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外伝
外伝2-2.大切に守られた私の日常
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果物を慣れた手つきで剥いていくリディ。飾り切りをした色取り取りの果物がお皿に並んだ。
「どうぞ、サラちゃん」
「ありがとう、上手よね」
遠慮なく口に運ぶ。見た目が綺麗だと、より美味しく感じるわ。アリスを妊娠したばかりの頃、果物なら食べられそうな私のためにリディはナイフを手にした。結果として、指を切り落としたかと思うほどの大出血。考えてみたらそうよね。聖獣であり皇后陛下なリディに、侍女やメイドの仕事なんて縁がないもの。
料理人でもないし、ナイフの持ち方からしておかしかったわ。戦えるし、執務も確実で迅速。狐になればもふもふの毛皮と尻尾。夜会に出れば優雅な仕草で美しい姿と微笑み、巧みな会話で場の中心になるリディ。大きな胸やくびれた腰も含めて、完璧な人なのにね。出来ないことがあって、安心したのよ?
何度も手を切りながら、リディは果物の剥き方をマスターした。私の前に出されるまで半年くらいかかったけど、最初は皮を剥いて切っただけ。徐々に洗練されて、今では芸術品の域に達するほど。
「練習したもの」
私のための努力がすごく嬉しい。母親らしいことが出来たと笑った、あの日のリディの両手は傷だらけだったわ。その気持ちに満たされて、すごく幸せになれた。長い月日が流れても、あの日の感動と感謝はいまも胸に残っている。
「リディが努力家だって知ってるわ。だから、ありがとうなの」
抱えてきた果物は、二人目の子の悪阻用でしょ? 美しく皮を飾った林檎を齧り、隣の苺を娘アリスが頬張る。可愛い彫刻に似た飾りが施された苺は、つるんと小さな口に吸い込まれた。
「おいちっ」
「よかったわ、たくさん食べてね。サラちゃんもアリスも」
話しながらも器用に剥いた果物をお皿に並べた。一通り剥いたところで手を止める。アゼスが慣れた様子でタオルを出すと、エルが水で湿らせた。この辺の連係プレイはいつ見ても見事よね。美味しい果物をお腹に入れたら、眠くなってきちゃった。
あふっと欠伸をかみ殺すけれど、当然バレてしまう。心は筒抜けだもの。この状態も今になれば当たり前で、居心地がいい。隠し事をする心配もストレスも感じないから。そう言う意味で、嘘が吐けないのは最高の環境かも知れないわ。
「眠った方がいいですね」
アランが私を抱き上げて、芝生の上に移動した。膝枕より密着度が高い恰好は、とても気持ちいい。アランの肩に頭を預けて彼の上に座ったような形で、ぐったりと身を任せた。横たわるよりわずかに身を起こしてる方が、お腹が楽なのよ。
「日陰を作って……そう」
アゼスやリディの指示で、侍従が小型のテントを用意した。東屋みたいに四隅の柱と天井だけのテントは、私の思考を読んだアゼスが特注で作らせた。その後、帝国や大公国で一気に広まったの。移動した先で使いやすいと、貴族のご夫人やご令嬢に人気が高い。
お茶会にも使えるし、移動式だから軍の訓練時にも利用してるらしいわ。今までテントと言えば、棒を立てて布を被せた丸い形ばかりだった。窓もないし、入り口部分を縦に切ってくぐる形だもの。四本も柱を使うテントの必要性を誰も考えなかったのね。
赤いテントの天井を見ながら、うとうとする。アリスは隣に座ったエルに果物を食べさせてもらいご機嫌で、こちらに突撃してくる様子はなかった。アゼスとリディが仲良く肩を寄せ合う。穏やかで静かな午後……膨らみ始めたお腹を撫でた。
この子はいつ頃産まれるのかしら。
「どうぞ、サラちゃん」
「ありがとう、上手よね」
遠慮なく口に運ぶ。見た目が綺麗だと、より美味しく感じるわ。アリスを妊娠したばかりの頃、果物なら食べられそうな私のためにリディはナイフを手にした。結果として、指を切り落としたかと思うほどの大出血。考えてみたらそうよね。聖獣であり皇后陛下なリディに、侍女やメイドの仕事なんて縁がないもの。
料理人でもないし、ナイフの持ち方からしておかしかったわ。戦えるし、執務も確実で迅速。狐になればもふもふの毛皮と尻尾。夜会に出れば優雅な仕草で美しい姿と微笑み、巧みな会話で場の中心になるリディ。大きな胸やくびれた腰も含めて、完璧な人なのにね。出来ないことがあって、安心したのよ?
何度も手を切りながら、リディは果物の剥き方をマスターした。私の前に出されるまで半年くらいかかったけど、最初は皮を剥いて切っただけ。徐々に洗練されて、今では芸術品の域に達するほど。
「練習したもの」
私のための努力がすごく嬉しい。母親らしいことが出来たと笑った、あの日のリディの両手は傷だらけだったわ。その気持ちに満たされて、すごく幸せになれた。長い月日が流れても、あの日の感動と感謝はいまも胸に残っている。
「リディが努力家だって知ってるわ。だから、ありがとうなの」
抱えてきた果物は、二人目の子の悪阻用でしょ? 美しく皮を飾った林檎を齧り、隣の苺を娘アリスが頬張る。可愛い彫刻に似た飾りが施された苺は、つるんと小さな口に吸い込まれた。
「おいちっ」
「よかったわ、たくさん食べてね。サラちゃんもアリスも」
話しながらも器用に剥いた果物をお皿に並べた。一通り剥いたところで手を止める。アゼスが慣れた様子でタオルを出すと、エルが水で湿らせた。この辺の連係プレイはいつ見ても見事よね。美味しい果物をお腹に入れたら、眠くなってきちゃった。
あふっと欠伸をかみ殺すけれど、当然バレてしまう。心は筒抜けだもの。この状態も今になれば当たり前で、居心地がいい。隠し事をする心配もストレスも感じないから。そう言う意味で、嘘が吐けないのは最高の環境かも知れないわ。
「眠った方がいいですね」
アランが私を抱き上げて、芝生の上に移動した。膝枕より密着度が高い恰好は、とても気持ちいい。アランの肩に頭を預けて彼の上に座ったような形で、ぐったりと身を任せた。横たわるよりわずかに身を起こしてる方が、お腹が楽なのよ。
「日陰を作って……そう」
アゼスやリディの指示で、侍従が小型のテントを用意した。東屋みたいに四隅の柱と天井だけのテントは、私の思考を読んだアゼスが特注で作らせた。その後、帝国や大公国で一気に広まったの。移動した先で使いやすいと、貴族のご夫人やご令嬢に人気が高い。
お茶会にも使えるし、移動式だから軍の訓練時にも利用してるらしいわ。今までテントと言えば、棒を立てて布を被せた丸い形ばかりだった。窓もないし、入り口部分を縦に切ってくぐる形だもの。四本も柱を使うテントの必要性を誰も考えなかったのね。
赤いテントの天井を見ながら、うとうとする。アリスは隣に座ったエルに果物を食べさせてもらいご機嫌で、こちらに突撃してくる様子はなかった。アゼスとリディが仲良く肩を寄せ合う。穏やかで静かな午後……膨らみ始めたお腹を撫でた。
この子はいつ頃産まれるのかしら。
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