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本編
第187話 釣り針を垂らして待つ
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「動き出しました」
ターゲット追跡中のシャンクスは、追跡の合間に連絡を寄越す。それを受け取ったイヴリースは眉を寄せた。動くのか? このタイミングで。それは自分の足元を掬うどころか、墓穴を掘る行為なのだが。
「あらぁ、王妃殿下のおっしゃる通り……かかりましたわね」
こういった権力闘争や直接の武力衝突に、怯む様子のない姫君は婚約者に寄り添って笑う。兎耳は、感情を示す猫の尻尾のように揺れた。感情豊かな婚約者ヴィルヘルミーナの隣で、ベルンハルトは犯人リストをじっくり読みふける。時折叔父ノアールへ質問をはさみ、複雑な利害関係を紐解いていた。
「ゾンマーフェルト家が首謀者、ですか」
「おそらくね。あの家の狸爺……失礼。当主が私を排除して娘を王妃にしたがってるのは有名だわ。その娘がまた単純な子で、とても可愛いの」
こほんと咳をして本音を隠し、貴族特有の表現で婉曲に「考えの足りない可愛い子」と示す。王妃は、5歳ほど年下のご令嬢を思い浮かべた。名をシャルロッテ――見た目は清楚で美しく、上品な所作が印象的な後輩だ。学校で何度かすれ違ったことがある。
成績も優秀で、ノアールの妃候補として名を連ねた才女だった。問題は彼女が多少夢見がちな性格をしており、深く考えることを嫌う性質の持ち主だという点にある。王妃となれば外交問題など、解決すべき課題は山積みだ。しかしシャルロッテは「王妃」になりたいのであって、そういった役目は理解していない。
国内の女性最高位が王妃なのだと親に言われるまま、上を目指しただけの子供だった。純粋なのかも知れない。気弱な国王ノアールを支えるのに不適格、そう判断したカサンドラ元王女の判断で早々に候補から排除された。
今、ブリュンヒルデを殺せたとしても、ノアールは後妻を娶らない。すでに王太子がいる以上、次代を生む義務は終えているからだ。おそらく離宮にこもって泣き暮らすだろう。国王としては情けないが、ブリュンヒルデにとって好ましい番だった。
まだ諦めない父に引きずられる形で、適齢期を過ぎたのに結婚しないシャルロッテは被害者だ。同様の愚か者が続かぬよう、しっかり国内に釘を刺すつもりで、王妃はイヴリース達を巻き込んだ。他国の王族が絡めば、シャルロッテの勘違いや暴走として誤魔化すことは出来ない。
「証人は確保してあるが……」
意味ありげにイヴリースが呟く。貴族間の分析はベルンハルトに任せ、現場の指揮を執る方を選んだ。隣でアゼリアは愛用の剣を磨いている。参戦する気満々だった。通常なら「危険だ」と止める場面だが、イヴリースは逆に頑張れと容認する。
姫だの王妃だの、そんな肩書や地位に縛られぬ自由なアゼリアを愛している。ならば彼女が望む行動を制限するのではなく、確実なサポートをすればよかった。傷つけたくないなら、保護する結界や魔法陣を駆使して守り切ればよいのだ。幸いにしてそれだけの魔力や能力を持っているのだから。
階下から騒がしく、騎士が上がってくる。礼儀作法を叩きこまれたはずの王宮騎士の不作法は、緊急事態を示していた。
「大変です! 地下牢の証人が殺されました」
「「よしっ!!」」
期せずしてノアールとベルンハルトの声が重なった。
ターゲット追跡中のシャンクスは、追跡の合間に連絡を寄越す。それを受け取ったイヴリースは眉を寄せた。動くのか? このタイミングで。それは自分の足元を掬うどころか、墓穴を掘る行為なのだが。
「あらぁ、王妃殿下のおっしゃる通り……かかりましたわね」
こういった権力闘争や直接の武力衝突に、怯む様子のない姫君は婚約者に寄り添って笑う。兎耳は、感情を示す猫の尻尾のように揺れた。感情豊かな婚約者ヴィルヘルミーナの隣で、ベルンハルトは犯人リストをじっくり読みふける。時折叔父ノアールへ質問をはさみ、複雑な利害関係を紐解いていた。
「ゾンマーフェルト家が首謀者、ですか」
「おそらくね。あの家の狸爺……失礼。当主が私を排除して娘を王妃にしたがってるのは有名だわ。その娘がまた単純な子で、とても可愛いの」
こほんと咳をして本音を隠し、貴族特有の表現で婉曲に「考えの足りない可愛い子」と示す。王妃は、5歳ほど年下のご令嬢を思い浮かべた。名をシャルロッテ――見た目は清楚で美しく、上品な所作が印象的な後輩だ。学校で何度かすれ違ったことがある。
成績も優秀で、ノアールの妃候補として名を連ねた才女だった。問題は彼女が多少夢見がちな性格をしており、深く考えることを嫌う性質の持ち主だという点にある。王妃となれば外交問題など、解決すべき課題は山積みだ。しかしシャルロッテは「王妃」になりたいのであって、そういった役目は理解していない。
国内の女性最高位が王妃なのだと親に言われるまま、上を目指しただけの子供だった。純粋なのかも知れない。気弱な国王ノアールを支えるのに不適格、そう判断したカサンドラ元王女の判断で早々に候補から排除された。
今、ブリュンヒルデを殺せたとしても、ノアールは後妻を娶らない。すでに王太子がいる以上、次代を生む義務は終えているからだ。おそらく離宮にこもって泣き暮らすだろう。国王としては情けないが、ブリュンヒルデにとって好ましい番だった。
まだ諦めない父に引きずられる形で、適齢期を過ぎたのに結婚しないシャルロッテは被害者だ。同様の愚か者が続かぬよう、しっかり国内に釘を刺すつもりで、王妃はイヴリース達を巻き込んだ。他国の王族が絡めば、シャルロッテの勘違いや暴走として誤魔化すことは出来ない。
「証人は確保してあるが……」
意味ありげにイヴリースが呟く。貴族間の分析はベルンハルトに任せ、現場の指揮を執る方を選んだ。隣でアゼリアは愛用の剣を磨いている。参戦する気満々だった。通常なら「危険だ」と止める場面だが、イヴリースは逆に頑張れと容認する。
姫だの王妃だの、そんな肩書や地位に縛られぬ自由なアゼリアを愛している。ならば彼女が望む行動を制限するのではなく、確実なサポートをすればよかった。傷つけたくないなら、保護する結界や魔法陣を駆使して守り切ればよいのだ。幸いにしてそれだけの魔力や能力を持っているのだから。
階下から騒がしく、騎士が上がってくる。礼儀作法を叩きこまれたはずの王宮騎士の不作法は、緊急事態を示していた。
「大変です! 地下牢の証人が殺されました」
「「よしっ!!」」
期せずしてノアールとベルンハルトの声が重なった。
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