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本編
17.この程度か ***SIDEフォルクハルト
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野獣のごとき形相で飛び掛かる男の剣を、一つ、二つと捌く。その度に苛立ちが募った。重さはあるがキレも技もない。ただ勢いだけの剣技で、アディソン王国の騎士団長だと?
王の異母弟とやらは、かなり甘やかされた存在のようだ。可愛い妹ヴィクトーリアを娶る男を調べた際、アディソン王国一の剣技の持ち主と聞いた。少なくとも騎士団長の肩書きに嘘はないだろう、と。それがこの程度か。
我が国の騎士なら、当然もっと腕を磨いている。よほど兄王に忖度した騎士ばかりの国らしい。戦争を仕掛けても十分勝てるが……トリアが嫌がるんだよな。滅ぼすことより、すぐに楽にすることや民を巻き込む方法が嫌いらしい。
考え事をしながら弾いていたら、つい剣を絡めて奪ってしまった。手首を捻ったのか、悔しそうな顔で呻いている。取り上げた剣は空に舞い、部下の一人が難なく受け止めた。
「さて、負けた代償を払ってもらおうか」
にやりと悪い笑みで近づき、後ずさる見苦しい姿に肩を落とす。そこは潔く応じるくらいの器量が欲しかった。少なくとも、たとえ忖度の結果であろうと、国一番を自称する男だろうが。
怒鳴りつけたい気持ちを呑み込み、次兄の忠告を思い出す。エック兄は、絶対に殺さないよう言い含めた。もし無視して暴走すれば、怒ったトリアに嫌われるとも。可愛い妹に無能扱いされたら、本気で泣く。
「おい、いつもの手順で隔離しろ」
俺より悪い顔で笑った副官が、指示を出す。騎士が一斉に動いた。統率が取れた騎士達は、国境の砦を守る。国のため一番に命を捧げる覚悟と、見合う実力を認められた者だった。中途半端な騎士崩れの男を、相応に扱っていいと告げれば、誰もが口角を引き上げた。
誇りもなく、覚悟も実力も足りない。多少剣を振り回す能力はあっても、全く使えない。これなら、国境の門番の方が腕は立つだろう。様々な連中相手に実戦を積んだ兵士と比べるのは、彼らに失礼だったな。
「何をする、やめろっ! 俺はアディソン王国の……騎士団長……」
声が遠くなり、塔の石扉に阻まれて聞こえなくなる。石造りの砦の扉は、基本的に木製だ。その中で、罪人を管理する塔だけが石扉だった。外から開いても、中からは動かない。特殊な仕掛けの扉が閉ざされた。
「あの阿呆が、本当に騎士団長なのですか? 我らが姫君の夫だった、など……」
「安心しろ。夫じゃないそうだ。未婚で戻った」
事務仕事や難しい手配を一手に引き受ける副官ハイノは、目を閉じて額を手で覆った。しばらく唸ってから、特大の溜め息を吐く。詳しく話さなくても事情を察してくれる賢い奴だ。
「つまり、戦争の準備ですね?」
「戦わずに真綿で絞めるとか、誰かの首を吊るとか、そんな話をしてたぞ」
エック兄上とトリアの話は、いつも難しい。聞き齧った単語を並べたら、ハイノが青ざめた。わかるぞ、あの二人の作戦は心を折りにくるからな。俺だってごめんだ。
「聞かなかったことにします」
そう言って逃げる副官の鍛えた背中を見ながら、ちょっとだけ羨ましく思った。まあ、トリアの兄という立場が、すべてをプラスにしてくれるけどな。
王の異母弟とやらは、かなり甘やかされた存在のようだ。可愛い妹ヴィクトーリアを娶る男を調べた際、アディソン王国一の剣技の持ち主と聞いた。少なくとも騎士団長の肩書きに嘘はないだろう、と。それがこの程度か。
我が国の騎士なら、当然もっと腕を磨いている。よほど兄王に忖度した騎士ばかりの国らしい。戦争を仕掛けても十分勝てるが……トリアが嫌がるんだよな。滅ぼすことより、すぐに楽にすることや民を巻き込む方法が嫌いらしい。
考え事をしながら弾いていたら、つい剣を絡めて奪ってしまった。手首を捻ったのか、悔しそうな顔で呻いている。取り上げた剣は空に舞い、部下の一人が難なく受け止めた。
「さて、負けた代償を払ってもらおうか」
にやりと悪い笑みで近づき、後ずさる見苦しい姿に肩を落とす。そこは潔く応じるくらいの器量が欲しかった。少なくとも、たとえ忖度の結果であろうと、国一番を自称する男だろうが。
怒鳴りつけたい気持ちを呑み込み、次兄の忠告を思い出す。エック兄は、絶対に殺さないよう言い含めた。もし無視して暴走すれば、怒ったトリアに嫌われるとも。可愛い妹に無能扱いされたら、本気で泣く。
「おい、いつもの手順で隔離しろ」
俺より悪い顔で笑った副官が、指示を出す。騎士が一斉に動いた。統率が取れた騎士達は、国境の砦を守る。国のため一番に命を捧げる覚悟と、見合う実力を認められた者だった。中途半端な騎士崩れの男を、相応に扱っていいと告げれば、誰もが口角を引き上げた。
誇りもなく、覚悟も実力も足りない。多少剣を振り回す能力はあっても、全く使えない。これなら、国境の門番の方が腕は立つだろう。様々な連中相手に実戦を積んだ兵士と比べるのは、彼らに失礼だったな。
「何をする、やめろっ! 俺はアディソン王国の……騎士団長……」
声が遠くなり、塔の石扉に阻まれて聞こえなくなる。石造りの砦の扉は、基本的に木製だ。その中で、罪人を管理する塔だけが石扉だった。外から開いても、中からは動かない。特殊な仕掛けの扉が閉ざされた。
「あの阿呆が、本当に騎士団長なのですか? 我らが姫君の夫だった、など……」
「安心しろ。夫じゃないそうだ。未婚で戻った」
事務仕事や難しい手配を一手に引き受ける副官ハイノは、目を閉じて額を手で覆った。しばらく唸ってから、特大の溜め息を吐く。詳しく話さなくても事情を察してくれる賢い奴だ。
「つまり、戦争の準備ですね?」
「戦わずに真綿で絞めるとか、誰かの首を吊るとか、そんな話をしてたぞ」
エック兄上とトリアの話は、いつも難しい。聞き齧った単語を並べたら、ハイノが青ざめた。わかるぞ、あの二人の作戦は心を折りにくるからな。俺だってごめんだ。
「聞かなかったことにします」
そう言って逃げる副官の鍛えた背中を見ながら、ちょっとだけ羨ましく思った。まあ、トリアの兄という立場が、すべてをプラスにしてくれるけどな。
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