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04.あったかい腕は大切
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僕がいつもするように、口をつけて飲むように促す。すると笑いながら頷いてくれた。ほっとして、少し力が抜ける。そしたら身体がころんと転がって、僕は上を向く形で寄り掛かってしまった。思わぬ状況に目を見開いたまま固まる。
どうしよう、怒られる。震える僕に手が伸びて、大急ぎで頭を抱えた。見えるところじゃなければ殴ってもいい。痕が残らなきゃ蹴飛ばしてもいい。そう言われていつも殴られたから。大きな手が伸びると怖い。あの手に包んで欲しいのに、痛いのは嫌だった。
丸くなった僕の上に、温かい手が触れた。痛くないので頭の手をどけてみると、変な顔でこっちを見てる。じっと見つめ返した僕は、からんと食器を置く音で我に返った。中身が入った器を一度箱に置いた人間は、転がった僕を起こす。
ぎゅっと苦しくなった。僕より太い腕がお腹と胸のあたりにあって、背中が凄く温かい。くっついてるのかな。ぼんやりと見上げる僕に、不思議な笑顔が映った。なんだろう、泣きそうなのに口のあたりは上がってて笑ってる。我慢してるみたい。
「あったかい」
ぽつりと漏れた言葉は、お爺ちゃんが教えてくれた。僕が知ってる言葉は、全部お爺ちゃんが使った言葉だ。前はよく来てくれて、白いずるずるした格好の人だった。ざらざらする手で頭を撫でてくれた人だけど、もう来ない。
僕を嫌いになったのかな。何日も待ってるけど、突然来なくなった。この人も今日だけ、もう来ないと思うと目が痛くなる。毛布で温かいのと違い、じわじわして顔がくしゃくしゃになりそう。
「……お前、オレと一緒に来るか?」
一緒に、くる? よくわかんない、来るのはいつも誰か来る。一緒は好き。こうしてるのは、一緒と同じだよね。
「一緒すき」
そう呟くと、嬉しそうに笑った。だから僕も笑う。おんなじ顔をするとお爺ちゃんが喜んだから。僕が知ってるのはそのくらい。
「じゃあ食べたら出よう。雨ももうすぐ止むし……持っていきたい荷物あるか?」
たくさん話されて混乱した。食べる、出る、雨やむ……荷物? 首をかしげてひとつずつ確認していると、大切なものはないかと言い直された。だからぎゅっとしてる腕をぽんぽんと示す。
「ん?」
「これ、大切」
このぎゅっとする腕は大切で、好き。そう言って待つ。他の物はなくてもいい。だってなくなると、新しいのが来る。ずっとそうだった。来なくなったのはお爺ちゃんだけ。
もしここにお爺ちゃんがいたら、それも大切。それをどう伝えたらいいかわからず、人間が何か言うのを待った。
「参った。本当に何もないのか。物知らずってレベルじゃねえぞ、完全な虐待だ。放置して何がしたいんだか」
ぶつぶつと何か言って、それから青い目が僕をまっすぐに見る。
「よし、一緒に行こう。絶対に離れるなよ」
またぎゅっとされた。これ気持ちいい。絵本はお互いに包んでたけど、僕だけ包まれてるのも気持ちいい。今度は僕も包んであげたいな。そう思いながら、飲み物を半分ずつ。柔らかいのも半分ずつした。いつも齧ってた柔らかいのがパンで、こっちの飲み物がスープみたい。
スープにパンを入れるとスープが消えた。でもパンが美味しくなる。すごく不思議で、人間がやってるのを真似して口に放り込む。もぐもぐと口を動かす僕を足にのっけたまま、食べ物がなくなった。箱に入れ物を置いて、ベッドに座らされる。
着替える服をいくつか選んでいた人間は、それを何もないところに入れた。消えちゃったので捨てたのかな。そう思っていたら今度は毛布を手にする。捨てられると嫌なので握った。手を離さない僕に笑い、人間は毛布を僕に巻き付ける。
よかった。捨てられなかった。
「靴がないなら、抱っこしてくか」
……抱っこって、何?
どうしよう、怒られる。震える僕に手が伸びて、大急ぎで頭を抱えた。見えるところじゃなければ殴ってもいい。痕が残らなきゃ蹴飛ばしてもいい。そう言われていつも殴られたから。大きな手が伸びると怖い。あの手に包んで欲しいのに、痛いのは嫌だった。
丸くなった僕の上に、温かい手が触れた。痛くないので頭の手をどけてみると、変な顔でこっちを見てる。じっと見つめ返した僕は、からんと食器を置く音で我に返った。中身が入った器を一度箱に置いた人間は、転がった僕を起こす。
ぎゅっと苦しくなった。僕より太い腕がお腹と胸のあたりにあって、背中が凄く温かい。くっついてるのかな。ぼんやりと見上げる僕に、不思議な笑顔が映った。なんだろう、泣きそうなのに口のあたりは上がってて笑ってる。我慢してるみたい。
「あったかい」
ぽつりと漏れた言葉は、お爺ちゃんが教えてくれた。僕が知ってる言葉は、全部お爺ちゃんが使った言葉だ。前はよく来てくれて、白いずるずるした格好の人だった。ざらざらする手で頭を撫でてくれた人だけど、もう来ない。
僕を嫌いになったのかな。何日も待ってるけど、突然来なくなった。この人も今日だけ、もう来ないと思うと目が痛くなる。毛布で温かいのと違い、じわじわして顔がくしゃくしゃになりそう。
「……お前、オレと一緒に来るか?」
一緒に、くる? よくわかんない、来るのはいつも誰か来る。一緒は好き。こうしてるのは、一緒と同じだよね。
「一緒すき」
そう呟くと、嬉しそうに笑った。だから僕も笑う。おんなじ顔をするとお爺ちゃんが喜んだから。僕が知ってるのはそのくらい。
「じゃあ食べたら出よう。雨ももうすぐ止むし……持っていきたい荷物あるか?」
たくさん話されて混乱した。食べる、出る、雨やむ……荷物? 首をかしげてひとつずつ確認していると、大切なものはないかと言い直された。だからぎゅっとしてる腕をぽんぽんと示す。
「ん?」
「これ、大切」
このぎゅっとする腕は大切で、好き。そう言って待つ。他の物はなくてもいい。だってなくなると、新しいのが来る。ずっとそうだった。来なくなったのはお爺ちゃんだけ。
もしここにお爺ちゃんがいたら、それも大切。それをどう伝えたらいいかわからず、人間が何か言うのを待った。
「参った。本当に何もないのか。物知らずってレベルじゃねえぞ、完全な虐待だ。放置して何がしたいんだか」
ぶつぶつと何か言って、それから青い目が僕をまっすぐに見る。
「よし、一緒に行こう。絶対に離れるなよ」
またぎゅっとされた。これ気持ちいい。絵本はお互いに包んでたけど、僕だけ包まれてるのも気持ちいい。今度は僕も包んであげたいな。そう思いながら、飲み物を半分ずつ。柔らかいのも半分ずつした。いつも齧ってた柔らかいのがパンで、こっちの飲み物がスープみたい。
スープにパンを入れるとスープが消えた。でもパンが美味しくなる。すごく不思議で、人間がやってるのを真似して口に放り込む。もぐもぐと口を動かす僕を足にのっけたまま、食べ物がなくなった。箱に入れ物を置いて、ベッドに座らされる。
着替える服をいくつか選んでいた人間は、それを何もないところに入れた。消えちゃったので捨てたのかな。そう思っていたら今度は毛布を手にする。捨てられると嫌なので握った。手を離さない僕に笑い、人間は毛布を僕に巻き付ける。
よかった。捨てられなかった。
「靴がないなら、抱っこしてくか」
……抱っこって、何?
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