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本編
178.熟して落ちるのを待つ果実
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この大陸には、リヒター帝国の周囲に七つの王国がある。以前に私が嫁いだアディソン王国は、帝国に吸収されてアディソン領となった。ブリュート王国も、エック兄様の経済封鎖を受けてブリュート領になり、帝国の一部となっている。
敵対したデーンズ王国は、一時的にクレーベ公爵が王位を継いだ。神々の罰として雷が落ちたと騒ぎになったから、先代デーンズ王の権威は地に落ちたわね。数十年は身動きできないでしょう。その間に周囲から圧し潰すつもりだった。
アルホフ王国は離反したが、現時点で中立を保っている。王を殺され代替わりしてから、新たな王は動きを見せなかった。賢いのか、臆病なのか。どちらでも結末は一緒ね。
エック兄様の執務室で大陸の地図を広げ、ペンを手に取った。
手元の地図にバツ印を付けていく。見守るエック兄様が、プロイス王国に疑問符を付けた。ルヴィ兄様の妻として王女を差し出そうとした国だけれど、問題がありすぎて断ったわね。あの国と繋がる必要も、政略結婚をする意味も消えたから。
無言で、私は疑問符をバツで消した。
「随分辛辣ですね」
「そうかしら、私にとっては普通よ?」
いずれ取り込む予定だもの。猶予を与える必要はないわ。内側から崩壊するように、事前に手を打てばいいだけよ。すでに、いくつかの貴族家がプロイス王国と縁組している。私が指示した通り、内部から食い荒らすために。
イエンチュ王国は……手出ししないのが正解ね。彼らは国という形を取っているけれど、部族の集合体だった。一つずつ潰すのは労力がかかるわ。何より、彼らは国という形にこだわらない。ガブリエラ様やアデリナの実家もあるのだから、懐柔策で大丈夫ね。
彼らの領土と権利を侵害せず、無理な義務を課さなければいいの。すべてを担保したうえで、頭の部分を帝国に挿げ替える。自分達の王は勝手に決めていいと言えば、今までと同じだった。外交や貿易も、それぞれの部族が行っているんだから、問題は起きない。
一番扱いが難しいのは、同盟国のシュナイト王国ね。帝国に敵対することなく、従順だった。だからこそ手が出せない。向こうに過失がないのに、帝国に吸収できないわ。一世代待てば状況が変化するなら、ぎりぎりまで猶予するけれど。
イエンチュ王国に丸を付けて、私の手が止まった。エック兄様が口角を持ち上げる。視線で促せば、指先がすっと動いた。
「ブリュートとイエンチュ、それから帝国……シュナイトは三つの国と国境を接していました。野心を見せるブリュートとは手を組めません。イエンチュと戦っても勝利は望めませんでした。となれば、我が帝国と同盟関係になり、守ってもらうのが一番の安全策です」
すでにわかっている内容を、わざわざ口にする兄の思惑が読めなかった。首を傾げて、もう一度地図を眺める。
「イエンチュは変わりませんが、ブリュートに抜けられる……そう考えるのでは?」
「でも帝国の領地に……っ!」
反論しかけて気づいた。同盟国の領地だから通れると、シュナイト王国は勝手に思い込む。自治領の形を取っているけれど、彼らはそれを知らない。
「ブリュート領を、いずれ襲うと?」
「可能性の話です。もちろん、情報からの推測ではありますが」
シュナイト王国を帝国の領地にする算段が立ちそうね。私達が仕掛けなくても勝手に向こうが動く。そうなれば、いくらでも手が打てるわ。腐った果実だろうと、獲物は獲物よ。
「どの国も落下寸前の果実です。我々はただ落ちるのを待てばいいでしょう」
これ以上策略は不要、エック兄様は宰相としてそう決断した。ルヴィ兄様の代か、次のジルヴィアの世代か。どちらにしろ、リヒター帝国は大陸統一を成し遂げるはず。私は静かにペンを置き、地図を畳んだ。手に落ちてくる果実を得るまで、私は自分の幸せを追うことにしましょう。
呟いた気持ちに、エック兄様は「今度こそ」と重ねた。
敵対したデーンズ王国は、一時的にクレーベ公爵が王位を継いだ。神々の罰として雷が落ちたと騒ぎになったから、先代デーンズ王の権威は地に落ちたわね。数十年は身動きできないでしょう。その間に周囲から圧し潰すつもりだった。
アルホフ王国は離反したが、現時点で中立を保っている。王を殺され代替わりしてから、新たな王は動きを見せなかった。賢いのか、臆病なのか。どちらでも結末は一緒ね。
エック兄様の執務室で大陸の地図を広げ、ペンを手に取った。
手元の地図にバツ印を付けていく。見守るエック兄様が、プロイス王国に疑問符を付けた。ルヴィ兄様の妻として王女を差し出そうとした国だけれど、問題がありすぎて断ったわね。あの国と繋がる必要も、政略結婚をする意味も消えたから。
無言で、私は疑問符をバツで消した。
「随分辛辣ですね」
「そうかしら、私にとっては普通よ?」
いずれ取り込む予定だもの。猶予を与える必要はないわ。内側から崩壊するように、事前に手を打てばいいだけよ。すでに、いくつかの貴族家がプロイス王国と縁組している。私が指示した通り、内部から食い荒らすために。
イエンチュ王国は……手出ししないのが正解ね。彼らは国という形を取っているけれど、部族の集合体だった。一つずつ潰すのは労力がかかるわ。何より、彼らは国という形にこだわらない。ガブリエラ様やアデリナの実家もあるのだから、懐柔策で大丈夫ね。
彼らの領土と権利を侵害せず、無理な義務を課さなければいいの。すべてを担保したうえで、頭の部分を帝国に挿げ替える。自分達の王は勝手に決めていいと言えば、今までと同じだった。外交や貿易も、それぞれの部族が行っているんだから、問題は起きない。
一番扱いが難しいのは、同盟国のシュナイト王国ね。帝国に敵対することなく、従順だった。だからこそ手が出せない。向こうに過失がないのに、帝国に吸収できないわ。一世代待てば状況が変化するなら、ぎりぎりまで猶予するけれど。
イエンチュ王国に丸を付けて、私の手が止まった。エック兄様が口角を持ち上げる。視線で促せば、指先がすっと動いた。
「ブリュートとイエンチュ、それから帝国……シュナイトは三つの国と国境を接していました。野心を見せるブリュートとは手を組めません。イエンチュと戦っても勝利は望めませんでした。となれば、我が帝国と同盟関係になり、守ってもらうのが一番の安全策です」
すでにわかっている内容を、わざわざ口にする兄の思惑が読めなかった。首を傾げて、もう一度地図を眺める。
「イエンチュは変わりませんが、ブリュートに抜けられる……そう考えるのでは?」
「でも帝国の領地に……っ!」
反論しかけて気づいた。同盟国の領地だから通れると、シュナイト王国は勝手に思い込む。自治領の形を取っているけれど、彼らはそれを知らない。
「ブリュート領を、いずれ襲うと?」
「可能性の話です。もちろん、情報からの推測ではありますが」
シュナイト王国を帝国の領地にする算段が立ちそうね。私達が仕掛けなくても勝手に向こうが動く。そうなれば、いくらでも手が打てるわ。腐った果実だろうと、獲物は獲物よ。
「どの国も落下寸前の果実です。我々はただ落ちるのを待てばいいでしょう」
これ以上策略は不要、エック兄様は宰相としてそう決断した。ルヴィ兄様の代か、次のジルヴィアの世代か。どちらにしろ、リヒター帝国は大陸統一を成し遂げるはず。私は静かにペンを置き、地図を畳んだ。手に落ちてくる果実を得るまで、私は自分の幸せを追うことにしましょう。
呟いた気持ちに、エック兄様は「今度こそ」と重ねた。
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