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本編
第196話 破滅へのステップを踏む
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策略や謀略は王宮の華と申しますでしょう? 楽しそうにブリュンヒルデ王妃はそう切り出した。
誰も反論はできない。それだけの根拠と自信を窺わせる微笑みは、ある貴族を捕らえた。浮かんだ笑みと裏腹の厳しい眼差しを向けられた侯爵は、しかし平然としていた。証人は殺したのだ。自分の悪事を証明できる物はすべて処分した。
「王妃の暗殺未遂は重罪である」
ヘタレて王妃の尻に敷かれるノアールから想像もつかない、きりっとした表情で国王は宣言した。前提条件の確認は必要だ。もちろん貴族達も同意の頷きを行う。
「まずは王妃の証言から始めよう」
「はい、陛下。私はある日突然に立ち上がることもできないほど、体調を崩しました。伝染病の可能性を鑑み、陛下のお見舞いすら辞退するほど……そんな中、息を引き取ったようですわ」
痛ましい話に、貴族の奥方やご令嬢が同情の眼差しを向ける。
「陛下は私のために殯の塔を建設してくださいました。忙しい中、民を動揺させないように気遣ってです。病で死んだ者は荼毘に伏す。これはルベウス国の法に則った葬儀です。私はその塔の中で目覚めました」
少し視線を伏せて語る王妃に、幾人かの貴族は目頭をハンカチで押さえた。
「事情が分からなかった私は混乱したのでしょう。裏の森を抜けて実家に逃げ込んだのです。そこで現アンヌンツィアータ公爵である義兄より、恐ろしい話を聞きました。王妃である私を殺し、己の娘を嫁がせようと画策する貴族がいると」
名指しはしなかった。だが己の娘を国王ノアールに嫁がせようとしている貴族は、そう多くない。何故なら王妃ブリュンヒルデは、すでに王太子を産んでいるからだ。
これから嫁ぎ寵愛を受けたとしても、次期王はアンヌンツィアータ公爵家の血を引く者。王太子が不慮の事故で死なぬ限り、娘が産んだ子にチャンスはない。理解していれば、他の有力貴族に嫁がせる方が利益が大きいのは自明の利だった。
この国は獣人が支配する。考えの切り替えが早く、無駄のない思考を持つ者が多かった。その中で、いつまでも王妃の座を狙う無駄な行為に固執する貴族――それはゾンマーフェルト侯爵しかいない。
名前を口にしなくても王妃が示した犯人が誰なのか、貴族達は確信を持って視線を注いだ。通常なら悪事がバレて怯むはずの侯爵は、平然と一礼して発言許可を求めた。
「王妃殿下の不幸は、この国の貴族ならば誰もが憤るでしょうな。私もその1人です。疑われているのは悲しいことですが」
「疑いに過ぎないというのですか?」
「ええ。毒を盛るなどと下劣で恐ろしい手法は、私には無理です」
平然と言い訳を連ねる。自分を犯人と断定する証拠はなく、証人は処分した。優位に立っているのは自分だと思えば、自然と口は軽くなる。
「証人が死に、物的証拠はないと聞き及んでおりますぞ」
王妃の暗殺未遂事件は未解決で終わる。そう確信したゾンマーフェルト侯爵は自ら切り出した。
誰も反論はできない。それだけの根拠と自信を窺わせる微笑みは、ある貴族を捕らえた。浮かんだ笑みと裏腹の厳しい眼差しを向けられた侯爵は、しかし平然としていた。証人は殺したのだ。自分の悪事を証明できる物はすべて処分した。
「王妃の暗殺未遂は重罪である」
ヘタレて王妃の尻に敷かれるノアールから想像もつかない、きりっとした表情で国王は宣言した。前提条件の確認は必要だ。もちろん貴族達も同意の頷きを行う。
「まずは王妃の証言から始めよう」
「はい、陛下。私はある日突然に立ち上がることもできないほど、体調を崩しました。伝染病の可能性を鑑み、陛下のお見舞いすら辞退するほど……そんな中、息を引き取ったようですわ」
痛ましい話に、貴族の奥方やご令嬢が同情の眼差しを向ける。
「陛下は私のために殯の塔を建設してくださいました。忙しい中、民を動揺させないように気遣ってです。病で死んだ者は荼毘に伏す。これはルベウス国の法に則った葬儀です。私はその塔の中で目覚めました」
少し視線を伏せて語る王妃に、幾人かの貴族は目頭をハンカチで押さえた。
「事情が分からなかった私は混乱したのでしょう。裏の森を抜けて実家に逃げ込んだのです。そこで現アンヌンツィアータ公爵である義兄より、恐ろしい話を聞きました。王妃である私を殺し、己の娘を嫁がせようと画策する貴族がいると」
名指しはしなかった。だが己の娘を国王ノアールに嫁がせようとしている貴族は、そう多くない。何故なら王妃ブリュンヒルデは、すでに王太子を産んでいるからだ。
これから嫁ぎ寵愛を受けたとしても、次期王はアンヌンツィアータ公爵家の血を引く者。王太子が不慮の事故で死なぬ限り、娘が産んだ子にチャンスはない。理解していれば、他の有力貴族に嫁がせる方が利益が大きいのは自明の利だった。
この国は獣人が支配する。考えの切り替えが早く、無駄のない思考を持つ者が多かった。その中で、いつまでも王妃の座を狙う無駄な行為に固執する貴族――それはゾンマーフェルト侯爵しかいない。
名前を口にしなくても王妃が示した犯人が誰なのか、貴族達は確信を持って視線を注いだ。通常なら悪事がバレて怯むはずの侯爵は、平然と一礼して発言許可を求めた。
「王妃殿下の不幸は、この国の貴族ならば誰もが憤るでしょうな。私もその1人です。疑われているのは悲しいことですが」
「疑いに過ぎないというのですか?」
「ええ。毒を盛るなどと下劣で恐ろしい手法は、私には無理です」
平然と言い訳を連ねる。自分を犯人と断定する証拠はなく、証人は処分した。優位に立っているのは自分だと思えば、自然と口は軽くなる。
「証人が死に、物的証拠はないと聞き及んでおりますぞ」
王妃の暗殺未遂事件は未解決で終わる。そう確信したゾンマーフェルト侯爵は自ら切り出した。
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