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本編
36.容赦はしなくてよ?
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叔父様にも報告しないといけないわ。仲間外れにしたと拗ねそうだもの。私を可愛がる叔父様に会うため、先触れを出して神殿へ向かった。食事をご一緒するチャンスが二度も潰れたので、今日は神殿で同席する予定よ。それも伝えておいた。
クラウスはまだ早い。公表するまで、二人だけで行動するのは避けたほうがいいわ。イングリットはよく寝ていたので、置いてきた。身軽な私は、馬車の窓から見える人物に声をかけた。
「フォルト兄様、昼食はご一緒なさる?」
「残念だが、あちこちに顔を見せる必要があるんだ。またにしよう、と叔父上に伝えてくれ」
「わかったわ。気をつけてね」
私を送った足で、様々な部署に顔出しするらしい。元帥は軍部のトップであり、武力の頂点でもあった。一時的であれ倒れた話が広まれば、足を引っ張ろうとする愚者が現れるものよ。それを一蹴するため、軍や騎士団を回る。
ハイノが予定を組んで準備したなら、しっかりと回ってきてほしいわ。帰り道の護衛は、神殿で手配が必要ね。神殿にも武力は存在した。戦いと力の神がいるんですもの。当然、武力は肯定されてきた。神殿騎士団もある。彼らに護衛をお願いするとしましょう。
揺れる馬車が止まり、フォルト兄様の手を借りて下りる。別れの挨拶をしたら、叔父様の手を取った。
「フォルト兄様、無理はなさらないでね」
「もう平気だ。神々のご加護に感謝する」
大神官である叔父様に一礼し、馬に乗って颯爽と去っていく。この姿だけなら、立派な皇子殿下で大公閣下なのに。
「エーデルシュタイン大公閣下は、相変わらずですね。お元気そうで安心いたしました」
「大神官様の祈祷のおかげですわ」
茶番のような会話を楽しみながら、人目を意識して歩いた。皇族と神殿の仲の良さをアピールするのも、政治的に有効な手段よ。神官の中には、他国から派遣された者も多い。貴族家出身者は、どうしても実家の影響を受けるから。間者のような振る舞いは当たり前だった。
「婚約が決まるとお伺いしました」
「あら、耳が早いのですね。ローヴァイン侯爵クラウス殿と、婚約が整いました。神々へのご報告とお礼に参りましたのよ」
「それはそれは。おめでとうございます。神々もお喜びになるでしょう」
扉を閉めて、顔を見合わせる。ここまで情報を流せば、敵も慌てて動くはず。くすくすと笑い合い、腕を組んで仲良くソファーに腰掛けた。レースのカーテン越しの日差しが、明るく室内を照らす。
「どう出るかしら」
「あの連中のやることだ、トリアとエックには敵うまい。義姉上から聞いたが、本当にいいのか?」
「クラウスのこと? 私が選んだのよ。外見、年齢、人格、家庭事情、家格……全てにおいて満足しているわ」
「トリアが望むなら、どんな男でも手に入るだろう。あと二十歳若ければ、立候補したが」
「あら、叔父様が? 素敵ね」
お茶の道具が揃っているので、久しぶりに淹れてみた。少し渋いかしら。
「渋いわね」
「ああ、こっちの缶を開けたのか。差し入れだが、何か入っている。もう飲むのはやめなさい」
さっとカップを片付けられてしまう。綺麗な装飾の施された缶を開けたのは、失敗だったみたい。隣の艶なしの黒い缶を手に取り、叔父様はお湯でしっかり時間をかけて抽出した。美しい色の花茶に口をつける。
「美味しい」
「トリアが来るなら、最高のお茶を用意しないと失礼だからな」
「先ほどのお茶、どなたからの差し入れですの?」
話題を逸らそうとする叔父様に、私は微笑んで疑問を提示する。話を戻されたことで、叔父様は渋い顔をした。眉根を寄せてしばらく黙った後、根負けして答えてくれる。
「兄上の名を騙った……ある神官だ。出身はデーンズ王国だった」
にこりと笑い、話はそこで終わり。そう、やはりデーンズ王国が絡んでいるのね。叔父様にまで手を伸ばすなんて、愚かなこと。リヒテンシュタイン皇族と敵対する意思表示なら、受けて立ちましょう。地図だけでなく歴史からも消し去ってあげるわ。
クラウスはまだ早い。公表するまで、二人だけで行動するのは避けたほうがいいわ。イングリットはよく寝ていたので、置いてきた。身軽な私は、馬車の窓から見える人物に声をかけた。
「フォルト兄様、昼食はご一緒なさる?」
「残念だが、あちこちに顔を見せる必要があるんだ。またにしよう、と叔父上に伝えてくれ」
「わかったわ。気をつけてね」
私を送った足で、様々な部署に顔出しするらしい。元帥は軍部のトップであり、武力の頂点でもあった。一時的であれ倒れた話が広まれば、足を引っ張ろうとする愚者が現れるものよ。それを一蹴するため、軍や騎士団を回る。
ハイノが予定を組んで準備したなら、しっかりと回ってきてほしいわ。帰り道の護衛は、神殿で手配が必要ね。神殿にも武力は存在した。戦いと力の神がいるんですもの。当然、武力は肯定されてきた。神殿騎士団もある。彼らに護衛をお願いするとしましょう。
揺れる馬車が止まり、フォルト兄様の手を借りて下りる。別れの挨拶をしたら、叔父様の手を取った。
「フォルト兄様、無理はなさらないでね」
「もう平気だ。神々のご加護に感謝する」
大神官である叔父様に一礼し、馬に乗って颯爽と去っていく。この姿だけなら、立派な皇子殿下で大公閣下なのに。
「エーデルシュタイン大公閣下は、相変わらずですね。お元気そうで安心いたしました」
「大神官様の祈祷のおかげですわ」
茶番のような会話を楽しみながら、人目を意識して歩いた。皇族と神殿の仲の良さをアピールするのも、政治的に有効な手段よ。神官の中には、他国から派遣された者も多い。貴族家出身者は、どうしても実家の影響を受けるから。間者のような振る舞いは当たり前だった。
「婚約が決まるとお伺いしました」
「あら、耳が早いのですね。ローヴァイン侯爵クラウス殿と、婚約が整いました。神々へのご報告とお礼に参りましたのよ」
「それはそれは。おめでとうございます。神々もお喜びになるでしょう」
扉を閉めて、顔を見合わせる。ここまで情報を流せば、敵も慌てて動くはず。くすくすと笑い合い、腕を組んで仲良くソファーに腰掛けた。レースのカーテン越しの日差しが、明るく室内を照らす。
「どう出るかしら」
「あの連中のやることだ、トリアとエックには敵うまい。義姉上から聞いたが、本当にいいのか?」
「クラウスのこと? 私が選んだのよ。外見、年齢、人格、家庭事情、家格……全てにおいて満足しているわ」
「トリアが望むなら、どんな男でも手に入るだろう。あと二十歳若ければ、立候補したが」
「あら、叔父様が? 素敵ね」
お茶の道具が揃っているので、久しぶりに淹れてみた。少し渋いかしら。
「渋いわね」
「ああ、こっちの缶を開けたのか。差し入れだが、何か入っている。もう飲むのはやめなさい」
さっとカップを片付けられてしまう。綺麗な装飾の施された缶を開けたのは、失敗だったみたい。隣の艶なしの黒い缶を手に取り、叔父様はお湯でしっかり時間をかけて抽出した。美しい色の花茶に口をつける。
「美味しい」
「トリアが来るなら、最高のお茶を用意しないと失礼だからな」
「先ほどのお茶、どなたからの差し入れですの?」
話題を逸らそうとする叔父様に、私は微笑んで疑問を提示する。話を戻されたことで、叔父様は渋い顔をした。眉根を寄せてしばらく黙った後、根負けして答えてくれる。
「兄上の名を騙った……ある神官だ。出身はデーンズ王国だった」
にこりと笑い、話はそこで終わり。そう、やはりデーンズ王国が絡んでいるのね。叔父様にまで手を伸ばすなんて、愚かなこと。リヒテンシュタイン皇族と敵対する意思表示なら、受けて立ちましょう。地図だけでなく歴史からも消し去ってあげるわ。
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