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本編
20.約束を果たそう ***SIDEエッケハルト
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可愛い末姫ヴィクトーリアは、僕達にとって大切な存在だ。役に立ちたいと言われなければ、彼女を国外へ出す選択はなかった。少なくとも、トリアに説得されるまで、僕はあの婚姻に反対した。根負けしたあの日の僕を、殴り倒したいと思うくらいには、後悔が胸を満たしている。
カリスマ性と人誑しの兄、野生の勘と武力に優れた弟。間に挟まれた僕の取り柄は、策略に長けていること。知力はあるが、それ以外の部分では兄弟に劣る。優秀な人を魅了し引き抜くことも、圧倒的な武力で敵を捩じ伏せることも、僕には不可能だった。
僕達の能力をバランス良く兼ね備え、美しい外見まで持つ妹トリアは、政略で隣国へ嫁ぐと決めた。その決断は説得で覆せず……僕は一つの約束を提示した。ようやく条件を満たし、その約束が発動する。
「愚か者で助かりました」
肩を竦めて賛否を避ける兄上は、ワイングラスを傾ける。執務室では酒を飲まない彼は、僕の私室でゆったりと足を組み直した。
「先は見えていたと思う。あの男には食指が動かなかったから」
私が興味を持てない男に、トリアの夫が務まるはずはない。そういえば、兄上もトリアの結婚に反対していたか。いや……考えれば三人が全員反対していたのだ。国のためと押し切る彼女に弱い僕達は、最後はトリアの意思を尊重した。その結果がこれなら、国を挙げて名誉の回復を行うのみ。
「もう手を打ったんだろう?」
「当然です。即日、各国へ使者を出しました」
すでにいくつかは返答があった。属国はすべて、我がリヒター帝国を支持すると表明している。ただ……厄介な国が無言を貫いていた。どうやらこの件に関わっているらしい。地図を広げ、兄上の酒のつまみが載った皿で丸まるのを防いだ。中に盛られたナッツとチーズを、彼の指先が摘まんで並べる。
「ここが怪しい、だろ?」
知っているぞ、そんな顔で兄上が笑う。ワイングラスの赤を飲み干し、隣の瓶を手に取った。今度は白を注ぐのか。グラスを交換しなさいと注意して、飲まなかった自分の白ワインを差し出す。
「おお、飲まないのか」
真剣に策を練っているときに酒を飲むのは、兄上くらいです。文句を言えば、悪いと言いながらも大笑いする。絡み酒ではないだけマシだった。
「この国は落としましたよ」
チーズが置かれた国を示す。内部崩壊させたブリュート王国を示すチーズを、兄上は摘まんで食べてしまった。続いてプロイス王国のナッツを口に放り込む。残っているのは、まだ返答のない三つの王国だった。
無能を自称する兄だが、人の才能を見極め口説き落とす術に長けている。そのため皇宮内は兄上の箱庭だった。連れ帰った者は、漏れなく皇帝に忠誠を誓う。使者の持ち帰った返答を知っているのも、そのせいだろう。腹立たしさや苛立ちはなかった。
それぞれが得意な分野を利用して、互いの才能を活かしている。その中心に立つのが、妹ヴィクトーリアだった。あの子が口にすれば、全員が協力して結果を捧げる。仲の良い兄弟を彼女が望むから、そのように振る舞っているのだ。
「アディソン王国には、そもそも使者など出していません」
アディソン王国から見て東側が我が帝国、反対の西側にあるデーンズ王国は返答がない。リヒター帝国に匹敵する大きな領土を持つ国だった。国交はあるが、ほぼ繋がりがない。間に挟まるアディソン王国は、小さな楕円で描かれていた。その上に空のワイングラスを載せる。
「黒幕の可能性がありますね」
「私と意見が一致したな」
兄は飲み干した白ワインのグラスを、デーンズ王国の上に置いた。付き合いがない相手は読みづらいが、落とすに問題はない。夜が白々と明けるまで、兄上と戦盤に似た策略を重ねた。
カリスマ性と人誑しの兄、野生の勘と武力に優れた弟。間に挟まれた僕の取り柄は、策略に長けていること。知力はあるが、それ以外の部分では兄弟に劣る。優秀な人を魅了し引き抜くことも、圧倒的な武力で敵を捩じ伏せることも、僕には不可能だった。
僕達の能力をバランス良く兼ね備え、美しい外見まで持つ妹トリアは、政略で隣国へ嫁ぐと決めた。その決断は説得で覆せず……僕は一つの約束を提示した。ようやく条件を満たし、その約束が発動する。
「愚か者で助かりました」
肩を竦めて賛否を避ける兄上は、ワイングラスを傾ける。執務室では酒を飲まない彼は、僕の私室でゆったりと足を組み直した。
「先は見えていたと思う。あの男には食指が動かなかったから」
私が興味を持てない男に、トリアの夫が務まるはずはない。そういえば、兄上もトリアの結婚に反対していたか。いや……考えれば三人が全員反対していたのだ。国のためと押し切る彼女に弱い僕達は、最後はトリアの意思を尊重した。その結果がこれなら、国を挙げて名誉の回復を行うのみ。
「もう手を打ったんだろう?」
「当然です。即日、各国へ使者を出しました」
すでにいくつかは返答があった。属国はすべて、我がリヒター帝国を支持すると表明している。ただ……厄介な国が無言を貫いていた。どうやらこの件に関わっているらしい。地図を広げ、兄上の酒のつまみが載った皿で丸まるのを防いだ。中に盛られたナッツとチーズを、彼の指先が摘まんで並べる。
「ここが怪しい、だろ?」
知っているぞ、そんな顔で兄上が笑う。ワイングラスの赤を飲み干し、隣の瓶を手に取った。今度は白を注ぐのか。グラスを交換しなさいと注意して、飲まなかった自分の白ワインを差し出す。
「おお、飲まないのか」
真剣に策を練っているときに酒を飲むのは、兄上くらいです。文句を言えば、悪いと言いながらも大笑いする。絡み酒ではないだけマシだった。
「この国は落としましたよ」
チーズが置かれた国を示す。内部崩壊させたブリュート王国を示すチーズを、兄上は摘まんで食べてしまった。続いてプロイス王国のナッツを口に放り込む。残っているのは、まだ返答のない三つの王国だった。
無能を自称する兄だが、人の才能を見極め口説き落とす術に長けている。そのため皇宮内は兄上の箱庭だった。連れ帰った者は、漏れなく皇帝に忠誠を誓う。使者の持ち帰った返答を知っているのも、そのせいだろう。腹立たしさや苛立ちはなかった。
それぞれが得意な分野を利用して、互いの才能を活かしている。その中心に立つのが、妹ヴィクトーリアだった。あの子が口にすれば、全員が協力して結果を捧げる。仲の良い兄弟を彼女が望むから、そのように振る舞っているのだ。
「アディソン王国には、そもそも使者など出していません」
アディソン王国から見て東側が我が帝国、反対の西側にあるデーンズ王国は返答がない。リヒター帝国に匹敵する大きな領土を持つ国だった。国交はあるが、ほぼ繋がりがない。間に挟まるアディソン王国は、小さな楕円で描かれていた。その上に空のワイングラスを載せる。
「黒幕の可能性がありますね」
「私と意見が一致したな」
兄は飲み干した白ワインのグラスを、デーンズ王国の上に置いた。付き合いがない相手は読みづらいが、落とすに問題はない。夜が白々と明けるまで、兄上と戦盤に似た策略を重ねた。
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