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本編
11.足元を固めて誘導するの
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モーリスを殺さないよう、フォルト兄様に伝えないと……最後にそう締め括った私に、エック兄様は肩を竦めた。
「もう連絡しました。フォルトは直情的ですからね」
「助かるわ、エック兄様」
本人がここにいたら「ひどい」と泣き出しそうな会話をして、イングリットの手を解く。興味を惹きそうな扇の房飾りを揺らし、そちらを掴んだ隙にエック兄様は立ち上がった。イングリットはご機嫌で、新しい房飾りを口元へ運ぶ。
「あらあら」
飾りの中に小さな宝石が含まれるため、飲み込んだら危険だわ。立ち上がったら、抱いている私の髪を一房口に入れる。こちらなら洗えばいいから、問題ないわね。イングリットを抱く可能性があるので、香油も使っていない。
「赤子はなんでも口に入れると聞きましたが、本当ですね」
「ええ。ルヴィ兄様もそろそろご結婚だったわね」
「……ごねています」
「なぜ?」
本心から驚いた。フォルト兄様を除いて、二人とも婚約者がいる。ルヴィ兄様は隣国プロイス王国の姫君と、エック兄様はライフアイゼン公爵令嬢だったわね。どちらも仲が良かったと記憶している。
「内容は兄上に聞いてください」
とても言えないと逃げられた。食事の時にでも聞いてみましょう。ベビーベッドに運んだイングリットは、まだ髪を握ったまま。隣室のアンナを呼び、彼女に預けた。人形で気を引いて、そちらを渡す。顔のない人形は、赤子が噛んだり吸い付いても平気なよう、装飾がなかった。
あぶぅ……口元をベタベタに濡らした我が子は、ご機嫌で人形に噛み付く。確かに装飾は危険ね。私にそっくりの銀髪を撫でて、丸い青瞳に微笑みかけた。
「いい子にしてるのよ、イングリット」
子供部屋を離れ、宮殿内を足早に移動する。最大勢力である神殿は味方につけた。偶然だけれど、スチュアート公爵も手に入った。となれば、次は足元を固めるのが定石ね。
貴族達を、味方につける必要がある。噂を流し、獲物を狩り出し、民意を誘導する。こういうのは、お母様が得意だったわ。奥にある特別区域から出て、開放された宮殿の広間へ向かった。そこならば、贄になる貴族がいるでしょう。
途中で侍女に命じて扇を交換し、やや重いそれを優雅に広げる。絵柄も房の色も違う扇は、私のお気に入りだった。この意味を知る貴族は、近づいてこないでしょうね。
広い廊下を進み、広間の入り口を守る騎士が一礼して扉を開く。ぐるりと見回し、扇を広げた。カメリアの花が咲き誇る扇の柄に、数人が顔色を変えて目を逸らす。あの辺は以前、やり合ったわね。獲物を探すように、広げた扇で顔の下半分を隠して目を細める。
「スチュアート公爵夫人、お戻りでしたか」
嫌味な口調で慇懃無礼に振る舞う男に、私は扇の陰で口角を持ち上げた。引っかかったわ。愚かな獲物、アディソン王国と通じる生け贄よ。
「アルムガルト……子爵だったかしら?」
アルムガルト伯爵に、わざと爵位を下げて声をかける。むっとした顔で訂正する彼に、鷹揚に頷きながら笑みを深めた。間違えたのではなくてよ? だって、あなたは犯した失態の責任をとって、降爵されるんですもの。
「もう連絡しました。フォルトは直情的ですからね」
「助かるわ、エック兄様」
本人がここにいたら「ひどい」と泣き出しそうな会話をして、イングリットの手を解く。興味を惹きそうな扇の房飾りを揺らし、そちらを掴んだ隙にエック兄様は立ち上がった。イングリットはご機嫌で、新しい房飾りを口元へ運ぶ。
「あらあら」
飾りの中に小さな宝石が含まれるため、飲み込んだら危険だわ。立ち上がったら、抱いている私の髪を一房口に入れる。こちらなら洗えばいいから、問題ないわね。イングリットを抱く可能性があるので、香油も使っていない。
「赤子はなんでも口に入れると聞きましたが、本当ですね」
「ええ。ルヴィ兄様もそろそろご結婚だったわね」
「……ごねています」
「なぜ?」
本心から驚いた。フォルト兄様を除いて、二人とも婚約者がいる。ルヴィ兄様は隣国プロイス王国の姫君と、エック兄様はライフアイゼン公爵令嬢だったわね。どちらも仲が良かったと記憶している。
「内容は兄上に聞いてください」
とても言えないと逃げられた。食事の時にでも聞いてみましょう。ベビーベッドに運んだイングリットは、まだ髪を握ったまま。隣室のアンナを呼び、彼女に預けた。人形で気を引いて、そちらを渡す。顔のない人形は、赤子が噛んだり吸い付いても平気なよう、装飾がなかった。
あぶぅ……口元をベタベタに濡らした我が子は、ご機嫌で人形に噛み付く。確かに装飾は危険ね。私にそっくりの銀髪を撫でて、丸い青瞳に微笑みかけた。
「いい子にしてるのよ、イングリット」
子供部屋を離れ、宮殿内を足早に移動する。最大勢力である神殿は味方につけた。偶然だけれど、スチュアート公爵も手に入った。となれば、次は足元を固めるのが定石ね。
貴族達を、味方につける必要がある。噂を流し、獲物を狩り出し、民意を誘導する。こういうのは、お母様が得意だったわ。奥にある特別区域から出て、開放された宮殿の広間へ向かった。そこならば、贄になる貴族がいるでしょう。
途中で侍女に命じて扇を交換し、やや重いそれを優雅に広げる。絵柄も房の色も違う扇は、私のお気に入りだった。この意味を知る貴族は、近づいてこないでしょうね。
広い廊下を進み、広間の入り口を守る騎士が一礼して扉を開く。ぐるりと見回し、扇を広げた。カメリアの花が咲き誇る扇の柄に、数人が顔色を変えて目を逸らす。あの辺は以前、やり合ったわね。獲物を探すように、広げた扇で顔の下半分を隠して目を細める。
「スチュアート公爵夫人、お戻りでしたか」
嫌味な口調で慇懃無礼に振る舞う男に、私は扇の陰で口角を持ち上げた。引っかかったわ。愚かな獲物、アディソン王国と通じる生け贄よ。
「アルムガルト……子爵だったかしら?」
アルムガルト伯爵に、わざと爵位を下げて声をかける。むっとした顔で訂正する彼に、鷹揚に頷きながら笑みを深めた。間違えたのではなくてよ? だって、あなたは犯した失態の責任をとって、降爵されるんですもの。
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