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本編
41.神殿の大掃除も佳境に入り
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「叔父様が、毒で倒れたですって?」
脳裏を過ったのは、あの日のお茶だ。二つあった花茶の缶、片方は地味な艶消しの黒い缶。もう一つは美しい装飾が施されていた。お父様達の名を騙って贈られたお茶は、叔父様が「毒入りだから」と飲むのを止めた。
毒入りと知りながらお茶を片付けず、手元に置いて……罠を仕掛けたのね。お茶を差し入れた者を探り、誰がお茶を淹れるか……すべて調べるためでしょう。
まだ日差しの柔らかなお昼前、自室の窓辺で抱いていたイングリットをアンナに渡す。乳母に連れられて去るイングリットが、大きな声で泣いた。ごめんなさいね、謀略に巻き込む気はないの。
「先触れを出して頂戴。お見舞いに伺いたいと伝えて」
断られるはずよ、そう呟いた。私だけでなく他の家族も見舞いの連絡を送る。皇族が揃って動けば、敵が炙り出しやすくなるわ。
「失礼します。叔父上が倒れた話を聞きましたか?」
エック兄様が忙しなく訪ねてくると、後を追う形でフォルト兄様も顔を出した。
「あの叔父上が毒を飲んだって聞いたぞ。あの人は……うぐっ」
余計なことを言う前に、その口にお菓子を押し込む。用意された焼き菓子は、ジャムの色が鮮やかでお気に入りよ。今はフォルト兄様の口を塞いでおり、さすがに察した彼も黙った。
叔父様に毒の効果がないのは、家族だけの秘密なのに。使用人がいる場所で口にしたらダメでしょう。睨めば、申し訳なさそうに肩を落とした。
「お見舞いの問い合わせをしました。返事があるまで待ちましょう」
ゆったりと裾を捌いて、ソファーに座る。向かいに並んで座る二人の兄は、互いのことを無視していた。仲が悪いのではなく、これが普通なの。タイプが正反対だから、必要以上に関わらないほうが険悪にならない。
ルヴィ兄様が「私だけ仕事をするのはおかしいだろ。まぜろ」と仲間外れを理由に合流するまで。お昼の軽食を挟んで、お茶を飲む頃に返事があった。見舞いは不要――症状に関する記述はない。
「心配ね」
表情を曇らせて、扇を広げる。口元を隠して立ち上がり、歩き出した。
「トリア?」
「気分が優れないので、外へ出ようかと」
「中庭がいいでしょう」
エック兄様が人払いを命じ、おろおろするフォルト兄様が腕を差し伸べる。腕を借りて歩く私を囲む形で、三人の兄も中庭に出た。ここは低木ばかりが植えられており、花壇とベンチがある。美しく整えられた木々は、人が隠れ潜む場所を作らなかった。
ベンチに弱々しく腰掛けた私の足元に、服が汚れるのも気にせずフォルト兄様が座る。隣にルヴィ兄様が腰を落とし、エック兄様も心配そうに膝を突いた。
毒を盛られた叔父を心配する皇妹に、兄達が寄り添う姿に見えるでしょうね。
「叔父様のお茶の缶、お父様達のお名前で届いたそうよ」
「調査は僕が手配します」
「影も使って構わない」
きょとんとしたフォルト兄様が首を傾げる。
「毒だと知っていて飲んだのか? 効かないのに」
「……フォルト兄様、毒が効かない話を外でしてはいけないと教えたでしょう?」
「すまん」
繰り返し、よくよく言い聞かせた。家族の前でなければ、それなりに振る舞える人なのよね。
「神殿の大掃除も終わりそうだ。攻勢に転じるぞ」
ガブリエラ様そっくりの黒い笑顔で、ルヴィ兄様が宣言する。頷いたあと、エック兄様が付け足した。
「先に婚約式を終わらせましょうか」
「そうだな。祝い事優先だ」
私の婚約式や結婚式は、叔父様が直々に祝福すると約束したけれど……どうするおつもりかしら。奇跡の回復を演出するしかなさそうよ?
脳裏を過ったのは、あの日のお茶だ。二つあった花茶の缶、片方は地味な艶消しの黒い缶。もう一つは美しい装飾が施されていた。お父様達の名を騙って贈られたお茶は、叔父様が「毒入りだから」と飲むのを止めた。
毒入りと知りながらお茶を片付けず、手元に置いて……罠を仕掛けたのね。お茶を差し入れた者を探り、誰がお茶を淹れるか……すべて調べるためでしょう。
まだ日差しの柔らかなお昼前、自室の窓辺で抱いていたイングリットをアンナに渡す。乳母に連れられて去るイングリットが、大きな声で泣いた。ごめんなさいね、謀略に巻き込む気はないの。
「先触れを出して頂戴。お見舞いに伺いたいと伝えて」
断られるはずよ、そう呟いた。私だけでなく他の家族も見舞いの連絡を送る。皇族が揃って動けば、敵が炙り出しやすくなるわ。
「失礼します。叔父上が倒れた話を聞きましたか?」
エック兄様が忙しなく訪ねてくると、後を追う形でフォルト兄様も顔を出した。
「あの叔父上が毒を飲んだって聞いたぞ。あの人は……うぐっ」
余計なことを言う前に、その口にお菓子を押し込む。用意された焼き菓子は、ジャムの色が鮮やかでお気に入りよ。今はフォルト兄様の口を塞いでおり、さすがに察した彼も黙った。
叔父様に毒の効果がないのは、家族だけの秘密なのに。使用人がいる場所で口にしたらダメでしょう。睨めば、申し訳なさそうに肩を落とした。
「お見舞いの問い合わせをしました。返事があるまで待ちましょう」
ゆったりと裾を捌いて、ソファーに座る。向かいに並んで座る二人の兄は、互いのことを無視していた。仲が悪いのではなく、これが普通なの。タイプが正反対だから、必要以上に関わらないほうが険悪にならない。
ルヴィ兄様が「私だけ仕事をするのはおかしいだろ。まぜろ」と仲間外れを理由に合流するまで。お昼の軽食を挟んで、お茶を飲む頃に返事があった。見舞いは不要――症状に関する記述はない。
「心配ね」
表情を曇らせて、扇を広げる。口元を隠して立ち上がり、歩き出した。
「トリア?」
「気分が優れないので、外へ出ようかと」
「中庭がいいでしょう」
エック兄様が人払いを命じ、おろおろするフォルト兄様が腕を差し伸べる。腕を借りて歩く私を囲む形で、三人の兄も中庭に出た。ここは低木ばかりが植えられており、花壇とベンチがある。美しく整えられた木々は、人が隠れ潜む場所を作らなかった。
ベンチに弱々しく腰掛けた私の足元に、服が汚れるのも気にせずフォルト兄様が座る。隣にルヴィ兄様が腰を落とし、エック兄様も心配そうに膝を突いた。
毒を盛られた叔父を心配する皇妹に、兄達が寄り添う姿に見えるでしょうね。
「叔父様のお茶の缶、お父様達のお名前で届いたそうよ」
「調査は僕が手配します」
「影も使って構わない」
きょとんとしたフォルト兄様が首を傾げる。
「毒だと知っていて飲んだのか? 効かないのに」
「……フォルト兄様、毒が効かない話を外でしてはいけないと教えたでしょう?」
「すまん」
繰り返し、よくよく言い聞かせた。家族の前でなければ、それなりに振る舞える人なのよね。
「神殿の大掃除も終わりそうだ。攻勢に転じるぞ」
ガブリエラ様そっくりの黒い笑顔で、ルヴィ兄様が宣言する。頷いたあと、エック兄様が付け足した。
「先に婚約式を終わらせましょうか」
「そうだな。祝い事優先だ」
私の婚約式や結婚式は、叔父様が直々に祝福すると約束したけれど……どうするおつもりかしら。奇跡の回復を演出するしかなさそうよ?
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