゼリアの首に、牙が触れる。このまま黒い獣が力を込めたら、命が終わるかも……ぞくりと背筋を痺れが走った。尻尾の先まで毛が逆立つ。捕食される動物のように身を硬くした狐の耳をぺろりと毛づくろいされた。片方だけ先が赤茶に染まった耳を揺らすと、舌で追い回される。
食べられるわけではなさそう。ほっとしたアゼリアが身体の力を抜いた。地面に横たわった2匹の獣へ人間が近づいてくるのを、イヴリースが尻尾で威嚇した。
漆黒の獣が頬ずりしながら、ぐるぐると喉を鳴らす。彼の重さはずっしりと全身にのしかかり、全体像はつかめないが、自分より一回り以上大きいのは間違いなかった。隙間なく身体を乗せたイヴリースは何も言わない。琥珀の瞳を瞬かせたアゼリアの耳に、羽音が聞こえた。
「アゼリア様、お邪魔します」
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『……アゼリア、ケガはないか?』
覆い被さる漆黒の獣に頷けば、ほっとした様子でイヴリースは羽を畳んだ。体を起こして立ち上がった彼は慌てた様子でアゼリアの目元を手で覆う。人間の悲鳴や叫び声が聞こえる場で視覚を奪われても、アゼリアに焦りはなかった。
もうイヴリースは戻った。ならば私や街に危害を加えたりしない。心から安堵して身を任せる婚約者に、困惑したのはイヴリースの方だった。このように醜い獣の姿を見られたくないから遠ざけたのに、気づいたら彼女を押し倒していた。
第三形態をとったあたりから本能が暴走したのは覚えている。見聞きした記憶はあった。ただ……他人事のように遠く感じられるだけ。その中でメフィストや人間を獲物と見做し、攻撃しようとした感情も覚えていた。自己嫌悪に襲われながら、婚約者の目を覆う行動にでる。
『くそっ、あの蛇女八つ裂きにしてやる』
物騒な言葉を吐いた口で、イヴリースは深呼吸して婚約者の耳に囁きかけた。
『アゼリア、少しの間目を閉じていられるか?』
こくんと頷いた首の動きを確認し、イヴリースは恐る恐る手を離す。それでも心配なので、闇で彼女の上に結界を張った。これで外は見えないはずだ。
温かいアゼリアから身を起こせば、寒い気がして肩を震わせる。視線の先で人間を叩き伏せる側近の楽しそうな姿に溜め息を吐いた。羨ましいと感じる本能が厭わしい。
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『全部まとめて閉じ込めておけ』
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