11 / 386
第二章 アスターレン
第9話 炎の襲撃(3)
しおりを挟む
≪汝の敵は目前にあり、嘆きの民は血に染まる。回れ、舞われ、弧を描きし風弓は光輝け。今こそ時は来れり。仇を討てと悲鳴を上げる子らに寄り添い、細く尖りて貫け! 『螺旋の矢』≫
空中に浮かんだ矢は8本、1人の敵に対して十分だ。なのに、少ないと感じる自分がいた。
消耗した魔力の分だけ矢の本数は減るのだと、頭では理解している。
感情は納得できていないが、矢を操るために血塗れの右手を掲げた。木立に隠れる敵に対し、他の魔術は向かない。もっとも効率よく敵を仕留めようと考えたルリアージェに思い浮かんだのは、この螺旋の矢だった。
淡い緑の光を帯びた矢は透き通っており、彼女が右手を振り下ろすと敵へ降り注ぐ。
「ぎゃあっ!」
年配の男性の悲鳴が聞こえ、木立が大きく引き裂かれた。人工的に整えられた木々は突然の暴力に倒れ、下生えの低木が無残に切り刻まれる。
威力は大きいが、範囲は狭かった。転がり出た男の周囲だけに注いだ矢がふわりと消える。
「捕らえよ!」
大柄な騎士の一言で、駆けつけた騎士が男を拘束する。慣れた様子で魔力を封印する手枷を嵌める彼らは、深い傷は負っていない男を引き摺っていった。
彼らの後姿を確認すると、ほっとして膝が崩れる。
「リア! その手……」
座り込んだルリアージェに悲痛なライオットの声が聞こえた。礼儀を無視して背後から肩を抱き寄せる彼に身を預けたまま、ルリアージェは大きく息を吸い込む。
「汚れ……ます、から」
離してくれと告げるが、逆に抱き込まれてしまった。
噴水前の広場だというのに、直接日差しが当たることはない。王子であるライオットを守る騎士が取り囲む輪の中、ルリアージェは唇を噛んだ。
まだ余力はある。
≪哀れみ誘い舞い踊れ、悲しみ浸り沸き起これ、空が怒り地は嘆く。ああ、彼の御方は白き御手を伸べられる…尊き御身を朱に染めることなく。癒しの森は震える鈴のごとし――『深緑のヴェール』≫
右手を包む緑の光がゆっくり傷を巻き戻していく。ゆらゆら揺れる緑が薄れて消えるころ、傷は跡形もなくキレイに治っていた。
流した血は消えないが、傷はもう痛みを生まない。
大きく深呼吸して、痛いほど抱きしめるライオット王子の手をそっと解いた。振り返った先で、困ったような顔をするライオットが溜め息を吐く。
「……助かったよ、ありがとう」
「ご無事で何よりです」
事態が収まったのを確認したのか、王宮の入り口では王太子がなにやら騒いでいる。騎士達が必死に止めている様子を見るに、こちらに戻ろうとしているらしい。
空中に浮かんだ矢は8本、1人の敵に対して十分だ。なのに、少ないと感じる自分がいた。
消耗した魔力の分だけ矢の本数は減るのだと、頭では理解している。
感情は納得できていないが、矢を操るために血塗れの右手を掲げた。木立に隠れる敵に対し、他の魔術は向かない。もっとも効率よく敵を仕留めようと考えたルリアージェに思い浮かんだのは、この螺旋の矢だった。
淡い緑の光を帯びた矢は透き通っており、彼女が右手を振り下ろすと敵へ降り注ぐ。
「ぎゃあっ!」
年配の男性の悲鳴が聞こえ、木立が大きく引き裂かれた。人工的に整えられた木々は突然の暴力に倒れ、下生えの低木が無残に切り刻まれる。
威力は大きいが、範囲は狭かった。転がり出た男の周囲だけに注いだ矢がふわりと消える。
「捕らえよ!」
大柄な騎士の一言で、駆けつけた騎士が男を拘束する。慣れた様子で魔力を封印する手枷を嵌める彼らは、深い傷は負っていない男を引き摺っていった。
彼らの後姿を確認すると、ほっとして膝が崩れる。
「リア! その手……」
座り込んだルリアージェに悲痛なライオットの声が聞こえた。礼儀を無視して背後から肩を抱き寄せる彼に身を預けたまま、ルリアージェは大きく息を吸い込む。
「汚れ……ます、から」
離してくれと告げるが、逆に抱き込まれてしまった。
噴水前の広場だというのに、直接日差しが当たることはない。王子であるライオットを守る騎士が取り囲む輪の中、ルリアージェは唇を噛んだ。
まだ余力はある。
≪哀れみ誘い舞い踊れ、悲しみ浸り沸き起これ、空が怒り地は嘆く。ああ、彼の御方は白き御手を伸べられる…尊き御身を朱に染めることなく。癒しの森は震える鈴のごとし――『深緑のヴェール』≫
右手を包む緑の光がゆっくり傷を巻き戻していく。ゆらゆら揺れる緑が薄れて消えるころ、傷は跡形もなくキレイに治っていた。
流した血は消えないが、傷はもう痛みを生まない。
大きく深呼吸して、痛いほど抱きしめるライオット王子の手をそっと解いた。振り返った先で、困ったような顔をするライオットが溜め息を吐く。
「……助かったよ、ありがとう」
「ご無事で何よりです」
事態が収まったのを確認したのか、王宮の入り口では王太子がなにやら騒いでいる。騎士達が必死に止めている様子を見るに、こちらに戻ろうとしているらしい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる