【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
210 / 238
本編

第207話 我が侭にも理由を

しおりを挟む
 ここまで咎めるのは大人げないか。いやしかし……悩むアウグストをよそに、ベルンハルトは眉を寄せた。

「もっと早く解放できればよかった」

 妹アゼリアが無理をしているのは気づいていた。だが、無自覚に溜め込んだ根の深さは知らずに過ごしてきた。それがひどく薄情な気がして、肩を落とす。

「お兄様はいろいろと気遣ってくださったわよ。もちろんお父様とお母様も」

 うふふと笑って、アゼリアはすっきりした気分でイヴリースに腕を絡める。ずっと張りつめて、尻尾や耳を隠して暮らしてきた。

 王太子の婚約者は、四六時中監視される立場だ。常に人目があって息を抜くことが出来ない。自由に羽を伸ばせるのは、領地へ戻った時くらいだった。それが婚約を解消して、魔王イヴリースと出会って急激に変化していく。

 魔族は、アゼリアの尻尾や耳を否定しなかった。大狐の姿に変われることも、当たり前のように受け入れる。彼ら自身が何種類もの形態をもち変化するためだ。なんとも居心地がよかった。

 少し解放されて我が侭に振舞う。徐々に精神が子供返りした。小さな子が親に甘えるように、我が侭を言って様子を見る。嫌われていないと判断したら、さっきより大きな我が侭を……。受け止めるイヴリースの姿に安心したアゼリアは、ようやく心から信頼した。

 この人は私を嫌わない。捨てたりしない。我が侭でも、獣でも、ずっと一緒にいてくれる。安心した途端、婚約者を試すことをやめた。そのタイミングを両親は見抜き、イヴリースは誇ったのだ。自分だけの幼い子供で、魅力的だから離さない――と。

「大好き、イヴリース」

「オレも愛している。アゼリア、我が姫よ」

 くすくす笑いながら抱き着いて、受け止めてもらえる幸せに浸った。メフィストはお茶菓子を必要以上に丁寧に並べて視線を逸らし、飛び掛かりそうなアウグストをカサンドラが窘める。兄ベルンハルトが目を潤ませた。

「私もそろそろ、愛の言葉が欲しいですわ。結婚式の日取りも決めていただきたいの」

 ヴィルヘルミーナが婚約者に詰め寄り、ノアール国王が笑い出した。ブリュンヒルデは暦を思い浮かべて、準備期間を数え始める。クリスタ国王へ嫁ぐルベウス国の公爵令嬢、それは王女不在の王家が後見となる結婚式だった。

「可能な限り早くしよう」

 勢い込んだベルンハルトの宣言に、焦ったアゼリアが声をかけた。

「やだ、お兄様。私の結婚式が先よ! その後になさってね」

「わかってるわ」

 扇で口元を隠して笑うヴィルヘルミーナは、準備に必要な期間を半年ほどと見積もっていた。今から準備したら、アゼリアの結婚式の2ヵ月後くらいかしら。確かめるように叔母を振り返ると、王妃はぽんと手を叩いた。

「大変! 急いでドレスの準備を……それから持参金は何がいいかしら。あらいけない! 国民への告知がまだだわ」

 急にあわただしく進む話に、女性達はドレスの色やデザインの話に花を咲かせる。その脇でお茶を飲みながら、それぞれの伴侶が現実的な話を突き詰めていく。

「お前は結婚しないのか」

「陛下の世話に手がかからなくなれば、考えます」

「メフィスト、そんなこと言ったら結婚できないわ」

 唯一の独身を揶揄うイヴリースとメフィストの会話に、アゼリアが気の毒そうに話をかぶせた。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...