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本編
149.思ったより惚れているのね
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「まだいるぞ。あっちだ」
「門を閉鎖しろ」
騒がしくなったテラスから、大広間へ戻った。駆け寄るライフアイゼン公爵が、両手を広げて大袈裟に騒ぐ。
「まさか! ライフアイゼン公爵家の夜会で、皇妹殿下に、危害を加えようとする者がいるとは! 畏れ多いことにございます。犯人の捕獲と処罰は、我が一族の名誉と面子に懸けて、必ずやご満足いただける結果を奏上させていただく所存」
やだ、私達より演技が上手じゃない! 迫真の演技なんて言い方、こういう時に使うのかしらね。深々と頭を下げる公爵の肩に手を置いた。
「任せるわ、じぃ。私はライフアイゼン公爵家を信頼しているもの」
エック兄様の婚約者はじぃの孫娘であり、今後は親戚として深い付き合いになる。嫁いだ先の私にあれこれと世話を焼いてくれた恩も忘れていないわ。だから、獲物は譲ってあげる。
眉尻を下げて、顔を上げるよう促した。クラウスが私を包むように抱き寄せ、控えの間へ連れていく。少しもたれる形にして、衝撃が大きかったことを強調した。これで罰を通常より重くできるわ。
「ライフアイゼン公爵閣下は、とてもお上手でしたね」
「じぃは上手だけど、私達は本当に酷かったわ」
部屋に入るなり、二人で失笑する。ああいったセリフはもっとスラスラ出てこないとダメね。社交界で周囲を振り回していた頃は、それなりに演じていたのに。ブランクかしら? こてりと首を傾げ、お茶を淹れるクラウスの手元を見つめた。
丁寧にポットを温め、注いでいく。茶葉が広がったのか、ふわりと良い香りがした。花茶の赤みたい。
「白ではなく赤ですが」
意味ありげに出され、口をつけた。クラウスは小さな紙を差し出す。いつもの報告書に比べたら、半分の半分、かなり小さな紙だ。そこに先ほどの伯爵を含む数人の名前が並んでいた。さらに名前の後ろは罪状、数字は被害者の数でしょう。
二人きりなのだから、はっきり言葉にしてもいい。それなのに隠語を使うクラウスを咎めたくなかった。なんだか親密な感じがするわ。
「次は白をご用意します」
「そうね、お願いするわ」
座った長椅子の隣を示し、座るよう促す。素直に腰を下ろしたクラウスは、心配そうに眉根を寄せて私の頬に触れた。包むように右手を添わせ、大きく息を吐く。
「あなた様にケガがなくてよかった。強さを知っていても心配になります」
「……ケガはないけれど、少し寒いわね」
「失礼いたします」
誘う私に目を見開いたクラウスは、柔らかく微笑んだ。控えの間は、高位貴族の休憩用に用意されている。皇族である私が使用していたら、それ以下の貴族は別の部屋に案内されるの。だから安心して身を任せられた。
抱き寄せるクラウスの腕に包まれ、ほっと息を吐き出す。自分で言い出した罠だけれど、やっぱり嫌なものね。恐怖というより嫌悪感が近かった。あのような下種な考えを持つ輩に、触れさせてしまった。布越しとはいえ、気分は悪い。
上書きするようにクラウスの腕に寄り添い、顔上を見上げる。視線が絡み……唇が薄く開いた。紅を引き直せばよかった、と私が思うなんて。当初の予想以上に、クラウスに惚れているんだわ。
「っ! トリア、その……すみません」
がちゃと扉の音がした直後、謝罪が飛んできた。長椅子の背で半分以上隠れていても、私達が触れあっているのはわかる。エック兄様は心底申し訳なさそうに、肩を落としていた。視線も逸らしているけれど、隣のコルネリアは違った。
「素敵!」
感激したように言葉が零れ、慌てて口を押えている。愛らしい未来の義姉を前に、私はくすくすと笑いだした。お兄様達をすっかり忘れていたわ。もう終わった気になって、ボロを出すなんて……今回の獲物と変わらないじゃない。
恋は人を愚かにすると聞いたけれど、こういう意味なのかも。
「門を閉鎖しろ」
騒がしくなったテラスから、大広間へ戻った。駆け寄るライフアイゼン公爵が、両手を広げて大袈裟に騒ぐ。
「まさか! ライフアイゼン公爵家の夜会で、皇妹殿下に、危害を加えようとする者がいるとは! 畏れ多いことにございます。犯人の捕獲と処罰は、我が一族の名誉と面子に懸けて、必ずやご満足いただける結果を奏上させていただく所存」
やだ、私達より演技が上手じゃない! 迫真の演技なんて言い方、こういう時に使うのかしらね。深々と頭を下げる公爵の肩に手を置いた。
「任せるわ、じぃ。私はライフアイゼン公爵家を信頼しているもの」
エック兄様の婚約者はじぃの孫娘であり、今後は親戚として深い付き合いになる。嫁いだ先の私にあれこれと世話を焼いてくれた恩も忘れていないわ。だから、獲物は譲ってあげる。
眉尻を下げて、顔を上げるよう促した。クラウスが私を包むように抱き寄せ、控えの間へ連れていく。少しもたれる形にして、衝撃が大きかったことを強調した。これで罰を通常より重くできるわ。
「ライフアイゼン公爵閣下は、とてもお上手でしたね」
「じぃは上手だけど、私達は本当に酷かったわ」
部屋に入るなり、二人で失笑する。ああいったセリフはもっとスラスラ出てこないとダメね。社交界で周囲を振り回していた頃は、それなりに演じていたのに。ブランクかしら? こてりと首を傾げ、お茶を淹れるクラウスの手元を見つめた。
丁寧にポットを温め、注いでいく。茶葉が広がったのか、ふわりと良い香りがした。花茶の赤みたい。
「白ではなく赤ですが」
意味ありげに出され、口をつけた。クラウスは小さな紙を差し出す。いつもの報告書に比べたら、半分の半分、かなり小さな紙だ。そこに先ほどの伯爵を含む数人の名前が並んでいた。さらに名前の後ろは罪状、数字は被害者の数でしょう。
二人きりなのだから、はっきり言葉にしてもいい。それなのに隠語を使うクラウスを咎めたくなかった。なんだか親密な感じがするわ。
「次は白をご用意します」
「そうね、お願いするわ」
座った長椅子の隣を示し、座るよう促す。素直に腰を下ろしたクラウスは、心配そうに眉根を寄せて私の頬に触れた。包むように右手を添わせ、大きく息を吐く。
「あなた様にケガがなくてよかった。強さを知っていても心配になります」
「……ケガはないけれど、少し寒いわね」
「失礼いたします」
誘う私に目を見開いたクラウスは、柔らかく微笑んだ。控えの間は、高位貴族の休憩用に用意されている。皇族である私が使用していたら、それ以下の貴族は別の部屋に案内されるの。だから安心して身を任せられた。
抱き寄せるクラウスの腕に包まれ、ほっと息を吐き出す。自分で言い出した罠だけれど、やっぱり嫌なものね。恐怖というより嫌悪感が近かった。あのような下種な考えを持つ輩に、触れさせてしまった。布越しとはいえ、気分は悪い。
上書きするようにクラウスの腕に寄り添い、顔上を見上げる。視線が絡み……唇が薄く開いた。紅を引き直せばよかった、と私が思うなんて。当初の予想以上に、クラウスに惚れているんだわ。
「っ! トリア、その……すみません」
がちゃと扉の音がした直後、謝罪が飛んできた。長椅子の背で半分以上隠れていても、私達が触れあっているのはわかる。エック兄様は心底申し訳なさそうに、肩を落としていた。視線も逸らしているけれど、隣のコルネリアは違った。
「素敵!」
感激したように言葉が零れ、慌てて口を押えている。愛らしい未来の義姉を前に、私はくすくすと笑いだした。お兄様達をすっかり忘れていたわ。もう終わった気になって、ボロを出すなんて……今回の獲物と変わらないじゃない。
恋は人を愚かにすると聞いたけれど、こういう意味なのかも。
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