160 / 238
本編
第157話 何しに来たんでしょうね
しおりを挟む
ドラゴンは魔族に分類される。成竜になれば人型を取れるようになるが、獣人ではなかった。数が少なく、成長に数千年かかるため幼体の頃に殺される個体も珍しくなかった。そのため現在は希少種に分類される。
虹竜は魔王と戦って封じられたこともあり、魔族の中でも有名なドラゴンだった。フローライト国の地下で眠る彼女が動いたなら、今後あの国で聖女が生まれることはない。治癒魔法の源が国から消えた形だった。他国の事情を知らないアゼリアは、子猫を拾った程度の感覚で可愛がる。
「雌でなければ殺していたが」
物騒な発言をしながら、アゼリアにせっせと食事を運ぶ。イヴリースは通常運転でマイペースだった。素直に口を開けて食べさせてもらうアゼリアの姿に驚くオスカーだが、メフィストの目配せで見ないフリに徹する。
凝視したのがバレたら、イヴリースの嫉妬の対象になりかねない。メフィストもしれっと席について食べ始めた。
「魔族の方々のお食事の好みがわからないため、我が国の料理ですが……お口に合いますか?」
オスカーは、隣に座ったメフィスト相手に話しかける。
「ええ、美味しいですよ。我が国には海がありませんから、魚料理は少ないのです。珍しさもありますが、今後は我が国にも広がるでしょうね。クリスタ国を通じて、外交も貿易も盛んになると思いますから」
民間でも国家レベルでも、4つの国が繋がれば世界の大半を支配できる。獣国の精鋭達はまだ5カ国連合の残党狩りを楽しんでいるが、彼らも塩や魚の輸入を望むだろう。
「私、お魚好きだわ。身が上品なお味なの」
にっこりと笑うアゼリアの一言で、メフィストは魚の輸入に関する提案がいくつか浮かんだ。幸いにして魔物から取れた魔石が大量に余っているので、これらを交換材料とした輸入システムを構築しましょう。そんな側近の様子を一瞥し、イヴリースは愛しい姫に果物を運ぶ。
南国特有の鮮やかな赤や黄色の果物は、かなり甘い種類が多い。目を輝かせて、あれもこれもと強請るアゼリアは、イヴリースの給餌を受けて満足するまで果物を堪能した。
「オスカー殿下、あとで貴国の宰相殿と貿易のお話をさせていただきたいのですが」
「我が国も木材など欲しい物がありますから、ぜひ! こちらからお願いします」
なるほど、寒い北の木材は目が詰まっているので建築材料として重宝するのですか。自分達には当たり前のことが、南の常識と違う。メフィストはにっこり笑い、交渉の約束を取り付けた。
「ミリア、おいで」
犬猫相手のように手招きし、膝の上に乗せたアゼリアがイヴリースを振り返った。
「ねえ、戦は終わったの?」
もう帰れるかしら。それなら家族に竜を見せたいわ。そう続けた無邪気なアゼリアに、イヴリースは確認もせずに頷いた。
「我らは帰ろうか」
「陛下?」
これから外交と同盟の調印など、あなたの役目は残っていますよ。そう匂わせる宰相に「用があれば呼べ」と吐き捨て、イヴリースはさっさと席を立つ。そのままアゼリアとマクシミリアンを連れて転移してしまった。
残されたメフィストの笑顔が引き攣る。
「あの人は、何しに来たんでしょうね」
恐ろしい響きに、オスカーは何も答えることが出来なかった。どう答えても良い未来にならない。その答えは正しく、生存本能に基づく非常に高度な判断だった。
虹竜は魔王と戦って封じられたこともあり、魔族の中でも有名なドラゴンだった。フローライト国の地下で眠る彼女が動いたなら、今後あの国で聖女が生まれることはない。治癒魔法の源が国から消えた形だった。他国の事情を知らないアゼリアは、子猫を拾った程度の感覚で可愛がる。
「雌でなければ殺していたが」
物騒な発言をしながら、アゼリアにせっせと食事を運ぶ。イヴリースは通常運転でマイペースだった。素直に口を開けて食べさせてもらうアゼリアの姿に驚くオスカーだが、メフィストの目配せで見ないフリに徹する。
凝視したのがバレたら、イヴリースの嫉妬の対象になりかねない。メフィストもしれっと席について食べ始めた。
「魔族の方々のお食事の好みがわからないため、我が国の料理ですが……お口に合いますか?」
オスカーは、隣に座ったメフィスト相手に話しかける。
「ええ、美味しいですよ。我が国には海がありませんから、魚料理は少ないのです。珍しさもありますが、今後は我が国にも広がるでしょうね。クリスタ国を通じて、外交も貿易も盛んになると思いますから」
民間でも国家レベルでも、4つの国が繋がれば世界の大半を支配できる。獣国の精鋭達はまだ5カ国連合の残党狩りを楽しんでいるが、彼らも塩や魚の輸入を望むだろう。
「私、お魚好きだわ。身が上品なお味なの」
にっこりと笑うアゼリアの一言で、メフィストは魚の輸入に関する提案がいくつか浮かんだ。幸いにして魔物から取れた魔石が大量に余っているので、これらを交換材料とした輸入システムを構築しましょう。そんな側近の様子を一瞥し、イヴリースは愛しい姫に果物を運ぶ。
南国特有の鮮やかな赤や黄色の果物は、かなり甘い種類が多い。目を輝かせて、あれもこれもと強請るアゼリアは、イヴリースの給餌を受けて満足するまで果物を堪能した。
「オスカー殿下、あとで貴国の宰相殿と貿易のお話をさせていただきたいのですが」
「我が国も木材など欲しい物がありますから、ぜひ! こちらからお願いします」
なるほど、寒い北の木材は目が詰まっているので建築材料として重宝するのですか。自分達には当たり前のことが、南の常識と違う。メフィストはにっこり笑い、交渉の約束を取り付けた。
「ミリア、おいで」
犬猫相手のように手招きし、膝の上に乗せたアゼリアがイヴリースを振り返った。
「ねえ、戦は終わったの?」
もう帰れるかしら。それなら家族に竜を見せたいわ。そう続けた無邪気なアゼリアに、イヴリースは確認もせずに頷いた。
「我らは帰ろうか」
「陛下?」
これから外交と同盟の調印など、あなたの役目は残っていますよ。そう匂わせる宰相に「用があれば呼べ」と吐き捨て、イヴリースはさっさと席を立つ。そのままアゼリアとマクシミリアンを連れて転移してしまった。
残されたメフィストの笑顔が引き攣る。
「あの人は、何しに来たんでしょうね」
恐ろしい響きに、オスカーは何も答えることが出来なかった。どう答えても良い未来にならない。その答えは正しく、生存本能に基づく非常に高度な判断だった。
2
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる