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第三章 女王ゆえの傲慢
第10話 彼の事情(3)
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鋭い氷の先を右手で受け止め、ジルが笑う。
突き刺さった掌から赤い血が滴った。だが魔力によって生み出された氷は一瞬で霧散し、武器は傷口を残して消える。
魔力を纏わぬ冷えた空気は残るが、魔力を帯びた氷の刃は魔力を解除されて消えたのだろう。
貫かれた痛みを表情に出すことなく、ジルは興味深そうに今の現象を見つめていた。そして腕を伝う己の血をぺろりと舐め取る。
「高くつくぞ?」
くすくす笑う姿は、魔力を封じられ手も足も出ずに傷つけられる虜囚らしくなかった。
まるで『死神』と対峙したような恐怖がラブレアスを襲う。上級魔性として二千年近く、主以外に恐れを感じることはなかったのに……。
「ひとつ貸しだ」
赤く血に濡れた口元が、言葉の形をした刃を零す。
強がることも忘れ、ラブレアスは後ずさった。
彼が去った後、しばらく傷を観察してみる。ゆっくりだが治癒は働いていた。
どうやら体内を巡る魔力は問題なく作用するらしい。
――ならば手はある。
外へ出した魔力は雷に弾かれ消えるが、右手を貫いた傷は体内の魔力の巡りに感化されて治り始めた。
つまり封じられた魔力は、使えなくなったわけでも消えたわけでもない。
そのまま存在していた。
「面倒だが……手間をかけるか」
もっと簡単な方法を知っているが、あの女の鼻につく傲慢さをへし折るには丁度いい。
オレと敵対した上級魔性を呼び寄せて見世物にするくらいだ。相当天狗になっているだろう。
他の魔王の眷属や側近が顔を見せる前に、女王を血祭りにあげる決意を固めた。
走った右手の痛みに顔を顰める。
……誰かが封印に触れた。右手は痛みを増し、続いて指先から切り裂かれて赤く染まる。
血が滴ることはない、なぜなら傷も血も幻影だからだ。
ただ、その痛みだけは本物だった。
「ちっ、無理やり引き出したな」
ルリアージェが無理をしたのだと知った。
いつでも、彼女は自らを守らず他人を救おうとする。
もちろん人間だから多少の打算や計算はあるだろう。利己的で狡い行為も厭わないが、本質的に他人を守ろうとしてしまう。
それが愛おしく、微笑ましく、こうした場面では呪わしかった。
誰かを守るために力を振るったのか。
己が傷つくと知っていて力を解放するのか。
守られる対象が羨ましいとは思わない、その立場になり代わりたいと願うこともなかった。
ただ……ひどく妬ましい。
彼女に意識を向けられて、その美しい身を犠牲に守られた存在が……嫉ましかった。
突き刺さった掌から赤い血が滴った。だが魔力によって生み出された氷は一瞬で霧散し、武器は傷口を残して消える。
魔力を纏わぬ冷えた空気は残るが、魔力を帯びた氷の刃は魔力を解除されて消えたのだろう。
貫かれた痛みを表情に出すことなく、ジルは興味深そうに今の現象を見つめていた。そして腕を伝う己の血をぺろりと舐め取る。
「高くつくぞ?」
くすくす笑う姿は、魔力を封じられ手も足も出ずに傷つけられる虜囚らしくなかった。
まるで『死神』と対峙したような恐怖がラブレアスを襲う。上級魔性として二千年近く、主以外に恐れを感じることはなかったのに……。
「ひとつ貸しだ」
赤く血に濡れた口元が、言葉の形をした刃を零す。
強がることも忘れ、ラブレアスは後ずさった。
彼が去った後、しばらく傷を観察してみる。ゆっくりだが治癒は働いていた。
どうやら体内を巡る魔力は問題なく作用するらしい。
――ならば手はある。
外へ出した魔力は雷に弾かれ消えるが、右手を貫いた傷は体内の魔力の巡りに感化されて治り始めた。
つまり封じられた魔力は、使えなくなったわけでも消えたわけでもない。
そのまま存在していた。
「面倒だが……手間をかけるか」
もっと簡単な方法を知っているが、あの女の鼻につく傲慢さをへし折るには丁度いい。
オレと敵対した上級魔性を呼び寄せて見世物にするくらいだ。相当天狗になっているだろう。
他の魔王の眷属や側近が顔を見せる前に、女王を血祭りにあげる決意を固めた。
走った右手の痛みに顔を顰める。
……誰かが封印に触れた。右手は痛みを増し、続いて指先から切り裂かれて赤く染まる。
血が滴ることはない、なぜなら傷も血も幻影だからだ。
ただ、その痛みだけは本物だった。
「ちっ、無理やり引き出したな」
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いつでも、彼女は自らを守らず他人を救おうとする。
もちろん人間だから多少の打算や計算はあるだろう。利己的で狡い行為も厭わないが、本質的に他人を守ろうとしてしまう。
それが愛おしく、微笑ましく、こうした場面では呪わしかった。
誰かを守るために力を振るったのか。
己が傷つくと知っていて力を解放するのか。
守られる対象が羨ましいとは思わない、その立場になり代わりたいと願うこともなかった。
ただ……ひどく妬ましい。
彼女に意識を向けられて、その美しい身を犠牲に守られた存在が……嫉ましかった。
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