153 / 238
本編
第150話 愚者は悪魔の手で踊る
しおりを挟む
紹介された聖女を頭から爪先までじっくり眺めるヨーゼフの粘着質な視線に、ユーグレースの王太子が私に惚れたと聖女は好意的に受け止めた。外見に関係なく、治癒能力の有無で選ばれる聖女だが、生まれる前に母胎で受けた魔力が尽きればただの女性に戻る。
12歳で見出された聖女リタは現在19歳。23歳頃には魔力が切れると推測されており、そろそろ嫁ぎ先を探す頃合いだった。貴族ではない平民出身でも、聖女経験者は国が後見人となるため嫁ぎ先に困らない。持参金も過去の貢献度に合わせて用意された。
醜いがこの男を誑かせば、一生食べるに困らない。贅沢ができる。そう考えたリタは、媚びを売らぬ程度にヨーゼフへ微笑んだ。これで嫌われることはない。予備として確保しよう。そう考えて背を向けた聖女は、大急ぎで別国の王子の救護に向かった。あちらも王太子ではないにしろ、重要な嫁ぎ先候補だ。命の恩人として覚えてもらわなくては……気の多い聖女は知らなかった。彼女に向けられる下衆な視線の意味を。
案内の騎士に手を預けたリタの後ろ姿を、舐めるように視線でたどる。豊満な尻、くびれた腰、やや膨らみの足りない胸元……だが可愛らしい顔をしている。涙を流して懇願する様が見ものだと、ヨーゼフと取り巻きはにやにや笑った。
聖女は子供を産む孕み腹だ。何をしても構わない。自国の文化を悪意を持って曲解するよう仕向けられたヨーゼフは、己の歪んだ考えの醜さに気づけなかった。目の前で腰を見せつけるように振って歩いた獲物を、どこで押し倒すかの相談を始める。あの女は俺に惚れたようだぞ、媚びを売っていた。
他国の王子のテントに入っていく姿を見て、先を越されたと舌打ちする。他国の王子の後というのは気に入らん。すでに戦場に来た目的を忘れていた。彼女が出てきたら、あの身体を皆で楽しもう。戦場に女が連れてこられる理由など、処理以外の目的はない。思い込んだヨーゼフの濁った瞳は、テントの出口に向けられた。
元から戦力として期待されない彼の部隊に配属された兵は、同郷の者らの救護に当たり、また他国との連携のために交流していた。真面目な兵は己の臨時上司が下衆な思惑で動いていることなど、知る由もない。
治療を終え、疲れにふらつきながら出てきた聖女リタは、肩を抱いた強引なヨーゼフに護衛を遠ざけられ森へ歩いた。わずか数分後、聖女の悲鳴に駆けつけた騎士が見たものは――ヨーゼフが無理矢理彼女を押し倒した現場だった。
口を押さえた側近が、指を噛まれて離した隙にリタは甲高い悲鳴をあげる。しかし悲鳴に気づいて駆けつけた騎士は間に合わなかった。殴って引き離した聖女の足に伝う破瓜の赤は、戦場で唯一治癒能力を持つ女性の喪失を意味する。兵士より貴重な戦力を奪った男へ、鋭い叱責が飛んだ。
「知らな、かった……そんな、重要な女だとは、誰も言わなかった! 俺は悪くない! そうだ、その女に誘われたんだ!!」
紹介の内容を聞き流したヨーゼフの言い訳は無視され、脂肪を纏つかせた身体から醜い欲を切り落とされた。側近ともども鎧や武器を取り上げられ、森の奥に捨てられる。ここは魔獣はおらずとも、獰猛な獣の住処だ。血の臭いを放つ戦えない人間など、餌に過ぎなかった。
足元で獣に囲まれ、生きながらに食われていく愚者達の姿に口元を緩め、悪魔は自慢の山羊の角を撫でる。聖女には悪いことをしましたが、彼女が助けた王子が娶ってくれることになりましたし。仕掛けた物語の終焉としては、素晴らしい出来でした。
満足げな笑みを浮かべたメフィストは、右手の指輪の宝石をさらりと撫でる。宰相という外交も担う地位にあるため、普段から録画する癖があった。この情報は後で皆と共有しましょうか。くつりと喉を震わせたメフィストは、両足と腕を食われながらもまだ息のあるカエルを振り返った。
「ご苦労でしたね、よい娯楽になりましたよ」
12歳で見出された聖女リタは現在19歳。23歳頃には魔力が切れると推測されており、そろそろ嫁ぎ先を探す頃合いだった。貴族ではない平民出身でも、聖女経験者は国が後見人となるため嫁ぎ先に困らない。持参金も過去の貢献度に合わせて用意された。
醜いがこの男を誑かせば、一生食べるに困らない。贅沢ができる。そう考えたリタは、媚びを売らぬ程度にヨーゼフへ微笑んだ。これで嫌われることはない。予備として確保しよう。そう考えて背を向けた聖女は、大急ぎで別国の王子の救護に向かった。あちらも王太子ではないにしろ、重要な嫁ぎ先候補だ。命の恩人として覚えてもらわなくては……気の多い聖女は知らなかった。彼女に向けられる下衆な視線の意味を。
案内の騎士に手を預けたリタの後ろ姿を、舐めるように視線でたどる。豊満な尻、くびれた腰、やや膨らみの足りない胸元……だが可愛らしい顔をしている。涙を流して懇願する様が見ものだと、ヨーゼフと取り巻きはにやにや笑った。
聖女は子供を産む孕み腹だ。何をしても構わない。自国の文化を悪意を持って曲解するよう仕向けられたヨーゼフは、己の歪んだ考えの醜さに気づけなかった。目の前で腰を見せつけるように振って歩いた獲物を、どこで押し倒すかの相談を始める。あの女は俺に惚れたようだぞ、媚びを売っていた。
他国の王子のテントに入っていく姿を見て、先を越されたと舌打ちする。他国の王子の後というのは気に入らん。すでに戦場に来た目的を忘れていた。彼女が出てきたら、あの身体を皆で楽しもう。戦場に女が連れてこられる理由など、処理以外の目的はない。思い込んだヨーゼフの濁った瞳は、テントの出口に向けられた。
元から戦力として期待されない彼の部隊に配属された兵は、同郷の者らの救護に当たり、また他国との連携のために交流していた。真面目な兵は己の臨時上司が下衆な思惑で動いていることなど、知る由もない。
治療を終え、疲れにふらつきながら出てきた聖女リタは、肩を抱いた強引なヨーゼフに護衛を遠ざけられ森へ歩いた。わずか数分後、聖女の悲鳴に駆けつけた騎士が見たものは――ヨーゼフが無理矢理彼女を押し倒した現場だった。
口を押さえた側近が、指を噛まれて離した隙にリタは甲高い悲鳴をあげる。しかし悲鳴に気づいて駆けつけた騎士は間に合わなかった。殴って引き離した聖女の足に伝う破瓜の赤は、戦場で唯一治癒能力を持つ女性の喪失を意味する。兵士より貴重な戦力を奪った男へ、鋭い叱責が飛んだ。
「知らな、かった……そんな、重要な女だとは、誰も言わなかった! 俺は悪くない! そうだ、その女に誘われたんだ!!」
紹介の内容を聞き流したヨーゼフの言い訳は無視され、脂肪を纏つかせた身体から醜い欲を切り落とされた。側近ともども鎧や武器を取り上げられ、森の奥に捨てられる。ここは魔獣はおらずとも、獰猛な獣の住処だ。血の臭いを放つ戦えない人間など、餌に過ぎなかった。
足元で獣に囲まれ、生きながらに食われていく愚者達の姿に口元を緩め、悪魔は自慢の山羊の角を撫でる。聖女には悪いことをしましたが、彼女が助けた王子が娶ってくれることになりましたし。仕掛けた物語の終焉としては、素晴らしい出来でした。
満足げな笑みを浮かべたメフィストは、右手の指輪の宝石をさらりと撫でる。宰相という外交も担う地位にあるため、普段から録画する癖があった。この情報は後で皆と共有しましょうか。くつりと喉を震わせたメフィストは、両足と腕を食われながらもまだ息のあるカエルを振り返った。
「ご苦労でしたね、よい娯楽になりましたよ」
2
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
https://note.com/mutsukihamu
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる