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本編
第121話 動き出す醜い欲望の道化師
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クリスタ国独立に加え、ルベウス国から獣人の花嫁を迎える話は、人間側の国家を驚かせた。ユーグレース国の王妃になるはずだった、へーファーマイアー公爵家の令嬢が魔国サフィロスへ嫁ぐ話も、人々の動揺を誘う。各国の王族が婚約を打診した才色兼備の御令嬢が、魔族の手に落ちた――彼らはそう考えた。
すでに滅びて形骸化したユーグレース国を、それでも占拠せず放置したのは、緩衝地帯として使うためだ。魔国や獣国は恐ろしい沈黙の森の奥にあり、人ならざる蛮族が住む土地とされてきた。実際に出会ったことがない南の国々は、その噂を信じている。
へーファーマイアー公爵家は魔や獣に蹂躙され、クリスタ国が滅びれば……蛮族が南に押し寄せてくる。豊かな南の実りを求めて襲いかかってくるに違いない。そう考えた国々が手を結ぶのも、ある意味当然だったのか。
「人間同士で争っている場合ではない、これは人間が生き残るための戦いだ」
アゲート国王の呼びかけに集まったのは、南の国々の半数以上だった。内戦や近隣国との睨み合いで緊迫する国を除き、ほとんどの国家が使者や王族を送り込む。それは参加する意思表示ではなく、北の大地で起きている事態の情報収集が主だった。
ベリル国は南で随一の大国で軍事力に定評がある。へーファーマイアー公爵家と親しく交流した過去があり、半信半疑だったが会議に参加した。
「アウグスト殿がそのような短慮で動くであろうか」
疑問を投げかけるベリル国の王弟クリストフに、アゲート国王は唾を飛ばして力説した。
「妻が獣人国出身だというではないか! 英雄はすでに獣に毒されているぞ」
隠していたわけでもないが、公表してこなかった事実を叫んで周辺国の動揺を煽るアゲート国王を睨み、ベリル国のクリストフは口角を持ち上げた。
「なんだ、そなたは獣人差別をするのか。なんとも恐れ入った。我国の王族は、へーファーマイアー王家と付き合いがあってな。とうに知っておったが……そなたはよほど信頼されなかったと見える」
今頃、獣国ルベウスの王族だったと知ったのか。情報収集に力を入れた方が良いであろう。その嫌味に、アゲート国王が唾を飛ばして喚き散らす。そのみっともない混乱した姿と、泰然と受け止めるクリストフの器の差は、誰の目にも明確だった。
「我がベリル国に滞在された時、カサンドラ殿は美しい狐の耳と尻尾を見せてくださった。信頼を示してくださった彼の女性の勇気と心にいたく感銘を受けた。戦争がしたいなら好きになされよ。だが……もし攻め込むとあれば、背後の心配を忘れぬよう忠告しておこう」
アゲート国がクリスタ国へ侵攻することがあれば、後ろから南最大規模のベリル国が襲い掛かるぞ。圧倒的な物量と生産力を誇るベリル国は、徴兵制がない。軍事にさほど力を割いてこなかった。
アゲート国王は悔しそうな顔をしながらも、ならばベリル国も排除してやると野心を燃やす。彼にとって、獣混じりや悍しい魔物の一族に興味はない。彼らを排除する連合軍のトップになることで、最終的に南側の国々を統合するのが夢だった。もちろん、頂点に自分が立つことが前提だ。
彼の描く未来は、どこまでも都合よく。立派な王冠と豪華な衣装を纏い、美しい女達を侍らせる己――永遠に手が届かない夢に、アゲート国王は手を伸ばそうとしていた。
愚かな夢を描く男を、半分ほどの年齢のベリル国王弟は嘲笑する。策略を練ってもこの程度の、底の知れた男が率いる軍を蹴散らすなど造作もない。まずはアウグスト殿、いやベルンハルトに連絡を取らねばならぬな。大国の王弟は、幼馴染みの友人を思い浮かべながら帰路についた。
すでに滅びて形骸化したユーグレース国を、それでも占拠せず放置したのは、緩衝地帯として使うためだ。魔国や獣国は恐ろしい沈黙の森の奥にあり、人ならざる蛮族が住む土地とされてきた。実際に出会ったことがない南の国々は、その噂を信じている。
へーファーマイアー公爵家は魔や獣に蹂躙され、クリスタ国が滅びれば……蛮族が南に押し寄せてくる。豊かな南の実りを求めて襲いかかってくるに違いない。そう考えた国々が手を結ぶのも、ある意味当然だったのか。
「人間同士で争っている場合ではない、これは人間が生き残るための戦いだ」
アゲート国王の呼びかけに集まったのは、南の国々の半数以上だった。内戦や近隣国との睨み合いで緊迫する国を除き、ほとんどの国家が使者や王族を送り込む。それは参加する意思表示ではなく、北の大地で起きている事態の情報収集が主だった。
ベリル国は南で随一の大国で軍事力に定評がある。へーファーマイアー公爵家と親しく交流した過去があり、半信半疑だったが会議に参加した。
「アウグスト殿がそのような短慮で動くであろうか」
疑問を投げかけるベリル国の王弟クリストフに、アゲート国王は唾を飛ばして力説した。
「妻が獣人国出身だというではないか! 英雄はすでに獣に毒されているぞ」
隠していたわけでもないが、公表してこなかった事実を叫んで周辺国の動揺を煽るアゲート国王を睨み、ベリル国のクリストフは口角を持ち上げた。
「なんだ、そなたは獣人差別をするのか。なんとも恐れ入った。我国の王族は、へーファーマイアー王家と付き合いがあってな。とうに知っておったが……そなたはよほど信頼されなかったと見える」
今頃、獣国ルベウスの王族だったと知ったのか。情報収集に力を入れた方が良いであろう。その嫌味に、アゲート国王が唾を飛ばして喚き散らす。そのみっともない混乱した姿と、泰然と受け止めるクリストフの器の差は、誰の目にも明確だった。
「我がベリル国に滞在された時、カサンドラ殿は美しい狐の耳と尻尾を見せてくださった。信頼を示してくださった彼の女性の勇気と心にいたく感銘を受けた。戦争がしたいなら好きになされよ。だが……もし攻め込むとあれば、背後の心配を忘れぬよう忠告しておこう」
アゲート国がクリスタ国へ侵攻することがあれば、後ろから南最大規模のベリル国が襲い掛かるぞ。圧倒的な物量と生産力を誇るベリル国は、徴兵制がない。軍事にさほど力を割いてこなかった。
アゲート国王は悔しそうな顔をしながらも、ならばベリル国も排除してやると野心を燃やす。彼にとって、獣混じりや悍しい魔物の一族に興味はない。彼らを排除する連合軍のトップになることで、最終的に南側の国々を統合するのが夢だった。もちろん、頂点に自分が立つことが前提だ。
彼の描く未来は、どこまでも都合よく。立派な王冠と豪華な衣装を纏い、美しい女達を侍らせる己――永遠に手が届かない夢に、アゲート国王は手を伸ばそうとしていた。
愚かな夢を描く男を、半分ほどの年齢のベリル国王弟は嘲笑する。策略を練ってもこの程度の、底の知れた男が率いる軍を蹴散らすなど造作もない。まずはアウグスト殿、いやベルンハルトに連絡を取らねばならぬな。大国の王弟は、幼馴染みの友人を思い浮かべながら帰路についた。
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