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本編
第216話 宝物庫を荒らす者
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ルベウス国王城の宝物庫へ続く階段を、ゆっくりと降りる。国王ノアールの足取りは重かった。後ろに付き従う王妃ブリュンヒルデも、やや青ざめている。
「早く」
急かす声に、慌てて宝物庫の鍵を取り出した。鍵穴に入れ、埋め込みの錠を解除する。扉は久しぶりの訪問者を歓迎するように、両側に開いた。
「……ここじゃない」
王妃を人質に取った犯人の声に、ノアールは慌てて隣の扉も開いた。そしてその隣も……すべての宝物庫を開けて、中身を差し出す。
「好きに持っていっていいぞ」
「ありがとうございます、陛下」
にっこり笑ったのは、ヴィルヘルミーナだった。婚約者のクリスタ国王ベルンハルトが帰国したため、花嫁衣装や婚礼家具を選びに、宝物庫を漁りに来たのだ。元がギリギリまで黙っていた件や、面識のない人間に嫁ぐことを決めた負い目があり、ノアールは彼女に逆らえなかった。
アンヌンツィアータ公爵家の血筋は、妻のブリュンヒルデもそうだが、女性が圧倒的に強い。一度握った弱みは使い倒すし、なくても弱みを作り出すくらいの強烈な個性を持つ者ばかりだった。
幸いにしてベルンハルトと相思相愛のヴィエルヘルミーナだが、一歩間違えば人生を棒に振った可能性もある。見知らぬ王族、それも異種族との婚姻だ。苦労して泣き暮らす未来も考えられた。その代償として、彼女が望んだのは「立派な持参金」だった。
金銀を贅沢に使用した新作家具ではなく、由緒あるアンティーク家具を望む。値段がつけられないような、名人渾身の鏡台に手を滑らせた。
「これ、素敵」
「……持っていくがよい」
許可以外の発言を禁じられたノアールは、ちらりと隣の王妃の顔色を窺う。王妃は自分が知らなかった魔道具や家具の積まれた部屋をぐるりと見回し、奥にあった幻の木で作った棚を扇で示した。
「私はあれを」
「も、もちろんだ。そなたに似合うぞ」
王妃とその姪は、楽しそうに部屋に足を踏み入れる。譲り合い、たまに取り合いになりながら、宝飾品を含めて数十点選んだ。宝物庫全体から見れば大した数ではないが、上質な物から選ぶのは目利きを褒めたらいいのか。損失額を嘆いた方がいいのか。
「これで恥をかかずに済みますわ」
最後に鳳凰の尾羽を使った扇を見つけて微笑みながら、ヴィルヘルミーナがお礼を口にする。公爵令嬢として叩き込まれた作法は完璧で、その所作は本当に美しかった。
ふと、ヴィルヘルミーナが他国に嫁いでしまうのだと実感する。娘のように可愛がった少女は、なかなか会えない異国の王妃となるのだ。
「いつでも……ルベウスに帰ってきていいのだぞ。辛いことがあれば姉上に相談してくれ。それから……」
「ノアール。それでは今生の別れのようですわ」
縁起でもない。まだ続きそうな夫の言葉を遮り、ブリュンヒルデは艶やかに微笑んだ。
「安心なさいませ。この子は愛されて幸せになります。カサンドラ様の庇護下に入るのですものね……年に1度は顔を見せるのですよ」
「はい」
感極まった様子でハンカチを取り出し、ヴィルヘルミーナは目元を押さえた。直後にくしゃみをひとつ。くしゅん……響いた音に、しんみりした空気は一瞬で吹き飛んだ。顔を見合わせた3人は、声を出して笑った。
「早く」
急かす声に、慌てて宝物庫の鍵を取り出した。鍵穴に入れ、埋め込みの錠を解除する。扉は久しぶりの訪問者を歓迎するように、両側に開いた。
「……ここじゃない」
王妃を人質に取った犯人の声に、ノアールは慌てて隣の扉も開いた。そしてその隣も……すべての宝物庫を開けて、中身を差し出す。
「好きに持っていっていいぞ」
「ありがとうございます、陛下」
にっこり笑ったのは、ヴィルヘルミーナだった。婚約者のクリスタ国王ベルンハルトが帰国したため、花嫁衣装や婚礼家具を選びに、宝物庫を漁りに来たのだ。元がギリギリまで黙っていた件や、面識のない人間に嫁ぐことを決めた負い目があり、ノアールは彼女に逆らえなかった。
アンヌンツィアータ公爵家の血筋は、妻のブリュンヒルデもそうだが、女性が圧倒的に強い。一度握った弱みは使い倒すし、なくても弱みを作り出すくらいの強烈な個性を持つ者ばかりだった。
幸いにしてベルンハルトと相思相愛のヴィエルヘルミーナだが、一歩間違えば人生を棒に振った可能性もある。見知らぬ王族、それも異種族との婚姻だ。苦労して泣き暮らす未来も考えられた。その代償として、彼女が望んだのは「立派な持参金」だった。
金銀を贅沢に使用した新作家具ではなく、由緒あるアンティーク家具を望む。値段がつけられないような、名人渾身の鏡台に手を滑らせた。
「これ、素敵」
「……持っていくがよい」
許可以外の発言を禁じられたノアールは、ちらりと隣の王妃の顔色を窺う。王妃は自分が知らなかった魔道具や家具の積まれた部屋をぐるりと見回し、奥にあった幻の木で作った棚を扇で示した。
「私はあれを」
「も、もちろんだ。そなたに似合うぞ」
王妃とその姪は、楽しそうに部屋に足を踏み入れる。譲り合い、たまに取り合いになりながら、宝飾品を含めて数十点選んだ。宝物庫全体から見れば大した数ではないが、上質な物から選ぶのは目利きを褒めたらいいのか。損失額を嘆いた方がいいのか。
「これで恥をかかずに済みますわ」
最後に鳳凰の尾羽を使った扇を見つけて微笑みながら、ヴィルヘルミーナがお礼を口にする。公爵令嬢として叩き込まれた作法は完璧で、その所作は本当に美しかった。
ふと、ヴィルヘルミーナが他国に嫁いでしまうのだと実感する。娘のように可愛がった少女は、なかなか会えない異国の王妃となるのだ。
「いつでも……ルベウスに帰ってきていいのだぞ。辛いことがあれば姉上に相談してくれ。それから……」
「ノアール。それでは今生の別れのようですわ」
縁起でもない。まだ続きそうな夫の言葉を遮り、ブリュンヒルデは艶やかに微笑んだ。
「安心なさいませ。この子は愛されて幸せになります。カサンドラ様の庇護下に入るのですものね……年に1度は顔を見せるのですよ」
「はい」
感極まった様子でハンカチを取り出し、ヴィルヘルミーナは目元を押さえた。直後にくしゃみをひとつ。くしゅん……響いた音に、しんみりした空気は一瞬で吹き飛んだ。顔を見合わせた3人は、声を出して笑った。
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