【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
84 / 238
本編

第81話 呪術というキーワード

しおりを挟む
 魔王城の廊下を走る宰相の姿に、衛兵や侍女が目を瞬かせる。優雅に足早に抜けていくことはあっても、走り抜けたのは初めてだった。互いに顔を見合わせて「そう、初めてよね(だな)」と頷きあう。思わず窓の外の天気を確認する者まで出た。

 幸い、天気は崩れそうになかった。

「バール」

 執務室に飛び込むなり、資料の棚を漁りながら名を呼ぶ。召喚された女将軍は、不満そうに鼻を鳴らした。

「あと少しだったのよ……っ、なに?」

 引き裂いて遊ぶ獲物の苦痛を引き出し、あと少しで楔を打てる。その最後の瞬間に呼び出されたことに不満を表明した。魔王イヴリースの命令ならば喜んで応じるが、メフィストに従った覚えはない。噛みつく口調が途中で凪いだ。

 整理整頓を心がける彼の部屋は、几帳面な性格そのままに整えられている。その調和を崩して資料や本を引っ張り出す様子は異常だった。何かあったのだと勘づくのに、時間は要らない。心配そうに首をかしげるバールへメフィストが口早に捲し立てた。

「姫の影が薄れています。入れ替えの呪術があったでしょう、誰か詳しい者を探してください。あと資料を大至急で集めて……それから、姫にそっくりな小娘をここへ……いえ、私が資料をもって地下に行きます」

「っ、入れ替えって禁呪じゃないの! 冗談でしょう、あんなの……」

 反射的に言い返し、バールは事情を察した。アゼリアの影が薄れているのは生命力ごと、誰かに奪われているからだ。それを遮るには呪術を解く必要があった。さらに逆転させて奪われた魔力や生命力を取り返さなくてはならない。

「わかったわ」

 急いで地下へ転移した。通常の城内での転移は制限されるが、今は緊急事態だ。ましてやさきほどメフィスト自身が地下のバールを呼び出し、前例を作ったのだから問題ないだろう。ゴエティアの悪魔たちを集め、呪術に詳しい者を選ばなくては……すでに影が薄まったのなら時間との勝負だった。

 入れ替えの呪術は、先代の魔王に使用を禁止された呪術のひとつだ。その有用性は高く、かつて当主となる者が親族から能力を吸い上げるために使用された。魔王イヴリースが兄のアベルを殺さなかった理由も、ここにある。

 魔王という至高の地位は孤高であるべき――その不文律は、己を脅かす種となり得る親族を、皆殺しにすることから語り継がれた。父母や兄弟姉妹を殺し、さらに己の血族と呼べる一族を屠ることで王となる。イヴリースの親族で生き残ったのは兄アベルだけ。

 同情や哀れみからの恩情ではなく、慈悲でもなかった。彼が使った呪術の影響だ。弟イヴリースが次代魔王に選ばれたと知り、兄アベルは禁忌の呪術を使った。イヴリースと自分の入れ替えを図ったのだ。

 後のゴエティアである魔王軍の重鎮となる配下により、呪術そのものは阻止された。しかし呪術が中途半端に終了したことで、互いの一部が分離できなくなる。アベルを殺すことでイヴリースに影響が出るかもしれない。それがアベルを生かした理由だった。

 塔に封じた彼を解き放ったのは、魔王に盾突く一部の貴族家の仕業だろう。逃げればよいものを、アベルは呪術をアゼリアにかけた。森で見つけた血や魔力、外見がそっくりの娘が受け側の器だ。

「早くしなくては取り返しがつかなくなります」

 受けた器を殺せば、奪われた物は還らない。解除する方法を記した呪術に関する書物が、どこかに封印されていたはず。記憶をたどりながらメフィストは、大急ぎで資料をかき集めて地下へ飛んだ。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

処理中です...