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本編
95.最高の幸運を得た ***SIDEクラウス
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ヴィクトーリア様の婚約者に選ばれ、認められたことは生涯で最高の幸運だ。初恋の皇女殿下は、手が届かないとあきらめた高嶺の花だったから。初恋は実らないものと聞いて、そうかもしれないと自嘲した。あの方は、皇族だ。帝国のために政略結婚を受け入れた。
わずか二年、まだ気持ちを切り替えられずにいた私は、信じられない情報を入手する。あの美しく気高いヴィクトーリア様が帰って来られる? 未婚の母として……! 嬉しいのか悲しいのか、腹立たしいのか……感情が混乱して吐き気がした。
ヴィクトーリア様はリヒター帝国の至宝だ。外見の美しさはもちろん、聡明で強い。文武両道とは、このような方を示す言葉だろう。十八歳で嫁ぎ、二十歳で戻ってくる。政略結婚なのに、未婚とはどう言う意味だ? 調べるほどに、アディソン王国の馬鹿にした対応に腹が立った。
偶然、あの方をお見かけして声を掛けたのは、我慢できなかったからだ。ヴィクトーリア様の過失ではないのに、出戻りと呼んだ愚かな伯爵をやり込めた。情報に明るいローヴァイン侯爵家を、ヴィクトーリア様は忘れていなかった。天にも昇る心地で、対応する。
宰相のラウエンシュタイン大公、エッケハルト様には友人として親しい距離にいた。そのこともご存知だったとは。周辺諸国への対応、自国内の粛清、と皇族の動きが慌ただしくなる。失礼だが、先読みするなら……すべての王国が支配下に置かれるだろう。
カリスマ性で貴族を牽引する皇帝陛下、有能な宰相閣下と元帥閣下。扇の要のように、兄達を纏めるヴィクトーリア様。すべてのカードが揃った。リヒター帝国史上、最高の布陣と評価できる。何かしら手伝わせてもらえないか、エッケハルト様に相談した直後だった。
二つ減った公爵家を一つ興す。ヴィクトーリア様が降嫁され、侯爵家から一つ陞爵される。そのお相手に選ばれた、と。
「君は最高の女性を射止めた。この幸運に溺れることなく、誠心誠意、彼女に仕えなさい」
先代皇弟殿下であった大神官ウルリヒ様は、穏やかな口調でそう命じた。普通に話す声は、逆らうことを許さぬ強さで紡がれる。ああ、この方はヴィクトーリア様を大切に想っているのだ。そう感じた。家族の情が強いことで知られた皇族の繋がりに、この身が震える。
認められ、至宝を任されるに値すると示された。深く頭を下げ、敬意を払う。叔父として姪を愛し、前皇弟として帝国を憂えた。大神官の立場で祝福を与え、導こうとしておられる。
「この身に代えても、ヴィクトーリア様をお守りします」
「盾は不要です。身を挺して守るなら私にもできる。フォルトやエックもいる。夫として妻になるトリアを愛し、支え、ジルヴィアの助けになること。これがお前の役割だ」
途中で口調が崩れた。親しげに傲慢に、皇族であった名残りのように命じる。情報では知っていたが、ここまで纏う気配が違うのか。押し潰されそうな強さに負けじと、顔を上げて目を見つめ返した。
「承知いたしました。ヴィクトーリア様を最後までお守りし、死しても離れず追うことが使命と心得ます」
「トリアの強さは、支えられてこそだ。努努忘れるなよ?」
化粧直しを終えたヴィクトーリア様が戻られ、当然のように腕を組む。彼女の左腕は、叔父であるウルリヒ様に。その時、一瞬だけ崩れた表情に目を見開いた。本当に大切な宝を任せていただくのだ。わずかな粗相も許されない。
決めたつもりの覚悟を、いま一度固めた。この命を捧げ、最高の幸運を愛し抜こうと。
わずか二年、まだ気持ちを切り替えられずにいた私は、信じられない情報を入手する。あの美しく気高いヴィクトーリア様が帰って来られる? 未婚の母として……! 嬉しいのか悲しいのか、腹立たしいのか……感情が混乱して吐き気がした。
ヴィクトーリア様はリヒター帝国の至宝だ。外見の美しさはもちろん、聡明で強い。文武両道とは、このような方を示す言葉だろう。十八歳で嫁ぎ、二十歳で戻ってくる。政略結婚なのに、未婚とはどう言う意味だ? 調べるほどに、アディソン王国の馬鹿にした対応に腹が立った。
偶然、あの方をお見かけして声を掛けたのは、我慢できなかったからだ。ヴィクトーリア様の過失ではないのに、出戻りと呼んだ愚かな伯爵をやり込めた。情報に明るいローヴァイン侯爵家を、ヴィクトーリア様は忘れていなかった。天にも昇る心地で、対応する。
宰相のラウエンシュタイン大公、エッケハルト様には友人として親しい距離にいた。そのこともご存知だったとは。周辺諸国への対応、自国内の粛清、と皇族の動きが慌ただしくなる。失礼だが、先読みするなら……すべての王国が支配下に置かれるだろう。
カリスマ性で貴族を牽引する皇帝陛下、有能な宰相閣下と元帥閣下。扇の要のように、兄達を纏めるヴィクトーリア様。すべてのカードが揃った。リヒター帝国史上、最高の布陣と評価できる。何かしら手伝わせてもらえないか、エッケハルト様に相談した直後だった。
二つ減った公爵家を一つ興す。ヴィクトーリア様が降嫁され、侯爵家から一つ陞爵される。そのお相手に選ばれた、と。
「君は最高の女性を射止めた。この幸運に溺れることなく、誠心誠意、彼女に仕えなさい」
先代皇弟殿下であった大神官ウルリヒ様は、穏やかな口調でそう命じた。普通に話す声は、逆らうことを許さぬ強さで紡がれる。ああ、この方はヴィクトーリア様を大切に想っているのだ。そう感じた。家族の情が強いことで知られた皇族の繋がりに、この身が震える。
認められ、至宝を任されるに値すると示された。深く頭を下げ、敬意を払う。叔父として姪を愛し、前皇弟として帝国を憂えた。大神官の立場で祝福を与え、導こうとしておられる。
「この身に代えても、ヴィクトーリア様をお守りします」
「盾は不要です。身を挺して守るなら私にもできる。フォルトやエックもいる。夫として妻になるトリアを愛し、支え、ジルヴィアの助けになること。これがお前の役割だ」
途中で口調が崩れた。親しげに傲慢に、皇族であった名残りのように命じる。情報では知っていたが、ここまで纏う気配が違うのか。押し潰されそうな強さに負けじと、顔を上げて目を見つめ返した。
「承知いたしました。ヴィクトーリア様を最後までお守りし、死しても離れず追うことが使命と心得ます」
「トリアの強さは、支えられてこそだ。努努忘れるなよ?」
化粧直しを終えたヴィクトーリア様が戻られ、当然のように腕を組む。彼女の左腕は、叔父であるウルリヒ様に。その時、一瞬だけ崩れた表情に目を見開いた。本当に大切な宝を任せていただくのだ。わずかな粗相も許されない。
決めたつもりの覚悟を、いま一度固めた。この命を捧げ、最高の幸運を愛し抜こうと。
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