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96.悪い子でも嫌いにならない?
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トムはどこに行ったんだろう。セティに渡されたフォンを抱っこして、きらきらの洞窟から出る。お母さんの卵がある巣で、僕はお母さんに包まれて横になった。
「朝までに探しておく。トムは遊んでる間に疲れて寝ちゃったんだよ」
セティがそういうなら、そうなんだと思う。長い黒髪を後ろで縛ったセティが腕まくりをして「よしっ」と声をかけて奥へ戻った。トムのお母さんは僕だから一緒に探したいけど、子供はダメなんだって。
『イシス、私の可愛い卵を一緒に温めておくれ』
お母さんが仕事をくれた。子供の僕でも出来る仕事で、未来の弟を抱っこして温めるんだ。その後ろからお母さんが僕と卵を抱っこしてくれる。ぬいぐるみのフォンも一緒に抱っこした。背中が温かいし、卵も冷たくなくて気持ちいい。
セティが動く音が少し聞こえて、僕は気になって奥を見てしまう。気づいたお母さんが羽を広げて隠しちゃった。音も聞こえなくなっちゃう。
『子猫はティフォンの仕事、卵はイシスの仕事。ティフォンが仕事してるのに、お前はサボるのかい?』
くすくす笑いながら、べろんと顔を舐められた。お母さんの舌は青っぽい黒みたいな色で、鱗より柔らかいけど硬い。擽りながら舐めるから、声をあげて笑った。転がって鱗の上を滑り、慌ててフォンを捕まえて起き上がる。
弟が入ってる卵……僕とお母さんで温めなくちゃね。僕が知ってる卵は、ご飯の時に出てきた黄色い食べ物だ。もしかしたらあれは誰かの弟や妹が入っていたのかも。そう考えたら怖くなって眠れなくなった。聞いてみようか。でもお母さんに嫌われちゃったら困る。
ちらちらとお母さんを見ながら、弟の卵を撫でた。安心して、僕は君を食べたりしないからね。早く出てきて、僕と遊んで欲しい。きっと可愛いだろうな。
『イシス? 何かあるのなら話してごらん?』
優しい声に、鼻の奥がつんとした。涙出ちゃう。どうしよう、泣いたらおかしいのに。
「あの……あのね。嫌いにならないって約束、して」
鼻が詰まって啜りながら、お母さんに悪いことを言った。謝ろうとしたら、お母さんが笑ってべろりと舐める。びっくりして、後ろにひっくり返った。
『おかしなことを言う子だよ。母親は大切な子供を嫌いになったりしないさ。お前はトムが引っかいたり噛んだら、嫌いになるのかい?』
考えてみる。トムは爪が鋭いし、牙も立派だ。たまに僕に爪を立てて痛いときもある。でも「痛い」と言えば離してくれるし、僕は嫌いにならなかった。お母さんも同じなんだ。ほっとして首を振る。
『じゃあ、教えておくれ。何が気になるのか』
「卵、弟が入ってるよね」
頷くお母さんに僕は大きく息を吸ってから尋ねた。胸がどきどきする。
「前にご飯で黄色い卵食べた。あれは誰かの……弟だった、かも……でも」
美味しいと思って食べちゃった。最後の方は言葉にならなくて、涙がぽろぽろ零れる。お母さんが困ったように喉を鳴らして、優しく頬や顔を舐めた。そのたびに新しい涙が出てくる。
『本当に優しい子だ。人間が食べるなら、おそらく鳥のものだね。鳥は毎日卵を産むんだよ。そのうちのほとんどは子供が生まれない卵だから食べても平気さ』
子供がいない卵? なんでそんな卵が産まれるんだろう。食べても平気な卵は、温めても子供にならないの? 大きく目を見開いた僕の顔を丁寧に舐めて、お母さんは付け加えた。
『あのセティが、子供の生まれる卵をイシスに食べさせるわけないだろう?』
だから食べても大丈夫だよ。セティがくれた卵は平気? 良かった。僕、誰かの弟を食べてなかった。生まれるのを楽しみにしてる、誰かのお母さんの卵じゃなくてほっとした。安心してにこっと笑ったら、お母さんも笑いながら僕を羽の下に閉じ込める。
『もうお休み。明日は子猫も戻ってるよ』
「朝までに探しておく。トムは遊んでる間に疲れて寝ちゃったんだよ」
セティがそういうなら、そうなんだと思う。長い黒髪を後ろで縛ったセティが腕まくりをして「よしっ」と声をかけて奥へ戻った。トムのお母さんは僕だから一緒に探したいけど、子供はダメなんだって。
『イシス、私の可愛い卵を一緒に温めておくれ』
お母さんが仕事をくれた。子供の僕でも出来る仕事で、未来の弟を抱っこして温めるんだ。その後ろからお母さんが僕と卵を抱っこしてくれる。ぬいぐるみのフォンも一緒に抱っこした。背中が温かいし、卵も冷たくなくて気持ちいい。
セティが動く音が少し聞こえて、僕は気になって奥を見てしまう。気づいたお母さんが羽を広げて隠しちゃった。音も聞こえなくなっちゃう。
『子猫はティフォンの仕事、卵はイシスの仕事。ティフォンが仕事してるのに、お前はサボるのかい?』
くすくす笑いながら、べろんと顔を舐められた。お母さんの舌は青っぽい黒みたいな色で、鱗より柔らかいけど硬い。擽りながら舐めるから、声をあげて笑った。転がって鱗の上を滑り、慌ててフォンを捕まえて起き上がる。
弟が入ってる卵……僕とお母さんで温めなくちゃね。僕が知ってる卵は、ご飯の時に出てきた黄色い食べ物だ。もしかしたらあれは誰かの弟や妹が入っていたのかも。そう考えたら怖くなって眠れなくなった。聞いてみようか。でもお母さんに嫌われちゃったら困る。
ちらちらとお母さんを見ながら、弟の卵を撫でた。安心して、僕は君を食べたりしないからね。早く出てきて、僕と遊んで欲しい。きっと可愛いだろうな。
『イシス? 何かあるのなら話してごらん?』
優しい声に、鼻の奥がつんとした。涙出ちゃう。どうしよう、泣いたらおかしいのに。
「あの……あのね。嫌いにならないって約束、して」
鼻が詰まって啜りながら、お母さんに悪いことを言った。謝ろうとしたら、お母さんが笑ってべろりと舐める。びっくりして、後ろにひっくり返った。
『おかしなことを言う子だよ。母親は大切な子供を嫌いになったりしないさ。お前はトムが引っかいたり噛んだら、嫌いになるのかい?』
考えてみる。トムは爪が鋭いし、牙も立派だ。たまに僕に爪を立てて痛いときもある。でも「痛い」と言えば離してくれるし、僕は嫌いにならなかった。お母さんも同じなんだ。ほっとして首を振る。
『じゃあ、教えておくれ。何が気になるのか』
「卵、弟が入ってるよね」
頷くお母さんに僕は大きく息を吸ってから尋ねた。胸がどきどきする。
「前にご飯で黄色い卵食べた。あれは誰かの……弟だった、かも……でも」
美味しいと思って食べちゃった。最後の方は言葉にならなくて、涙がぽろぽろ零れる。お母さんが困ったように喉を鳴らして、優しく頬や顔を舐めた。そのたびに新しい涙が出てくる。
『本当に優しい子だ。人間が食べるなら、おそらく鳥のものだね。鳥は毎日卵を産むんだよ。そのうちのほとんどは子供が生まれない卵だから食べても平気さ』
子供がいない卵? なんでそんな卵が産まれるんだろう。食べても平気な卵は、温めても子供にならないの? 大きく目を見開いた僕の顔を丁寧に舐めて、お母さんは付け加えた。
『あのセティが、子供の生まれる卵をイシスに食べさせるわけないだろう?』
だから食べても大丈夫だよ。セティがくれた卵は平気? 良かった。僕、誰かの弟を食べてなかった。生まれるのを楽しみにしてる、誰かのお母さんの卵じゃなくてほっとした。安心してにこっと笑ったら、お母さんも笑いながら僕を羽の下に閉じ込める。
『もうお休み。明日は子猫も戻ってるよ』
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