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本編
第110話 愛を得たいなら与えよ
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しばらく寝込んだせいで体型が変わった。ショックを隠せないアゼリアが恐る恐る家族の前に顔を出すと、一番最初に立ち上がったイヴリースが上から下までじっくり眺める。
「あら、ドレスの手直しが必要かしら」
「このくらい平気だ。可愛いぞ、アゼリア」
「うん。すぐに鍛えて戻すんだろう? ならばドレスを直すより、アゼリアの鍛錬を待つ方がいい」
カサンドラは軽い手直しを提案するが、アウグストとベルンハルトは首を横に振る。体型に合わせてドレスを用意するか、過去の体型に戻すか。問われたら、アゼリアも兄や父と同じ決断をする。
胸がすこし緩くなったし、腰がキツくなった。それでもドレスの補正範囲内だが……何を言われるのかしら。また努力して引き締めるつもりだから、いっそ厳しいくらいの言葉がいい。きゅっと唇を引き結んで、アゼリアは顔をあげた。
「我が愛しのアゼリア、そなたはどんな姿でも美しい。出来れば尻尾と耳も出してくれぬか?」
「っ、いいですわ。でも交換に羽と角を出してください。隠されてるみたいで嫌です」
切り返されると思わなかったイヴリースが、ぐっと喉から変な声を出したが……一拍置いて頷いた。ばさりと1対の羽が現れる。ドラゴンの羽と角、しかし第二形態ではない。鳥の翼と牙を封印したままの解放は、言われた最小限だった。肌に現れる模様は半分ほどで、いつものように穏やかに柔らかく微笑む。
「これで良いか?」
「え、ええ……思ったよりカッコいいわ」
ドキドキしながら答えるアゼリアの赤く染まった頬に、イヴリースが「……くそ、閉じ込めたい」と口の中で低く唸った。しかし幸いなことに誰の耳にも言葉として届かない。
ふわふわしたドレスのスカートが膨らみ、アゼリアの耳が現れる。茶色い柔らかい毛皮に包まれた狐耳は大きく、ぴんと立った左の耳の先だけ赤茶の毛が混じっていた。
「あら、やだ。尻尾が」
困惑した声のアゼリアに首をかしげると、彼女は苦笑いしながら説明した。ふんわりとしたスカートの中に出した尻尾を外へ出さなければ、ドレスのスカートが張ってしまう。形が崩れてみっともないわと着替えに自室へ戻ろうとしたアゼリアを、イヴリースが後ろから引き留めた。
抱き寄せて、赤い髪を指先でかき上げて首筋に顔を近づける。触れる前に、アウグストの邪魔が入った。ハンカチで首筋を隠したのだ。白いうなじに唇を押し当てようとしたイヴリースが、分かりやすく聞こえるように舌打ちした。
「ふふっ、イヴリースったら」
くすくすと肩を震わせて笑うアゼリアの耳にキスをして、イヴリースは一度身を離した。その様子にカサンドラが口元を押さえる。
「気遣っていただいたみたいね」
美しいと褒められたプロポーションが崩れ、その姿はゆったりした療養着であるワンピースで隠してきた。ドレスを着ればシルエットがはっきり出てしまう。幻滅されるのではと恐れたアゼリアに、イヴリースは言葉を示した。それでも疑う婚約者へ、今度は態度で示したのだ。
愛しい。このまま攫って閉じ込めたい。その欲望を直接見せることで、彼女の笑みを取り戻そうとした。そんな妹と魔王の姿に、ベルンハルトは肩を竦める。
「俺にもこのくらい愛せる人が見つかればよかったんですが」
恋に溺れる男の姿に憧れを滲ませる息子へ、母は穏やかに言い聞かせた。
「あなたが愛情を注げば、同じように愛情が返るわよ。獣人は愛情深い種族ですもの」
愛されたいならば、先に愛情を示せばいい。獣人は愛情に敏感だから、伝えられた誠意や愛情に応えてくれる――ベルンハルトはその言葉を飲み込んで、獣人の花嫁候補が現れる中庭に視線を向けた。
「あら、ドレスの手直しが必要かしら」
「このくらい平気だ。可愛いぞ、アゼリア」
「うん。すぐに鍛えて戻すんだろう? ならばドレスを直すより、アゼリアの鍛錬を待つ方がいい」
カサンドラは軽い手直しを提案するが、アウグストとベルンハルトは首を横に振る。体型に合わせてドレスを用意するか、過去の体型に戻すか。問われたら、アゼリアも兄や父と同じ決断をする。
胸がすこし緩くなったし、腰がキツくなった。それでもドレスの補正範囲内だが……何を言われるのかしら。また努力して引き締めるつもりだから、いっそ厳しいくらいの言葉がいい。きゅっと唇を引き結んで、アゼリアは顔をあげた。
「我が愛しのアゼリア、そなたはどんな姿でも美しい。出来れば尻尾と耳も出してくれぬか?」
「っ、いいですわ。でも交換に羽と角を出してください。隠されてるみたいで嫌です」
切り返されると思わなかったイヴリースが、ぐっと喉から変な声を出したが……一拍置いて頷いた。ばさりと1対の羽が現れる。ドラゴンの羽と角、しかし第二形態ではない。鳥の翼と牙を封印したままの解放は、言われた最小限だった。肌に現れる模様は半分ほどで、いつものように穏やかに柔らかく微笑む。
「これで良いか?」
「え、ええ……思ったよりカッコいいわ」
ドキドキしながら答えるアゼリアの赤く染まった頬に、イヴリースが「……くそ、閉じ込めたい」と口の中で低く唸った。しかし幸いなことに誰の耳にも言葉として届かない。
ふわふわしたドレスのスカートが膨らみ、アゼリアの耳が現れる。茶色い柔らかい毛皮に包まれた狐耳は大きく、ぴんと立った左の耳の先だけ赤茶の毛が混じっていた。
「あら、やだ。尻尾が」
困惑した声のアゼリアに首をかしげると、彼女は苦笑いしながら説明した。ふんわりとしたスカートの中に出した尻尾を外へ出さなければ、ドレスのスカートが張ってしまう。形が崩れてみっともないわと着替えに自室へ戻ろうとしたアゼリアを、イヴリースが後ろから引き留めた。
抱き寄せて、赤い髪を指先でかき上げて首筋に顔を近づける。触れる前に、アウグストの邪魔が入った。ハンカチで首筋を隠したのだ。白いうなじに唇を押し当てようとしたイヴリースが、分かりやすく聞こえるように舌打ちした。
「ふふっ、イヴリースったら」
くすくすと肩を震わせて笑うアゼリアの耳にキスをして、イヴリースは一度身を離した。その様子にカサンドラが口元を押さえる。
「気遣っていただいたみたいね」
美しいと褒められたプロポーションが崩れ、その姿はゆったりした療養着であるワンピースで隠してきた。ドレスを着ればシルエットがはっきり出てしまう。幻滅されるのではと恐れたアゼリアに、イヴリースは言葉を示した。それでも疑う婚約者へ、今度は態度で示したのだ。
愛しい。このまま攫って閉じ込めたい。その欲望を直接見せることで、彼女の笑みを取り戻そうとした。そんな妹と魔王の姿に、ベルンハルトは肩を竦める。
「俺にもこのくらい愛せる人が見つかればよかったんですが」
恋に溺れる男の姿に憧れを滲ませる息子へ、母は穏やかに言い聞かせた。
「あなたが愛情を注げば、同じように愛情が返るわよ。獣人は愛情深い種族ですもの」
愛されたいならば、先に愛情を示せばいい。獣人は愛情に敏感だから、伝えられた誠意や愛情に応えてくれる――ベルンハルトはその言葉を飲み込んで、獣人の花嫁候補が現れる中庭に視線を向けた。
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