【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
50 / 321

49.月夜の訪問者(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



 眠ったイシスに念入りに魔法を重ね掛けする。音を消し、眠りを深くし、保護の結界を数枚。それでも心配なので、長い黒髪を使ったお守りも手首に巻いた。外へ出ると虫の声がぴたりと止む。

「殺気が駄々洩れだ」

 虫や鳥は敏感だ。夜なので虫の声だけだが、夜行性の獣も散って逃げただろう。左に2人、右に1人、後方に1人か。思ったより数が少ない。

 2つある月は両方とも欠けていた。上下に満ち欠けする月は、青と黄色の光を降らせた。青い月は古代神を、黄色い月は自然神を示す。合わさって緑を濃くした森の木々は、沈黙を守った。

 葉を揺らす音はなかった。だが左から突き出されたナイフを叩き落とし、腕をつかんで投げ飛ばす。ついでに腕をひねって折った。苦痛の悲鳴を上げないところを見ると、何らかの魔法を使ったか。顔をしかめて起き上がった黒服の男を見て、納得した。

「声帯をつぶしたか」

 これなら不用意に声を上げる心配はない。暗殺に特化した集団のようだ。遠慮も容赦も不要だと判断し、オレは口角を持ち上げた。赤毛の親子を殺せ――命じれらた獲物の情報はその程度だろう。目印になる絵本を抱えて歩くことをイシスに許したのは、彼らを呼び寄せるためだ。

 先に手を出してもらわなければ、大義名分が立たない。利き腕を折られた仲間を見捨て、右側の男が魔法陣を使う。本来は大した魔力を持たない男だが、増幅の魔法陣によって炎は大きく膨らんだ。叩きつける動きに、オレは手を広げてかざした。振り抜いて投げるはずの手が止まれば、炎は男自身を焼き尽くす。

 悲鳴を上げることもなく身を捩って転がる男が、ぐったりと動かなくなった。後ろから飛んできた矢を指先で掴んで折る。結界があるので迎撃しなくても構わないが、折角の獲物だ。プロである男達の心を絶望で染めるには、圧倒的な実力差を見せつけるのが早い。

 一歩も動かず、2人を戦闘不能にした。後ろの矢は複数本飛んできたが、それも折った。次の手は左の男か? 目の前で痛みにのたうつ男だろうか。どちらでも構わない。

 後ろの男が弓を捨て、ナイフを手にぐるりと回り込む。イシスの眠るテントへ近づこうとするが、手前で透明の壁に阻まれた。ナイフの柄や刃を叩きつけて破ろうとするが……。

「オレの結界を破れるわけないが、不愉快だ」

 破壊に特化した能力だが、守るための力も持っている。他の神々の加護がある武器を弾くくらい、造作もなかった。男が持つナイフに込められた加護は、アトゥム神殿のものだ。

「アトゥム、邪魔するなら殺すぞ」

 空中へ向けて警告した。どうせ周辺で見ているはずだ。その予想は当たった。ふわりと空中に姿を見せたアトゥム神は、黄金の前髪を弄りながら迷惑そうに呟く。

「僕の差し金じゃないのに」

「お前の信徒だろ」

 同じだと切り捨てる。溜め息をついたアトゥムは、ひらりと手を振って暗殺者を消した。文字通り彼らの姿も気配もなくなる。豊穣の神殿に相応しくない暗殺者を、世界から抹殺した神は肩を竦めて笑った。

「ああいうの、大っ嫌い」

 神託で告げればよいものを。人間に対しては良い顔しか見せないアトゥムは、ひらりと舞い降りた。

「ねえ、あの国を亡ぼすの?」

 タイフォーンを祀る国は意外と多いが、大神殿があるウーラノス国のことだろう。洞窟の神殿があったティターン国はイシスの故郷で、ウーラノスの属国だった。どちらを示しているのか曖昧な問いに、オレは肩を竦める。

「言ったはずだぞ、オレに信徒は不要と」
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

この契約結婚は君を幸せにしないから、破棄して、逃げて、忘れます。

箱根ハコ
BL
誰もが羨む将来の騎士団長候補であるルーヴェルは、怪物を倒したところ、呪われてしまい世にも恐ろしい魔獣へと姿を変えられてしまった。 これまで彼に尊敬の目を向けてきたというのに、人々は恐れ、恋人も家族も彼を遠ざける中、彼に片思いをしていたエルンは言ってしまった。 「僕が彼を預かります!」 僕だけは、彼の味方でいるんだ。その決意とともに告げた言葉がきっかけで、彼らは思いがけず戸籍上の夫婦となり、郊外の寂れた家で新婚生活を始めることになってしまった。 五年後、ルーヴェルは元の姿に戻り、再び多くの人が彼の周りに集まるようになっていた。 もとに戻ったのだから、いつまでも自分が隣にいてはいけない。 この気持ちはきっと彼の幸せを邪魔してしまう。 そう考えたエルンは離婚届を置いて、そっと彼の元から去ったのだったが……。 呪いのせいで魔獣になり、周囲の人々に見捨てられてしまった騎士団長候補✕少し変わり者だけど一途な植物学者 ムーンライトノベルス、pixivにも投稿しています。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...