149 / 238
本編
第146話 黒く染まるは容易く
しおりを挟む
犯した罪は加算される。その考え方は、寿命が長い魔族特有のものかもしれない。同じ罪でも種族により刑期が異なるのだ。平均寿命に対しての割合で計算される上、罪が発覚するたびに刑期を上乗せする。
人間であったヨーゼフの当初の罪はわずか65年――それでは軽過ぎた。魔王が納得するわけがない。人間の寿命の半分以上だが、魔族なら数千年レベルの罰が必要だった。ならば罪を重ねさせて、寿命より上まで加算すればいい。
メフィストが置いてきたヨーゼフやその取り巻きは、今頃5カ国の連携にヒビを入れている頃か。元王太子だった子供は萎縮していたが、人間の群れに戻されれば傲慢さを発揮する。その態度は大きく、発言は周囲を苛立たせるだろう。
「なので、内部から崩壊すると思うのですが……その前にここから崩しましょう」
内部崩壊の手筈を整えたのに、その効果が出るのを待たずに攻め込む。そう告げるメフィストに、末の王弟オスカーは頷いた。
ルベウスから合流した援軍に見せ場を用意しなくては、ベリル国の体面に関わる。さらに集めた防衛軍は給与が発生した分、何かしらの手柄を必要とした。国というのは意外と運営に面倒な一面がある。何もないのに予算を使って軍を動かせば、次の有事に申請しづらくなるのだ。
「この防衛ラインまで押し出せたら」
「おや。人間にしては欲がない。この5カ国は王族が戦場にいますよ」
それぞれにお葬式が重なって大変ですねえ。笑うメフィストはまさに悪魔だった。
戦場にのこのこ顔を出した、欲をかいた王族は処分する前提で、弱った各国には賠償金を請求する。国が持ち堪えられずに倒れれば併合、頑張っても数年後に彼らは決起して叩きのめされるはずです。恐ろしい未来をさらりと口にした男は、眼鏡の縁を指先でなぞった。
「綺麗事で国は守れません。毒を煽り、敵を絡め取る糸を操る謀略家がいなければ、国のトップが手を汚すことになります」
それは避けるべきだ。王国のあり方を淡々と語るメフィストに、オスカーは尊敬の眼差しを向ける。同じようなことを遠回しに告げる教師の綺麗事より、実践に基づいた教育は心に響いた。かなり黒い教育だが、当事者は気付かない。
「ならば僕が毒を煽りましょう」
「良いお覚悟です。ではまずここから」
攻め込む予定地を指さすメフィストの横から、総大将のオスカーが別の場所を示した。
「こちらも潰しましょう」
挟み撃ちにする。逃げる相手を追い込んだ先に、最強の助っ人を配置したい。ゲーム盤しか知らないからこそ、末っ子は救いのない手段を選んだ。
実力が拮抗する敵ならば、窮鼠猫を噛む――反撃される可能性もある危険な一手だった。
「いいでしょう。お手並みを拝見します」
危険を指摘せず、メフィストは引いた。それは戦局をひっくり返せる駒がいないゲーム盤を、正確に把握した彼の譲歩だ。
子供の無謀とも言える策を、メフィストは脳内で補完していく。緊急時に動かす駒の位置を確認し、海へ向かった主君も頭数に数えた。
「人間の国は数が多すぎます。この際、徹底的に減らしましょうか」
ベリルとクリスタが残れば、後は不要とします。魔国の宰相は、現実をゲーム盤に置き換えて最後の駒を置いた。
人間であったヨーゼフの当初の罪はわずか65年――それでは軽過ぎた。魔王が納得するわけがない。人間の寿命の半分以上だが、魔族なら数千年レベルの罰が必要だった。ならば罪を重ねさせて、寿命より上まで加算すればいい。
メフィストが置いてきたヨーゼフやその取り巻きは、今頃5カ国の連携にヒビを入れている頃か。元王太子だった子供は萎縮していたが、人間の群れに戻されれば傲慢さを発揮する。その態度は大きく、発言は周囲を苛立たせるだろう。
「なので、内部から崩壊すると思うのですが……その前にここから崩しましょう」
内部崩壊の手筈を整えたのに、その効果が出るのを待たずに攻め込む。そう告げるメフィストに、末の王弟オスカーは頷いた。
ルベウスから合流した援軍に見せ場を用意しなくては、ベリル国の体面に関わる。さらに集めた防衛軍は給与が発生した分、何かしらの手柄を必要とした。国というのは意外と運営に面倒な一面がある。何もないのに予算を使って軍を動かせば、次の有事に申請しづらくなるのだ。
「この防衛ラインまで押し出せたら」
「おや。人間にしては欲がない。この5カ国は王族が戦場にいますよ」
それぞれにお葬式が重なって大変ですねえ。笑うメフィストはまさに悪魔だった。
戦場にのこのこ顔を出した、欲をかいた王族は処分する前提で、弱った各国には賠償金を請求する。国が持ち堪えられずに倒れれば併合、頑張っても数年後に彼らは決起して叩きのめされるはずです。恐ろしい未来をさらりと口にした男は、眼鏡の縁を指先でなぞった。
「綺麗事で国は守れません。毒を煽り、敵を絡め取る糸を操る謀略家がいなければ、国のトップが手を汚すことになります」
それは避けるべきだ。王国のあり方を淡々と語るメフィストに、オスカーは尊敬の眼差しを向ける。同じようなことを遠回しに告げる教師の綺麗事より、実践に基づいた教育は心に響いた。かなり黒い教育だが、当事者は気付かない。
「ならば僕が毒を煽りましょう」
「良いお覚悟です。ではまずここから」
攻め込む予定地を指さすメフィストの横から、総大将のオスカーが別の場所を示した。
「こちらも潰しましょう」
挟み撃ちにする。逃げる相手を追い込んだ先に、最強の助っ人を配置したい。ゲーム盤しか知らないからこそ、末っ子は救いのない手段を選んだ。
実力が拮抗する敵ならば、窮鼠猫を噛む――反撃される可能性もある危険な一手だった。
「いいでしょう。お手並みを拝見します」
危険を指摘せず、メフィストは引いた。それは戦局をひっくり返せる駒がいないゲーム盤を、正確に把握した彼の譲歩だ。
子供の無謀とも言える策を、メフィストは脳内で補完していく。緊急時に動かす駒の位置を確認し、海へ向かった主君も頭数に数えた。
「人間の国は数が多すぎます。この際、徹底的に減らしましょうか」
ベリルとクリスタが残れば、後は不要とします。魔国の宰相は、現実をゲーム盤に置き換えて最後の駒を置いた。
2
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
https://note.com/mutsukihamu
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる