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本編
15.なぜバレた? ***SIDEモーリス
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あの日、屋敷に戻って驚いた。三日の出勤で二日の休み、普段通りのスケジュールだ。把握する妻ヴィクトーリアは、俺を見送ってすぐ動いたのか。残っていたのは、この屋敷の執事だけだ。侍女なども半数以上が消えており、残った使用人も紹介状が出ている。いつでも退職可能な状態だった。
「何が……」
「奥様……いえ、リヒター帝国皇妹殿下より伝言をお預かりしております。騙した罪はあなた一人で贖いきれませんよ、と」
お伝えしました。そう締め括り、執事は離職を申し出る。これを伝えるために残ったのだろう。許可を出さず呆然としている俺を置いて、踵を返した。誰もいない屋敷の部屋を順番に確認する。
誰もいない。しんと静かな屋敷は、かつてないほど広く感じられた。妻の使っていた部屋も、娘が眠った部屋も、よそよそしく冷たい。夫婦の寝室には、整えられたベッドが残っていた。ここだけは普段通りだ。俺の私物のみ残され、ベッドの上に小さな箱が置かれていた。
宝飾品を入れる黒いビロードの箱に「嘘だ」と呟きが漏れる。開けた手から箱が転がり落ちる。ベッドのシーツに落ちたのは、指輪が一つ。剣を扱うため鎖に通して首に掛けた俺と対の指輪が、カーテン越しの光を弾いた。
「なぜだ?」
バレるはずがない。国王陛下はきちんと手配したと言った。強大なリヒター帝国から人質の姫を得て、内側から食い荒らす。だからバレないよう慎重に周囲を固め、妊娠した彼女を心配するフリで閉じ込めた。社交界から隔絶し、真綿で包むように……。
俺は彼女に一目惚れした。どうしても欲しいが、俺には厄介な性質がある。大切なものをしまい込んで、こっそり愛でる。誰かに奪われないよう隠すのだ。この衝動は激しく、周囲と騒動を起こした。仲の良い友人を監禁して叱られ、気に入った物を人から奪う。すべてもみ消してきたのは腹違いの兄上だ。
兄上には何度も助けられた恩がある。剣術も執着した結果、誰より練習して上達したに過ぎなかった。厄介な存在なのに、国王になった兄上は俺を許す。そんな中、二人の利害が一致した。兄上は隣国の豊かな実りや鉱山が欲しい、俺は美しい姫君に一目惚れした。
俺は彼女を得るが、正式な婚姻はしない。これは兄上の側の事情らしい。詳しいことを理解する必要はなかった。いつだって彼は俺の味方なのだ。言われた通り彼女を娶り、婚姻届が出ていないことを隠した。
俺はヴィクトーリアを逃がしたくないから、早く身籠らせる必要がある。身重なら外出しないし、子が生まれたら忙しいはずだ。社交を休ませる理由になった。兄上も別の理由で、彼女が社交を行わないことを望んだ。婚姻届の話がどこからか耳に入らないよう、己の置かれた立場を悟らせないよう。
すべてうまく行っていた。何もかも想定通りだったのだ。どこでバレた? 何が原因だ。いや、それより……彼女を連れ戻さなくては! 慌てて手荷物を整える。遠征に出る時と同じ、旅に必要な物は分かっていた。身軽に手早く揃える。
「いってくる……、っ!」
見送る彼女の姿はない。当たり前なのに胸が痛んだ。いつもの癖で声に出し、音のない寝室を振り返る。家具の日焼け防止の布が白く……やけに目に沁みた。
「何が……」
「奥様……いえ、リヒター帝国皇妹殿下より伝言をお預かりしております。騙した罪はあなた一人で贖いきれませんよ、と」
お伝えしました。そう締め括り、執事は離職を申し出る。これを伝えるために残ったのだろう。許可を出さず呆然としている俺を置いて、踵を返した。誰もいない屋敷の部屋を順番に確認する。
誰もいない。しんと静かな屋敷は、かつてないほど広く感じられた。妻の使っていた部屋も、娘が眠った部屋も、よそよそしく冷たい。夫婦の寝室には、整えられたベッドが残っていた。ここだけは普段通りだ。俺の私物のみ残され、ベッドの上に小さな箱が置かれていた。
宝飾品を入れる黒いビロードの箱に「嘘だ」と呟きが漏れる。開けた手から箱が転がり落ちる。ベッドのシーツに落ちたのは、指輪が一つ。剣を扱うため鎖に通して首に掛けた俺と対の指輪が、カーテン越しの光を弾いた。
「なぜだ?」
バレるはずがない。国王陛下はきちんと手配したと言った。強大なリヒター帝国から人質の姫を得て、内側から食い荒らす。だからバレないよう慎重に周囲を固め、妊娠した彼女を心配するフリで閉じ込めた。社交界から隔絶し、真綿で包むように……。
俺は彼女に一目惚れした。どうしても欲しいが、俺には厄介な性質がある。大切なものをしまい込んで、こっそり愛でる。誰かに奪われないよう隠すのだ。この衝動は激しく、周囲と騒動を起こした。仲の良い友人を監禁して叱られ、気に入った物を人から奪う。すべてもみ消してきたのは腹違いの兄上だ。
兄上には何度も助けられた恩がある。剣術も執着した結果、誰より練習して上達したに過ぎなかった。厄介な存在なのに、国王になった兄上は俺を許す。そんな中、二人の利害が一致した。兄上は隣国の豊かな実りや鉱山が欲しい、俺は美しい姫君に一目惚れした。
俺は彼女を得るが、正式な婚姻はしない。これは兄上の側の事情らしい。詳しいことを理解する必要はなかった。いつだって彼は俺の味方なのだ。言われた通り彼女を娶り、婚姻届が出ていないことを隠した。
俺はヴィクトーリアを逃がしたくないから、早く身籠らせる必要がある。身重なら外出しないし、子が生まれたら忙しいはずだ。社交を休ませる理由になった。兄上も別の理由で、彼女が社交を行わないことを望んだ。婚姻届の話がどこからか耳に入らないよう、己の置かれた立場を悟らせないよう。
すべてうまく行っていた。何もかも想定通りだったのだ。どこでバレた? 何が原因だ。いや、それより……彼女を連れ戻さなくては! 慌てて手荷物を整える。遠征に出る時と同じ、旅に必要な物は分かっていた。身軽に手早く揃える。
「いってくる……、っ!」
見送る彼女の姿はない。当たり前なのに胸が痛んだ。いつもの癖で声に出し、音のない寝室を振り返る。家具の日焼け防止の布が白く……やけに目に沁みた。
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