35 / 321
34.わかんないのが怖くて泣いた
しおりを挟む
罰を与える――その言葉は聞いたことがある。僕がスープをこぼした時、白い服の人が口にした。叩かれて、蹴られて、すごく痛かったんだ。セティもそんなことするの?
口を開こうとして、まだ黙ってないとダメなのかもと口を閉じる。神様だから心で話しかけたら届くって言ってたよね。ねえ、僕を叩くの? 蹴るの? スープこぼしてないのに。
「落ち着け、イシス。いい子だ……」
額と目の上と頬にキスしてくれた。きゅっと握った手を持ち上げて、やっぱり唇が触る。これもキス? 罰を与えるんでしょ、僕……我慢できる。
セティを見上げるけど、何か出てきた。目の中からいっぱい、痛かった時に出てきた水だ。塩っぱくて、傷に沁みるやつ……。
「泣くな、オレはお前を傷つけたりしない」
傷つけないのは、痛くないのと同じ。知ってる言葉を頭の中で並べると、そっと髪を撫でてくれた。
「そうだ、痛くない。落ち着け」
こくんと頭を縦に振って、一度縮めた手を伸ばす。セティは痛いことしない。抱っこして欲しい。僕も抱っこするから。
「……タイフォン、さま?」
掠れた声に僕はびっくりした。忘れてたけど、ここは神殿だ。白い服の人がいっぱいいて、大司教って呼ばれた偉い人もいる。振り返って見るのが怖くて、セティの首に顔を埋めた。
「あの神殿の責任者と神父達を連れてこい。この子に関わった者は全て、だ。例外はない。足りなければ、お前達の命で補うぞ」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
セティが低い声を出し、大司教の人がぺたんと床に平らになった。泣いたからかな、少し眠い。ごしごしと目元を擦る手を、セティが止めた。代わりに濡らした布で拭いてくれる。
大人しく目を閉じていた。背中に変な感じがして振り返ると、知らない人がじっと見ている。慌ててセティにしがみついた。今の人も白い服だった。
セティをとられたら困る。ぽんと背中を叩く手に息を吐いた。少し苦しい。大きく息をしたら楽になった。
「お部屋にご案内を」
「この子が嫌がる」
頭の上の会話を、ぼんやりしながら聞いていた。宿から移動するのかな。でも僕、宿の方がいい。だって白い服の怖い人いないから。
神殿は怖い場所。僕に痛いことするし、寒い。ここはセティに似合わないよ。温かいお風呂みたいな場所がいい。食べ終えた飴の甘さが口の中に残るけど、セティのキスの甘さの方が好き。ここを出たらキスして欲しいな。
目の上の蓋が落ちてくる。力が抜けて、ぽかぽかして……僕は眠いみたい。
「すこし寝ろ」
頭の上に温かい手が乗せられ、滑ってきて僕の目を覆った。途端に欠伸が出る。なんだろう、急に眠くなってきたけど。
がくんと後ろに倒れそうになった首を、セティが引き戻してくれた。セティの匂いを胸いっぱいに吸い込んで、黒髪を握る。両手をしっかり首に回した。
これで離れない……僕は、セティといっしょ。
口を開こうとして、まだ黙ってないとダメなのかもと口を閉じる。神様だから心で話しかけたら届くって言ってたよね。ねえ、僕を叩くの? 蹴るの? スープこぼしてないのに。
「落ち着け、イシス。いい子だ……」
額と目の上と頬にキスしてくれた。きゅっと握った手を持ち上げて、やっぱり唇が触る。これもキス? 罰を与えるんでしょ、僕……我慢できる。
セティを見上げるけど、何か出てきた。目の中からいっぱい、痛かった時に出てきた水だ。塩っぱくて、傷に沁みるやつ……。
「泣くな、オレはお前を傷つけたりしない」
傷つけないのは、痛くないのと同じ。知ってる言葉を頭の中で並べると、そっと髪を撫でてくれた。
「そうだ、痛くない。落ち着け」
こくんと頭を縦に振って、一度縮めた手を伸ばす。セティは痛いことしない。抱っこして欲しい。僕も抱っこするから。
「……タイフォン、さま?」
掠れた声に僕はびっくりした。忘れてたけど、ここは神殿だ。白い服の人がいっぱいいて、大司教って呼ばれた偉い人もいる。振り返って見るのが怖くて、セティの首に顔を埋めた。
「あの神殿の責任者と神父達を連れてこい。この子に関わった者は全て、だ。例外はない。足りなければ、お前達の命で補うぞ」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
セティが低い声を出し、大司教の人がぺたんと床に平らになった。泣いたからかな、少し眠い。ごしごしと目元を擦る手を、セティが止めた。代わりに濡らした布で拭いてくれる。
大人しく目を閉じていた。背中に変な感じがして振り返ると、知らない人がじっと見ている。慌ててセティにしがみついた。今の人も白い服だった。
セティをとられたら困る。ぽんと背中を叩く手に息を吐いた。少し苦しい。大きく息をしたら楽になった。
「お部屋にご案内を」
「この子が嫌がる」
頭の上の会話を、ぼんやりしながら聞いていた。宿から移動するのかな。でも僕、宿の方がいい。だって白い服の怖い人いないから。
神殿は怖い場所。僕に痛いことするし、寒い。ここはセティに似合わないよ。温かいお風呂みたいな場所がいい。食べ終えた飴の甘さが口の中に残るけど、セティのキスの甘さの方が好き。ここを出たらキスして欲しいな。
目の上の蓋が落ちてくる。力が抜けて、ぽかぽかして……僕は眠いみたい。
「すこし寝ろ」
頭の上に温かい手が乗せられ、滑ってきて僕の目を覆った。途端に欠伸が出る。なんだろう、急に眠くなってきたけど。
がくんと後ろに倒れそうになった首を、セティが引き戻してくれた。セティの匂いを胸いっぱいに吸い込んで、黒髪を握る。両手をしっかり首に回した。
これで離れない……僕は、セティといっしょ。
275
あなたにおすすめの小説
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
この契約結婚は君を幸せにしないから、破棄して、逃げて、忘れます。
箱根ハコ
BL
誰もが羨む将来の騎士団長候補であるルーヴェルは、怪物を倒したところ、呪われてしまい世にも恐ろしい魔獣へと姿を変えられてしまった。
これまで彼に尊敬の目を向けてきたというのに、人々は恐れ、恋人も家族も彼を遠ざける中、彼に片思いをしていたエルンは言ってしまった。
「僕が彼を預かります!」
僕だけは、彼の味方でいるんだ。その決意とともに告げた言葉がきっかけで、彼らは思いがけず戸籍上の夫婦となり、郊外の寂れた家で新婚生活を始めることになってしまった。
五年後、ルーヴェルは元の姿に戻り、再び多くの人が彼の周りに集まるようになっていた。
もとに戻ったのだから、いつまでも自分が隣にいてはいけない。
この気持ちはきっと彼の幸せを邪魔してしまう。
そう考えたエルンは離婚届を置いて、そっと彼の元から去ったのだったが……。
呪いのせいで魔獣になり、周囲の人々に見捨てられてしまった騎士団長候補✕少し変わり者だけど一途な植物学者
ムーンライトノベルス、pixivにも投稿しています。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる