186 / 238
本編
第183話 ストッパー不在
しおりを挟む
「これなんか素敵ね」
「こっちは? 透明感があるのに艶もあって綺麗だわ」
アンヌンツィアータ公爵家の女性達は、アゼリアの衣装選びに同行していた。というのも、前夜の女子会と称した飲み会で、3人が意気投合したためである。
「イヴリース、これはどうかしら」
「素晴らしいな。アゼリアほど着こなせる女性を、オレは知らぬ」
ドレス自体のデザインは決まり、すでに魔国で製作が始まっている。選んでいるのは、上に羽織るローブ型の薄布だった。結婚式で獣人の女性が必ず羽織ると聞き、アゼリアが欲しがったのだ。大切な婚約者の望みを、イヴリースが断るはずもない。
お目付役メフィストがいない隙に、と女性達に同行して買い物を始めた。収納空間に入れたため目立たないが、すでに14店舗で買い物を済ませていた。彼女らは15店舗目にしてようやく、目当ての薄絹にたどり着いたのだ。
「こっちも素敵だと思うわ」
違う布を肩にかけると、満足そうにイヴリースが微笑む。
「そちらも良い。いっそ店ごと買い上げるか?」
店主が狂喜乱舞しそうな発言が、魔王から飛び出す。王妃であるブリュンヒルデが同行した時点で、店主はすでに興奮して倒れていた。王室御用達の称号が貰えると喜び過ぎたらしい。
店主を放置して勝手に店を漁るブリュンヒルデとヴィルヘルミーナは顔を見合わせた。
「素敵な旦那様ね」
「私も言われてみたいわ」
実家も婚家もお金はあるので、やれば出来るだろう。だが自分で買うのでは意味がない。婚約者や夫に同じ発言をして欲しいのだ。実際は買わなくてもいいから……言われてみたい。
うっとりと妄想に浸る2人の隣で、アゼリアは首を横に振った。
「そんなことしたら、結婚間近の獣人女性が困ってしまうわ。私はイヴリースが選んでくれる1枚があればいいの」
買うのは1枚――その言葉にイヴリースがよろめく。結婚式に使う薄絹を1枚のみ、つまり自分以外とは絶対に結婚しないと宣言した。魔王はそう受け止め、自然と頬が笑みを浮かべる。首の辺りが少し赤い。番からの告白に似た言葉に照れと興奮が、全身を駆け巡った。
歩み寄って、じっくりと店内を確認する。奥にしまわれていた布を1本選びだした。暗い場所にあると目立たないが、光を浴びて輝く布は黄金にも匹敵する美しさだ。
巻いて1本の筒状態になっていた布を解き、アゼリアの頭の上から掛けた。
「これはどうだ? そなたの琥珀とも相性がよいだろう」
「イヴリースが選んでくれたんだもの、これにするわ」
そっと布の影で口付けを交わす。それをみたブリュンヒルデの尻尾が興奮で震える。互いに互いの口を押さえて声を塞ぎながら、ヴィルヘルミーナと目で会話した。
『こうでなくちゃね!』
『うちの夫にも出来るかしら』
『ベルにも選んでもらいましょう』
顔を見合わせて頷き合うご令嬢とご婦人をよそに、アゼリアは選んでもらった透き通る美しい布に手を滑らせた。
「素敵、私……イヴリースのお嫁さんになるのね」
実感が湧いたと微笑むアゼリアは、イヴリースのマントの陰に引き摺り込まれ、口紅がほとんど取れるほど貪られた。普段なら止めに入る宰相の留守は、程よく愛を深める一助となったらしい。
「こっちは? 透明感があるのに艶もあって綺麗だわ」
アンヌンツィアータ公爵家の女性達は、アゼリアの衣装選びに同行していた。というのも、前夜の女子会と称した飲み会で、3人が意気投合したためである。
「イヴリース、これはどうかしら」
「素晴らしいな。アゼリアほど着こなせる女性を、オレは知らぬ」
ドレス自体のデザインは決まり、すでに魔国で製作が始まっている。選んでいるのは、上に羽織るローブ型の薄布だった。結婚式で獣人の女性が必ず羽織ると聞き、アゼリアが欲しがったのだ。大切な婚約者の望みを、イヴリースが断るはずもない。
お目付役メフィストがいない隙に、と女性達に同行して買い物を始めた。収納空間に入れたため目立たないが、すでに14店舗で買い物を済ませていた。彼女らは15店舗目にしてようやく、目当ての薄絹にたどり着いたのだ。
「こっちも素敵だと思うわ」
違う布を肩にかけると、満足そうにイヴリースが微笑む。
「そちらも良い。いっそ店ごと買い上げるか?」
店主が狂喜乱舞しそうな発言が、魔王から飛び出す。王妃であるブリュンヒルデが同行した時点で、店主はすでに興奮して倒れていた。王室御用達の称号が貰えると喜び過ぎたらしい。
店主を放置して勝手に店を漁るブリュンヒルデとヴィルヘルミーナは顔を見合わせた。
「素敵な旦那様ね」
「私も言われてみたいわ」
実家も婚家もお金はあるので、やれば出来るだろう。だが自分で買うのでは意味がない。婚約者や夫に同じ発言をして欲しいのだ。実際は買わなくてもいいから……言われてみたい。
うっとりと妄想に浸る2人の隣で、アゼリアは首を横に振った。
「そんなことしたら、結婚間近の獣人女性が困ってしまうわ。私はイヴリースが選んでくれる1枚があればいいの」
買うのは1枚――その言葉にイヴリースがよろめく。結婚式に使う薄絹を1枚のみ、つまり自分以外とは絶対に結婚しないと宣言した。魔王はそう受け止め、自然と頬が笑みを浮かべる。首の辺りが少し赤い。番からの告白に似た言葉に照れと興奮が、全身を駆け巡った。
歩み寄って、じっくりと店内を確認する。奥にしまわれていた布を1本選びだした。暗い場所にあると目立たないが、光を浴びて輝く布は黄金にも匹敵する美しさだ。
巻いて1本の筒状態になっていた布を解き、アゼリアの頭の上から掛けた。
「これはどうだ? そなたの琥珀とも相性がよいだろう」
「イヴリースが選んでくれたんだもの、これにするわ」
そっと布の影で口付けを交わす。それをみたブリュンヒルデの尻尾が興奮で震える。互いに互いの口を押さえて声を塞ぎながら、ヴィルヘルミーナと目で会話した。
『こうでなくちゃね!』
『うちの夫にも出来るかしら』
『ベルにも選んでもらいましょう』
顔を見合わせて頷き合うご令嬢とご婦人をよそに、アゼリアは選んでもらった透き通る美しい布に手を滑らせた。
「素敵、私……イヴリースのお嫁さんになるのね」
実感が湧いたと微笑むアゼリアは、イヴリースのマントの陰に引き摺り込まれ、口紅がほとんど取れるほど貪られた。普段なら止めに入る宰相の留守は、程よく愛を深める一助となったらしい。
3
あなたにおすすめの小説
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる