51 / 100
51.安心しろ、命は奪わん
しおりを挟む
「わしは悪くない! 皆が、聖女と……そうだ、魔術師どものせいだ」
「何も知らないわ。後宮から出なかったもの」
言い訳が並ぶ王子や王女に至るまで、誰もが自分は悪くないと口々に言い放った。異口同音、その聞き苦しい言い訳を、狼の遠吠えが遮る。のしりと一歩踏み出した黒い狼は牙を剥き、威嚇の声を上げた。
「ひっ、ひぃいい!」
腰が抜けて尻で後ずさる国王の、太った手足がじたばたと動く。夫を盾にして助かろうとする王妃、震えながら逃げ道を探す王子。王女はさっさと失神した。
愚かにも程がある。このような害虫が国を蝕んだ。宰相や騎士の姿が見えないことから、彼らが王家を見捨てて逃げたのは間違いない。財産のある者はそれでいい。金や資産があれば、逃亡後も生活が可能だからだ。問題は、住む場所を追われたら明日から路頭に迷う民だった。
過重な徴税に追われ、貯蓄など出来なかったはず。制裁で食料の輸入が止まり、街は大混乱に陥った。そんな民を尻目に、動きにくいドレスを纏い、豪華な宝石類を身に纏った姿は――吐き気がするほど醜い。
「安心しろ、命は奪わん」
ほっとした顔を見せる王族へ、アゼスは刃に似た鋭い言葉を突き刺した。
「処刑の権利は、民にあるのだからな」
エルとアランも同意した。彼らも小さいが領地や国を治める君主だ。アゼスほどの苦労を背負い込む気はないが、聖獣である自分達を慕う者くらいは守ろうとしてきた。政の失敗を責める権利を持つのは、税を納めて労働で国を支えた国民のみ。
言い放たれた言葉の意味を、彼らは理解できないのだろう。高等教育を受けたであろうに、愚者は己に都合のいい教えだけを拾い集めて頭へ詰め込んだ。
黒い狼は唸りながらも勝手に襲うことはしない。賢い黒狼を撫で、アランが許可を出した。
「一匹だけですよ。食い殺さなければ構いません」
目を輝かせ、大きく尻尾を振る。それから歓喜の遠吠えを上げた。ダッシュした先は王子だ。悲鳴をあげて逃げる王子を追いかけ回し、手足を噛む。だが噛みちぎったりはしない。咥えて振り回し、上から踏みつけにした。
獣に襲われる家族の姿に、また哀願の声が聞こえ始めた。それを無視したアランは、王妃の髪を掴んで引き倒す。
「やめっ」
「同じ言葉を、我が主人も口にされたのでしょうね。なんと悍ましい生き物でしょうか。手が汚れてしまう」
辛辣に罵り、宝石まみれの指を切り落とした。一本ずつ丁寧に、微笑みを浮かべて行う。風が渦巻き、鋭い刃を繰り出した。片手の指を落とし終えたところで、アランは大きく溜め息を吐く。それから分かりやすく嘆いた。
「失敗しました、捻り切ればよかった」
「ほんとだよ。それじゃ痛みも一瞬じゃん」
エルの苦情を受け、風を操るアランの表情が変わる。黒い笑みを浮かべ、サラに色っぽいと褒められた優雅な所作で王妃の顎を掴んだ。涙と鼻水、涎で汚れ切った顔をじっくり眺め、さらに笑みを深める。
「安心してください。切り落とした右手も、もう一度すり潰させていただきますから」
まったく安心できない宣言に、王妃は泡を吹いて倒れた。そのまま気絶したままでいられるなら、悪くなかっただろうが。激痛で悲鳴をあげて飛び起きる。太い指の幅より大きな宝石が指ごと切り落とされ、ごろんと転がった。
*********************
【新作】世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか
https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/174623072
愛の意味も知らない僕だけど、どうか殺さないで――。
「お前など産まれなければよかった」
「どうして生きていられるんだ? 化け物め」
「死ね、死んで詫びろ」
投げかけられるのは、残酷な言葉。突きつけられるのは、暴力と嫌悪。孤独な幼子は密かに願った。必死に生きたけど……もうダメかもしれない。誰でもいい、僕を必要だと言って。その言葉は世界最強と謳われる竜女王に届いた。番である幼子を拾い育て、愛する。その意味も知らぬ子を溺愛した。
やがて判明したのは残酷な現実――世界を滅ぼす災厄である番は死ななければならない。その残酷な現実へ、女王は反旗を翻した。
「私からこの子を奪えると思うなら、かかってくるがいい」
幼子と女王は世界を滅ぼしてしまうのか!
恋愛要素が少しあるファンタジーです(*ノωノ)
「何も知らないわ。後宮から出なかったもの」
言い訳が並ぶ王子や王女に至るまで、誰もが自分は悪くないと口々に言い放った。異口同音、その聞き苦しい言い訳を、狼の遠吠えが遮る。のしりと一歩踏み出した黒い狼は牙を剥き、威嚇の声を上げた。
「ひっ、ひぃいい!」
腰が抜けて尻で後ずさる国王の、太った手足がじたばたと動く。夫を盾にして助かろうとする王妃、震えながら逃げ道を探す王子。王女はさっさと失神した。
愚かにも程がある。このような害虫が国を蝕んだ。宰相や騎士の姿が見えないことから、彼らが王家を見捨てて逃げたのは間違いない。財産のある者はそれでいい。金や資産があれば、逃亡後も生活が可能だからだ。問題は、住む場所を追われたら明日から路頭に迷う民だった。
過重な徴税に追われ、貯蓄など出来なかったはず。制裁で食料の輸入が止まり、街は大混乱に陥った。そんな民を尻目に、動きにくいドレスを纏い、豪華な宝石類を身に纏った姿は――吐き気がするほど醜い。
「安心しろ、命は奪わん」
ほっとした顔を見せる王族へ、アゼスは刃に似た鋭い言葉を突き刺した。
「処刑の権利は、民にあるのだからな」
エルとアランも同意した。彼らも小さいが領地や国を治める君主だ。アゼスほどの苦労を背負い込む気はないが、聖獣である自分達を慕う者くらいは守ろうとしてきた。政の失敗を責める権利を持つのは、税を納めて労働で国を支えた国民のみ。
言い放たれた言葉の意味を、彼らは理解できないのだろう。高等教育を受けたであろうに、愚者は己に都合のいい教えだけを拾い集めて頭へ詰め込んだ。
黒い狼は唸りながらも勝手に襲うことはしない。賢い黒狼を撫で、アランが許可を出した。
「一匹だけですよ。食い殺さなければ構いません」
目を輝かせ、大きく尻尾を振る。それから歓喜の遠吠えを上げた。ダッシュした先は王子だ。悲鳴をあげて逃げる王子を追いかけ回し、手足を噛む。だが噛みちぎったりはしない。咥えて振り回し、上から踏みつけにした。
獣に襲われる家族の姿に、また哀願の声が聞こえ始めた。それを無視したアランは、王妃の髪を掴んで引き倒す。
「やめっ」
「同じ言葉を、我が主人も口にされたのでしょうね。なんと悍ましい生き物でしょうか。手が汚れてしまう」
辛辣に罵り、宝石まみれの指を切り落とした。一本ずつ丁寧に、微笑みを浮かべて行う。風が渦巻き、鋭い刃を繰り出した。片手の指を落とし終えたところで、アランは大きく溜め息を吐く。それから分かりやすく嘆いた。
「失敗しました、捻り切ればよかった」
「ほんとだよ。それじゃ痛みも一瞬じゃん」
エルの苦情を受け、風を操るアランの表情が変わる。黒い笑みを浮かべ、サラに色っぽいと褒められた優雅な所作で王妃の顎を掴んだ。涙と鼻水、涎で汚れ切った顔をじっくり眺め、さらに笑みを深める。
「安心してください。切り落とした右手も、もう一度すり潰させていただきますから」
まったく安心できない宣言に、王妃は泡を吹いて倒れた。そのまま気絶したままでいられるなら、悪くなかっただろうが。激痛で悲鳴をあげて飛び起きる。太い指の幅より大きな宝石が指ごと切り落とされ、ごろんと転がった。
*********************
【新作】世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか
https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/174623072
愛の意味も知らない僕だけど、どうか殺さないで――。
「お前など産まれなければよかった」
「どうして生きていられるんだ? 化け物め」
「死ね、死んで詫びろ」
投げかけられるのは、残酷な言葉。突きつけられるのは、暴力と嫌悪。孤独な幼子は密かに願った。必死に生きたけど……もうダメかもしれない。誰でもいい、僕を必要だと言って。その言葉は世界最強と謳われる竜女王に届いた。番である幼子を拾い育て、愛する。その意味も知らぬ子を溺愛した。
やがて判明したのは残酷な現実――世界を滅ぼす災厄である番は死ななければならない。その残酷な現実へ、女王は反旗を翻した。
「私からこの子を奪えると思うなら、かかってくるがいい」
幼子と女王は世界を滅ぼしてしまうのか!
恋愛要素が少しあるファンタジーです(*ノωノ)
169
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
お言葉ですが今さらです
MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。
次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。
しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。
アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。
失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。
そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。
お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。
内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。
他社サイト様投稿済み。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる