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本編
第169話 隠れんぼは終わりよ
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久しぶりの失せ物探しだが、残念ながら楽しむような余地はなかった。森の中にカラフルな刺繍糸が大量に引っかかっている。まるで探してくれと言わんばかりの状況に、シャンクスは溜め息をついた。
複雑な推理や壮絶な逃亡劇、犯人を追い詰めて王妃の遺体を回収と思ったのに……どうみても王妃自身が歩いて移動した。歩く死体が?! と驚愕する間もなく、どう考えても生きていただけ。オチが見えた推理小説ほど詰まらない物はない。
がっかりしながら華やかな刺繍糸を追うと、途中で泥の中に転がり落ちたらしい。沼水になった水溜りを飛び越え、その先に見えたのは豪華な屋敷だった。
かなり有力な貴族の屋敷だろう。広さはちょっと把握できないサイズだ。空から俯瞰して見ないと全体像が掴めそうになかった。だがこれだけ王城に近い位置で、大きな屋敷を構えられる貴族は限られる。
少なくとも侯爵以上、おそらく公爵家で王家の血を引く者が数代のうちにいたであろう。推理とも呼べない推測を立て、シャンクスは屋敷の高い塀を通過した。彼にとって認識しない壁や塀は通り抜けられる。認識とは故意にずらすことが出来るため、ほとんどの建築物は彼の侵入を阻めなかった。
魔王城のように特殊な石材を使い、至る所に魔法陣が刻まれた場所でなければ、シャンクスは侵入する。西側の端から入り、階段を登った。奥の部屋から物音がする。
屋根裏を伝って移動すると水音が聞こえた。ちらりと覗いた先に目的の王妃がいる。薄衣を纏った美女は侍女に髪を洗ってもらい、ご満悦だった。手足の泥も洗い流し、さっぱりした様子で湯に浸かる。大量の花びらが散らされた湯はよい香りを漂わせていた。
……今の状態の王妃を連れ帰ったら、殺されるだろうな。シャンクスは一度態勢を整えるため、移動して寝転んだ。屋根の上なので誰かに見られないよう、結界で視界を遮る。
どうやって彼女を盗み出すか。それを考えると楽しくなってきた。仮にも獣人国の公爵家、あの有名な姉弟を生み出した一族だ。出来たら弟の方と戦ってみたい。姉は……綺麗だが絶対に近づきたくなかった。
ぶるりと身を震わせ、大事な息子の無事を確認してしまう。あの日、後片付けに駆り出され魔族にトラウマを植え付けた光景――潰された下半身の赤色は恐怖の象徴だ。弟の方は先日まで戦に出ていたから、まだ屋敷にいないか。姉は先ほど王宮内だった。強者が不在の屋敷に対する興味が急速に冷めていく。
「陛下に命じれられたことだけこなすか」
「どこの陛下に命じられたのかしらね」
びくっと肩を揺らして身を起こす。近づかれたのも不覚だが、声を掛けられるなど最悪の事態だった。振り返った先で、赤いドレスを纏った王妃が腰に手を当ててふんぞり返っている。
「さっさと吐きなさい。私の入浴を覗いたのも知っていてよ?」
敬愛なる魔王陛下――戻れなかったらごめんなさい。思わず心の中で謝ってしまった。
複雑な推理や壮絶な逃亡劇、犯人を追い詰めて王妃の遺体を回収と思ったのに……どうみても王妃自身が歩いて移動した。歩く死体が?! と驚愕する間もなく、どう考えても生きていただけ。オチが見えた推理小説ほど詰まらない物はない。
がっかりしながら華やかな刺繍糸を追うと、途中で泥の中に転がり落ちたらしい。沼水になった水溜りを飛び越え、その先に見えたのは豪華な屋敷だった。
かなり有力な貴族の屋敷だろう。広さはちょっと把握できないサイズだ。空から俯瞰して見ないと全体像が掴めそうになかった。だがこれだけ王城に近い位置で、大きな屋敷を構えられる貴族は限られる。
少なくとも侯爵以上、おそらく公爵家で王家の血を引く者が数代のうちにいたであろう。推理とも呼べない推測を立て、シャンクスは屋敷の高い塀を通過した。彼にとって認識しない壁や塀は通り抜けられる。認識とは故意にずらすことが出来るため、ほとんどの建築物は彼の侵入を阻めなかった。
魔王城のように特殊な石材を使い、至る所に魔法陣が刻まれた場所でなければ、シャンクスは侵入する。西側の端から入り、階段を登った。奥の部屋から物音がする。
屋根裏を伝って移動すると水音が聞こえた。ちらりと覗いた先に目的の王妃がいる。薄衣を纏った美女は侍女に髪を洗ってもらい、ご満悦だった。手足の泥も洗い流し、さっぱりした様子で湯に浸かる。大量の花びらが散らされた湯はよい香りを漂わせていた。
……今の状態の王妃を連れ帰ったら、殺されるだろうな。シャンクスは一度態勢を整えるため、移動して寝転んだ。屋根の上なので誰かに見られないよう、結界で視界を遮る。
どうやって彼女を盗み出すか。それを考えると楽しくなってきた。仮にも獣人国の公爵家、あの有名な姉弟を生み出した一族だ。出来たら弟の方と戦ってみたい。姉は……綺麗だが絶対に近づきたくなかった。
ぶるりと身を震わせ、大事な息子の無事を確認してしまう。あの日、後片付けに駆り出され魔族にトラウマを植え付けた光景――潰された下半身の赤色は恐怖の象徴だ。弟の方は先日まで戦に出ていたから、まだ屋敷にいないか。姉は先ほど王宮内だった。強者が不在の屋敷に対する興味が急速に冷めていく。
「陛下に命じれられたことだけこなすか」
「どこの陛下に命じられたのかしらね」
びくっと肩を揺らして身を起こす。近づかれたのも不覚だが、声を掛けられるなど最悪の事態だった。振り返った先で、赤いドレスを纏った王妃が腰に手を当ててふんぞり返っている。
「さっさと吐きなさい。私の入浴を覗いたのも知っていてよ?」
敬愛なる魔王陛下――戻れなかったらごめんなさい。思わず心の中で謝ってしまった。
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