【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
92 / 321

91.真理を見抜く子(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



『ふむ。構わないよ、その子は濁ってないからね』

 ふぁさっと柔らかな音がして、ドラゴンの背に羽が広がった。ドラゴンの羽の大きさに「すごいね」を連発するイシスが、興奮した様子で両手を伸ばす。全然追いつかないのに、真似するように手を広げて喜ぶ姿が可愛くて抱き上げた。

「届かないくらい大きい」

 興奮して抱き着いたイシスに頬ずりしていると、青竜は長い首を傾けて覗き込んだ。

『お前様もそんな顔するんだねぇ』

「悪いか?」

『安心したよ』

 短く返した青竜ヴルムが穏やかな目を向ける。竜種特有の黄金の瞳は珍重され、一時期ドラゴン退治が流行った。人間達は友好的な竜の多くを殺し、その瞳をくり貫いたのだ。ただ宝石の如く美しいというだけで、数多くのドラゴンが殺された。

 先代竜王が番を庇って亡くなり、その遺児であったヴルムはタイフォンに拾われる。哀れなドラゴンの子に知識と生き残る術を教えたのは、気が遠くなるほど昔のことだった。つがいの子を産んだ今、ヴルムは3匹のドラゴンの母親だ。

『この子を見せに来てくれたのかい?』

「ああ、オレの伴侶で番だ。覚えておいてくれ」

 何かあれば助けてやって欲しい。そう含ませた意味を受け取り、ヴルムは何度も頷いた。伸ばした鼻先でイシスを撫で、舌でその顔を舐める。己の子を慈しむ母のような行為に、イシスは嬉しそうに笑った。怖がる様子はない。

「綺麗で、優しいドラゴンだね。絵本は悪く書いてあったのに」

「あれは人間が作った話だからな」

 大量のドラゴンを殺したくせに、後世に伝える時は攻めたドラゴンから都を守った話になっていた。読み聞かせた後、オレの見た真実もしっかり教える。イシスに偏った知識を与える必要はなかった。この子は物を知らないだけで、馬鹿ではないのだから。

 すべての情報を与え、その中からイシスが直接見聞きした経験を基に真実を選べばよかった。たとえオレの知る史実と違っても、イシス自身が望んだ答えだ。穏やかに頷いたオレに、イシスはほわりと微笑み、思わぬ言葉を口にした。

「ドラゴンは優しすぎて、人間にやり返さなかったんだね。だってこんなに強くて綺麗だもの。人間が負けちゃうよ」

『おやまあ。これは、また……』

 予想外の理解にヴルムが絶句した。ドラゴンが尾を振れば壁が壊れ、炎を吐けば都は焼け落ちる――残酷な振る舞いをしないのは、綺麗で強く優しいから。その理由付けは無知な子供の戯言のようであり、世の理を悟った賢者のようだった。

 長寿ゆえの物知りを誇るドラゴンは、他の魔物と一線を画す。寿命が長いということは、考え方が緩やかで丸くなる長所があった。逆に怒り狂えば我を失い暴走する。その極端さが、ドラゴンに関する伝説を生み出す礎だ。それゆえにドラゴンは知と法の番人と呼ばれてきた。

 どうだ? オレの嫁だ。自慢げにヴルムを見つめる。黄金の瞳が少し潤んで、何度も瞬きした。それから大きな体を器用に動かして、ぺたりと地面に伏せる。

『物事の真理を見抜く子だ。ティフォン、大切にしておやりよ』

 よどんだ人間の中にこんな子が混じれば、すぐに汚されてしまう。美しいものを守ろうとするドラゴンや神の在り方は稀有で、人間は汚して引きずり降ろそうとする生き物だった。純粋さを尊ぶドラゴンの母は、我が子を慈しむ眼差しを向ける。

「もちろんだ」

 頷いたオレに、イシスは両手を広げて目を輝かせた。

「僕、こんなに、こぉんなに大切にしてもらってます」

 目いっぱい背伸びして大きさを表現するイシスの仕草に、ヴルムは何度も頷いて目を潤ませた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。 表紙ロゴは零壱の著作物です。

処理中です...